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「笑顔になれるのかなと何度も思った」息子を奪った飲酒運転事故から14年 母が出した"答え"

2025年2月7日 19:34
「笑顔になれるのかなと何度も思った」息子を奪った飲酒運転事故から14年 母が出した"答え"

福岡県粕屋町で、高校生2人が飲酒運転の車にはねられ死亡した事故から、2月9日で14年です。息子を亡くした母親は今も活動を続けています。事故の遺族、そして母親として無我夢中で駆け抜けてきた一方で、ようやく自分の人生と向き合い始めています。

■山本美也子さん
「いくつですか?」
■宅配ドライバー
「ことし26です。」

山本美也子さんの元を訪れた宅配ドライバーの男性。

■宅配ドライバー
「遊んでもらっていました。ありがとうございます。また来ます。」

■山本美也子さん
「『寛大(かんた)君に遊んでもらっていました』っていう人でした。」

最近は、生前の長男との思い出を気軽に話してくれる人が増えたといいます。

美也子さんの長男、寛大さん。

■美也子さん
(寛大さんの写真に)「きょうは寒いです。無事に終わりますように。」

事故から14年。2011年2月9日、粕屋町の歩道を歩いていた寛大さんと友人の皆越隼人さんは、飲酒運転の車に後ろからはねられ、命を奪われました。高校1年生だった2人は、クラスを引っ張るムードメーカー的な存在でした。

■美也子さん
「寛大が博多高校で入っていた部活はボランティア部だったんです。人に対して思いやりのある子だったのかなと思います。」

寛大さんが高校生ながらに感じていた「誰かのために」という思いが、美也子さんの背中を押しました。

■美也子さん
「飲酒運転撲滅にご協力ください。」

事故からまもなく美也子さんが始めたのは、飲酒運転の撲滅を呼びかける活動です。

もう誰も飲酒運転の事故に巻き込まれて命を落とすことがないように。これからハンドルを握る若い世代にも訴えてきました。飲酒運転がゼロになると信じ、10年を活動の区切りと考えガムシャラに走り続けました。

しかし、飛び込んでくるのは、いまだ飲酒運転で命が奪われたというニュースです。

■美也子さん
「こんな活動しても意味がないんじゃないかなと何度も何度も思いますが、やらないと、またあした事故が起きて命がなくなったら、それこそもっと悲しいです。助けられた命がたくさんあるのであれば、それは一番うれしいことです。」

目を背けてはいけないと、遺族として、そして母親として、これからも向き合い続けることを決めました。

これまでできなかった、自分がやりたかったことにも少しずつ時間を割くようにしました。

■美也子さん
「おはよう。きょうもよろしくお願いします。」

活動の拠点である福岡市東区の「はぁとスペース」。障害などが理由で企業で働くことが難しい人に働く機会を提供する「就労継続支援B型事業所」を立ち上げました。

寛大さんが事故に遭う1年前から、美也子さんは夫の浩之さんと車いす優先駐車場のマナーアップを呼びかける活動をしていました。

■美也子さん
「障害者と健常者が楽しく生活できるスペース作りを目指して『はぁとスペース』を頑張っていけたらなと思ってます。」

いつか福祉の事業所をつくりたい。それが自分のやりたいことであり、目標でした。

■美也子さん
「前しか向いてこなかったので、振り返ることとかしてこなかったんですけど、やっと、すごくちょっとだけ。」

コーヒーのドリップバッグを作ったり、拭き掃除で使う布をたたんだり。きちっとしすぎず、利用者が気楽にできたらと「ふんわり工房」と名付けました。

■利用者
「楽しいです。嫌なことがあってもここに来ると忘れられるので。」

お昼になると手作りの昼食もふるまいます。

■美也子さん
「ここに来たらおいしいご飯が食べられる。お腹いっぱいになって元気が出る。みんなと同じものを食べて笑顔になるのが一番かなと思います。」

事故から10年となったころに計画し始めたこの活動は今、ようやく軌道に乗り始めました。

■美也子さん
「人はみんな幸せになれるんですよとよく言うのですが、幸せになることを忘れている人が世の中いっぱいいるんです。私自身も被害者遺族としてそうでした。笑顔になれるのかなとか、これから先、生きていていいのかなとか、何度もそう思いました。私のような被害者遺族でも、加害者の経験をした人でも、障害があっても。どんな人でも幸せになれる権利がある。それを伝えていきたいなって。」

美也子さんが出したその答えは「はぁとスペース」の新しいコンセプトになりました。

この日、美也子さんは大川市の高校にいました。この春に卒業する高校3年生に講演を行うためです。14年で積み重ねた講演は1500回を超えました。

■美也子さん
「自分の命も大事。もっと大事なのはほかの人の命。自分の命もほかの人の命も大切にできる。そんなまちや皆さま方になっていただければと思います。飲酒運転ゼロ。」

伝えるのは、我が家で起きた事故のこと。飲酒運転が人の命を奪うこと。そして、自分の人生を大切にしてほしいということ。

■美也子さん
「私は若い世代の皆さんにお話することが、一番社会が変わると思っているので、その場をいただけるのはありがたいんです。」

そうすればきっと、大人になって飲酒運転なんてできるはずがない。美也子さんは信じています。

最終更新日:2025年2月7日 19:41
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