特集「キャッチ」【世界初】「低軌道衛星」を使った遠隔ロボット手術 成長する宇宙産業は医療の分野にも 福岡で操作して福島で手術
8月、北九州市で開かれた「九州宇宙ビジネスキャラバン」。ロケット開発事業を手がける実業家の堀江貴文さんや、宇宙飛行士の若田光一さんが参加しました。それぞれ語ったのは、宇宙産業への期待感です。
■宇宙飛行士・若田光一さん
「地球低軌道が世界で大きな経済的、社会的価値をもたらすということを、私たちは想定しているわけであります。」
■八女市出身・堀江貴文さん
「われわれは何をしなければいけないのか、その一つは宇宙産業のサプライチェーンなんだと思います。」
ロケット開発や人工衛星を活用した通信サービス、宇宙旅行まで。宇宙産業に民間が続々と参入し、世界中で盛り上がりを見せています。その活用の場は、私たちにとっても身近な医療分野にも広がっています。
8月、福岡市にある福岡大学病院が会見を開きました。
■福岡大学病院 最先端ロボット手術センター・佐藤寿彦センター長
「かなり難しいレベルのものが、かなり安価で実現できたのが大きな一歩だったかなと思っています。」
“世界初”という遠隔手術の実証実験の成功が報告されました。
その“世界初”の実験はことし7月、福岡から1000キロ離れた福島県郡山市で行われました。肺がん手術を想定し、国産の手術支援ロボット「サロア」を使ってブタの肺の一部を切除します。
■佐藤医師
「距離の離れたところでも、問題なくできることが分かればいいと思います。」
同じ日、福岡市城南区の福大病院には1台の機械が置かれていました。この機械を操作して、1000キロ離れた福島のロボットを動かします。
■福岡大学病院・上田雄一郎医師
「めちゃめちゃ不思議でしょ、ただのカンファレンス室ですからね。こんなところからできるのは違和感しかないです。」
そして、手術が始まります。
■上田医師
「ちょっと動かしていきますよ。」
ロボット手術は、体内に入れたカメラを見ながらアームを操作します。細かい動きが可能で、精密な手術ができるのが特徴です。
■上田医師
「肺静脈の周りを今、はく離しています。」
スペースXの通信衛星「スターリンク」を活用
従来の肺がん手術の場合、最低でも15センチ程度、胸を切開する必要がありました。しかし、ロボット手術はおよそ3センチと1センチの穴を数か所開けるだけです。患者への負担が小さいのがメリットです。
福岡で操作し、福島で動くロボット。医師の繊細な手の動きを1000キロ先のロボットにどのように伝えているのでしょうか。
■打ち上げ
「3、2、1、and lift off」
今回の実証実験に使われたのは、アメリカの起業家、イーロン・マスク氏が率いる、スペースXの通信衛星「スターリンク」です。およそ6000機が宇宙に打ち上げられているといいます。
福大病院での操作情報は、専用のアンテナから高度550キロという低い軌道を飛ぶ人工衛星に伝えられます。さらに、複数の衛星を経由して福島のロボットに送られる仕組みです。福島側でロボットが動いた情報は、逆の経路を通って福岡側に伝えられます。
これまで、高度3万キロ以上の高い軌道の人工衛星などを使った遠隔手術実験は行われたことがありますが、通信のタイムラグや高額な通信費用が課題でした。比較的費用の安い低軌道衛星を使った、今回の遠隔手術は世界で初めての試みです。
■佐藤医師(福島県の手術室)
「よっしゃ、いいぞ、いいぞ、心臓側をちょっと開こう。」
■上田医師(福大病院)
「心臓側に、はい。」
上田医師が福岡で操作し、佐藤医師が福島でサポートします。
■佐藤医師
「左手で引っ張る。」
■上田医師
「左手で引っ張る、はーい。」
■佐藤医師
「左上に、そうだ、あんまり上に持っていくな。」
連携が重要な遠隔手術で、課題も浮き彫りになりました。
■上田医師
「うわ、乱れています、画面が。 ごめんなさい、ちょっとお待ちください。」
画面の乱れ。さらに。
■上田医師
「止まりました。」
■佐藤医師
「なんか止まってんの、どうしたん。」
この日は、九州北部地方に線状降水帯が発生しました。天候の影響やロボットの設定の不具合が原因とみられる、通信の遅れがありました。
■佐藤医師
「取れました。終わりました。」
開始からおよそ3時間後、手術は無事、成功しました。
■上田医師
「もっと遅延が長い秒数、起こるのではないかと思ったのですが、普段と似たような感じで取ることができました。」
操作の際に生じたタイムラグは平均0.1秒ほどで、手術に支障のない程度の遅れでした。
通信コストは
今回の遠隔手術でかかった通信コストは、アンテナの費用なども含めておよそ96万円です。福大病院によりますと、これまで行われてきた遠隔ロボット手術の実証実験に比べ、通信費用を大きく抑えることができました。
■佐藤医師
「例えば、一日に2例の手術が精いっぱいだったのが、3例、4例できるかもしれません。外科医に“なり手”が少ないと言われたりします。そんな中、一人一人の外科医の生産性を上げるというのもあるかもしれません。」
ただ、実用化に向けては、遠隔治療のガイドラインの整備やセキュリティの強化など、安全面の課題を解決しなければなりません。
どこでも格差のない医療が受けられるように。外科医不足の中、期待が寄せられる“遠隔医療”の発展へ。大きな一歩が福岡から踏み出されました。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年9月4日午後5時すぎ放送