特集【キャッチ】「俺、送っていきます」親と暮らせなくなった子どもの居場所「土井ホーム」もう一つの家族として支え合う 北九州市
この日の夕食は、ちょっとだけ苦いピーマンの肉詰めです。
北九州市若松区にある「土井ホーム」です。この家に身を寄せているのは、虐待、育児放棄など様々な理由で親と暮らすことができない子どもたちです。
親代わりとなり、自宅に受け入れているのは土井高徳さんです。土井さんが一番大切にしていることは。
■土井ホーム ・土井高徳 施設長
「胃袋をまず満たしてあげる。心を満たす前に胃袋だってね。平均身長・体重からしたらハンディのある人が来ますから、まずしっかり食べさせる。」
「土井ホーム」では今、小学生から高校生までの6人が暮らしています。このような施設は「ファミリーホーム」と呼ばれ、児童養護施設と比べ人数が少ない分、子ども一人一人に目が届きやすい家庭的な環境が特徴です。
高校2年生の優人さん(仮名)は、みんなの“お兄さん”のような存在です。優人さんが母親の元を離れたのは4年前、中学1年生の時でした。
■高校2年・優人さん(仮名)
「心の底では早く帰ってきてくれ、ご飯を食べさせてくれとずっと思っていた。」
仕事の関係もあり、母親は優人さんに向き合ってきませんでした。そんな中、突然自宅に児童相談所の職員がやってきました。
■優人さん(仮名)
「お母さんが連れていってという一言で、児童相談所が連れて行くので。(児相が来た時は)殴り倒してやろうと思いました。初対面の人が結構無理なので、無理やり連れて行かれるという、殴り倒そうと思ったけど。手を出すと今度は俺がやばくなるのかなと。」
子どもたちへの虐待は後を絶ちません。2022年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は21万件を超え、過去最多となりました。
未来を担う子どもたちを守りたいと、土井さんは20代の頃、親と暮らせない子どもを受け入れ始めました。ただ、大きな課題に直面します。
■土井 施設長
「児童相談所から預かってきた時に、虐待の後遺症が非常に激しいなと思って。これをどう理解していくかを研究しないと、この子たちを経験値だけで対処できないと。」
そこで、49歳の時に大学院に入学し、児童福祉を学んで博士号を取得しました。そして、専門的な知識とともに育てる「治療的里親」と呼ばれるようになりました。これまで支援した子どもは200人以上に上ります。
■職員
「おはよう。気分は悪くない?」
■子ども
「はい。普通は4時とかに目が覚めるのに、きょうは6時だった。」
「土井ホーム」では、毎朝6時半に起きるとゴミ出しや洗濯物を干すなど、お手伝いをするのが約束です。家庭での生活スキルを身につけさせ、自立につなげる狙いです。
■優人さん(仮名)
「(来た時からできた?)ノーです。来た当時は『そこじゃない』『どこ干してるの』とずっと言われていた。」
■職員
「自分たちが独立した時に、なんでもできるようになっておかないとね。」
まもなく学校に行く時間、職員の女性が、ある子どもの部屋の前に向かいました。
■職員
「ちょっと開けていい?」
1人の子どもが、学校に行くのを渋っていました。「土井ホーム」の子どもが学校を休んだり、体調不良で早退したりするのは珍しいことではありません。土井さんは、かつての「心の傷」が影響しているのではと考えています。
■優人さん(仮名)
「俺、送っていきます。」
優人さんが進んで、学校まで送ってくれることになりました。
■優人さん(仮名)
「俺のこと気にせんでいいけんね、いつも間に合うけん。リラックスよ、リラックス。」
励まし続ける優人さんの姿は“お兄さん”そのものです。互いに支え合う大切さを、ゆっくりと学んでいく子どもたち。
■土井 施設長
「どんなにいい言葉をかけても、ある程度の時間をおいてあげないと。心の中で熟成の時間が必要。問題を解決するということに一生懸命にならずに、ある時間を一緒に伴走してやるという気持ちが大事かな。」
今、土井さんが力を入れているのが地域との交流です。2023年から始めた「子ども食堂」では、地元の子や高齢者も参加し、この日はみんなでカレーライスを食べました。
■優人さん(仮名)
「こういう機会もありなんじゃない。楽しいじゃないですか。いろんな人と食べて笑い合って話し合って、楽しくできるから。」
ご飯を食べたら、一緒に射的をしたり、けん玉の回数を競いあったり。みんな自然と笑顔がこぼれます。
親と暮らせなくなった子どもたち。「土井ホーム」はもう一つの家族として、そんな子どもたちの居場所を用意しています。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年10月30日午後5時すぎ放送