特集「キャッチ」吃音と向き合う高校生の挑戦 一日限定のカフェ店員に 両親に伝えた思い 福岡
■福工大城東高校3年・西 隼ノ丞(にし・じゅんのすけ)さん
「オレンジジュースです。アイスティーでございます。」
福岡市東区の高校にオープンした一日限定のカフェ。笑顔で接客していたのは、高校3年生の西隼ノ丞さん(18)です。このカフェには、ある特徴があります。
■西さん
「さ…差し支えなければ。」
西さんを含め3人の店員全員に、話し言葉が滑らかに出ない「吃音」がある「注文に時間がかかるカフェ」なんです。
西さんは、カフェが開かれた福岡工業大学付属城東高校に通っています。
5歳の時、吃音があると診断されました。言葉がうまく出ないことを自覚したのは、中学生の時です。今でも忘れることのできない、つらい経験をしたといいます。
■西さん
「全校生徒の前で話す機会があって、原稿(1枚半を)読むのに15分とか20分ぐらい一人でかかった。『遅いな』とか『まだかいな』みたいな。」
そんな息子の将来に、母親の真紀さんは不安を募らせました。
■母親・真紀さん
「吃音があって口数が少なくなって、お友達がなかなかできなかったり、自分の思っていることを伝えることができなくなったらどうしようって。」
最新の研究で、子どものおよそ10人に1人が、3歳までに吃音の症状が出たことがあるとの結果が示されました。自然に症状が消える場合も多いとされていますが、治療法は確立されていません。
西さんの場合は、言葉が出ずに間が空いてしまったり、最初の音を繰り返したりする症状が出ます。
■西さん
「あの…メロンパン。」
高校に入ると、積極的に人と話すことはなくなっていました。それでも、西さんはありのままの自分を知ってもらおうと勇気を振り絞ります。
■同級生・新里光さん
「クラス替えの最初に西くんが(吃音のことを)自分から発表して。特別扱いをするわけでもないし、他の人と同じように接したいし、吃音を知るきっかけにもなって。」
自分が一歩踏み出すことで、周りの理解も広がる。そんな思いを強くした西さんは、次の挑戦として「注文に時間がかかるカフェ」に参加しようと決意しました。
このカフェは、吃音がある若者たちに接客を通じて自信をつけてもらおうと、3年前から全国で開かれています。
開店時刻の午前11時。最初に来店したのは、西さんの両親でした。
■西さん
「これがメニュー表なので、ここから選んで。」
■父・耕一さん
「アイスコーヒー。」
■母・真紀さん
「オレンジジュース。」
■西さん
「少々お待ちください。」
注文を取り終えた西さんから、さらに言葉がありました。
■西さん
「保育器に2か月間入っとったやん。ここまで育ててきてくれて、ありがとうございました。」
早産で、生まれた時の体重は1587グラムでした。中学生になると吃音に悩み、塞ぎ込むこともありました。いつもそばにいてくれて、ありがとう。普段は恥ずかしくて言えない、両親への感謝の気持ちです。
■西さん
「高校入ってもいろいろあったけど、こうやって復活して。これからもよろしくお願いします。」
■父・耕一さん
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
■母・真紀さん
「本人が大きくなって、吃音があっても『ありがとうございます』って初めて言ってもらって、とてもうれしかった。自分の道を強くこれから生きていってもらいたいと思っています。」
その後、カフェには、吃音がある子どもやその保護者と積極的に言葉を交わす西さんの姿がありました。
■西さん
「何年生?」
■子ども
「4年生。」
■西さん
「高校に入って人も多くなって苦労した。」
■西さん
「(カフェに参加して)すごく楽しかったです。」
カフェに参加して2か月。西さんは入学試験の面接を受け、大学に合格しました。将来の目標は、医療機関などで患者のリハビリを支援する作業療法士です。
■西さん
「吃音で結構苦しんできた時もあったんですけど、この経験を共有して頑張っていきたい。」
西さんは、吃音と向き合いながら一つ一つ扉を開いてきました。その経験は、夢や目標に向かう道の途中に困難が訪れた時、きっと人生の支えになるはずです。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年11月13日午後5時すぎ放送