【独自解説】拘束された“北朝鮮兵”の“尋問”映像から見えた派兵の実態 捕虜になる前に自爆・自決を強要されていた可能性も…「北朝鮮で生け捕りというのは絶対に許されない」今後の情勢を専門家が解説
戦闘が激化するウクライナ情勢。そんな中、“北朝鮮兵”とされる捕虜2人の“尋問”動画をウクライナ側が公開しました。兵士の証言から見えてきた驚くべき派兵の実態とは?そして今後捕虜はどうなるのか?コリア・レポート編集長・辺真一氏の解説です。
■“北朝鮮兵”「ここ(ウクライナ)で暮らしたい」 “尋問”映像公開と自白で死刑の恐れも…「北朝鮮で生け捕りというのは絶対に許されない」
ゼレンスキー大統領はSNSで「我々の兵士がクルスク州で北朝鮮の兵士2人を捕虜にした」と明らかにしました。ウクライナ側が“北朝鮮兵”とみられる2人の捕虜の映像が公開され、一人は1999年生まれで顎と顔面を負傷していて、もう一人は2005年生まれで、北朝鮮ではスナイパーを務めていましたが、今は足に骨折を伴うケガをしているといいます。
Q.あくまでウクライナ側が公開した映像で、北朝鮮側は公式に派兵を認めていませんが、この捕虜に関する信憑性はありますか?
(コリア・レポート編集長・辺真一氏)
「激戦地のクルスク州に兵隊を配属して丸2か月で、やっとウクライナ側が生存者を捕まえた。ゼレンスキー大統領の発表では、4000人近い北朝鮮兵士が死傷しました。そういう意味では、決定的な生き証人という形で、この2人を生け捕りにして、そのうちの若いほうの肉声が公開されたんです。声をじっくり聞いてみると、間違いなく北朝鮮の訛りなので、これが大きな戦果として、こういう形で公開する理由はよく分かります」
2分55秒に及ぶ“尋問”映像の内容ですが、“北朝鮮兵”のベッドの脇に、パンとスープのような食事が置かれているのが映っています。また、拘置所の医師の診断コメントも入っていて、「1人は顎と顔面を負傷しているため、歯科医師が治療を行います。もう1人は足に骨折を伴うケガをしていますが2人とも十分な手当てを受けています」と話しています。
また、2025年1月13日のハンギョレ新聞によると、ケガの影響で兵士は筆談をしていますが、言葉の壁があり、兵士2人は朝鮮語しか話せないため、韓国・国家情報院の支援を受け、朝鮮語の通訳を介して尋問を行っているとのことです。
そして、横たわる兵士の脇には身分証が置かれています。中を開くとロシアの身分証明書になっていて、名前は別人で、生年月日もウソのものでした。兵士の証言によると、「去年の秋にロシアで発行された」とのこと。
Q.この身分証は何のために発行されたものなのでしょうか?
(辺氏)
「理解に苦しむのですが、この兵士たちはロシアの部隊に配属されて一緒に行動しているので、万が一捕まった時に、北朝鮮兵士であることを隠すために保持していたのではないでしょうか。もしくはロシアの内部でしか使えない、例えば配給などで使用するためのものだと思います」
さらに映像内での“北朝鮮兵捕虜”の驚くべき証言です。
Q.ここがどこか分かるか?
(北朝鮮の捕虜)
「(首を横に振る)」
Q.ウクライナだと知らなかった?
(北朝鮮の捕虜)
「(うなずく)」
Q.北朝鮮に戻りたいか?
(北朝鮮の捕虜)
「ウクライナの人たちは皆良い人ですか?ここ(ウクライナ)で暮らしたい」
もう一人の兵士は北朝鮮に帰国したいとう旨を伝えたといいます。
2024年11月にロシアに到着し「1週間ロシア側の軍事訓練を受けた後、戦場に移動した。 “戦争”ではなく“訓練”を受けるために移動していると聞いていた。戦闘中に多くの兵力の損失があった。部隊を離脱後、4~5日間飲まず食わずの状態で捕らえられた」と話しています。
(関西学院大・小西美穂特別客員教授)
「金正恩氏は、北朝鮮の派兵を認めていないわけですよね。その段階で、海外誌では兵士2人の顔が出ている。世界中に顔も出て、本国にいる家族の身の危険もあるし、本人たちも本国に戻ると、粛清や死刑に相当するような人権上の問題がある。さらに『ウクライナで暮らしたい』とまで言っています。しかし一方でウクライナ側の編集も入っているかもしれないので、情報戦という面でも見ないといけないと思います」
Q.家族が人質に捕らわれていることも考えられますよね?
(辺氏)
「そうですね。北朝鮮では“生け捕り”というのは絶対に許されないことです。北朝鮮の戦争映画を見ると、必ず工作員や軍人は、絶体絶命のときには必ず自決・自害をする。そう考えると、こういう形で生け捕りにされ、自白してしまうと、“将軍様”や祖国に迷惑をかける、あるいは裏切ることになる。恐らく北朝鮮に戻るに戻れないと思います」
■捕虜はゼレンスキー大統領にとって取引のための有効カード?「“北朝鮮側に引き渡す用意”がある」
各国メディアによって情報が少し違ってはいますが、韓国の国家情報院によると2024年10月以降、ロシア支援で派兵された“北朝鮮兵”は1万1000人を超えていて、死者は300人超、負傷者は2700人超だといいます。無人機・ドローンなどを使った現代戦への理解不足から、多くの死傷者が出たと分析しています。
さらに戦死した“北朝鮮兵”の所持品から、捕虜にならず自爆・自決するよう北朝鮮当局が命じる内容が見つかりました。また、捕らえられそうになった“北朝鮮兵”は金正恩総書記の名前を叫びながら、手りゅう弾で自爆しようとして、ウクライナ兵に射殺されたという情報も出ています。
そして今後、この捕虜はどうなっていくのでしょうか。ゼレンスキー大統領はSNSで“北朝鮮兵捕虜”について、「ウクライナ軍兵士との交換を条件に“北朝鮮側に引き渡す用意”がある。今後、“北朝鮮兵”の捕虜が増えるのは時間の問題だ」と話しています。
Q.『引き渡す用意がある』としていますが、『交換』するとなると金総書記が派兵したというのを暗に認めることになりますが、『交換』は可能なのでしょうか?
(辺氏)
「ロシアと北朝鮮が公式に認めないかぎりは、この捕虜の引き渡し交換というのは、成立しないです。そうなると、この兵士2人は、宙ぶらりんのまま。そこで、韓国で引き取るという話も持ち上がっています。ただし、ゼレンスキー大統領にとって、これは有効なカードなので、北朝鮮との取引材料に使いたいわけです。実質的には戦争で捕らえたので、そのまま韓国に引き渡していいのかなど、これから色々な駆け引きが行われていくと思います」
一方、帰国を望まない“北朝鮮兵”に対しては、別の選択肢もあります。
(辺氏)
「ウクライナは国際社会の世論を喚起し、支援を得るため“北朝鮮兵”の捕虜らの記者会見も検討するのではないか」
Q.記者会見の可能性はありますか?
(辺氏)
「ゼレンスキー大統領は公にやると公言しています。すでにウクライナで取材をしている外国のメディアを含めて、そう遠くない時期に、記者会見が開かれます。この北朝鮮兵士が、これから多くのことを語っていき、その結果、より詳しい北朝鮮の派兵の実態が見えてくると思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年1月15日放送)