「動いているものは全部コウモリ」トンネル内に4万匹 潜入調査と地元農家との共存
みなさんはコウモリと聞いてどんなイメージをお持ちですか?熊本に国内でもトップクラスとされるコウモリのすみかがあると聞いて、KKTの取材班が専門家の調査に同行しました。
【VTR①】
8月、菊池市に集まったのは、熊本でコウモリ調査を行う野生生物研究会のメンバーと東京大学大学院の学生らの調査隊。
向かったのは、国道387号沿いの全長約6キロにわたる農業用水路「古川兵戸井手」です。江戸時代の1835年、菊池川から離れた集落に飲み水や農業用水を引くためにつくられ、今でも農業用水路として使われています。
今回は上流にある全長約300メートルの「1号トンネル」を調査します。約4万匹のコウモリが暮らす県内最大の「ねぐら」とされていましたが…
老朽化のため県が去年11月からコンクリートで補強。コウモリが住む環境を守るため、天井の岩盤はそのまま残しました。
■熊本野生生物研究会・坂田拓司会長
「3月末まで行われていた水路のトンネル内の補修工事。その完成後コウモリが出産に戻ってきているかを調査します」
果たしてコウモリは、帰ってきているのか。実態調査にカメラが入ると…。
■吉田佳記者
「コウモリがバサバサと音をたてて出てきます」
すぐに大量のコウモリと遭遇しました。すかさず網で捕獲したのは、東大大学院でコウモリの調査を行う学生、秋山さん。いったん外に出て確認すると…。
7月から8月にかけて出産期を迎える全長約40センチのユビナガコウモリ。このトンネル内は湿度が100%に近く外敵もいないため、子育てに集まってくると考えられています。改めて調査を進めると、見えてきたのは…。
■熊本野生生物研究会・坂田拓司会長
「これは水路脇に水を引くための側溝ですね。斜面の脇に民家がありまして。その先に田んぼがありますよね。そこに水を引くために、所々に側溝が作ってあります」
約200年前からそのままの形で使われている水路。さらにトンネルの奥へ進むと…。
■吉田佳記者
「真上にコウモリの集団がいました。コウモリが1か所からどんどん吹き出るように飛んでいきます。動いているものは全部コウモリです」
数十センチ四方に固まっていた約1000匹の集団です。侵入者に驚いたのか、パニック状態で飛びまわります。
調査では、1平方メートルあたりのコウモリの数を確認。トンネル全体では工事の前と変わらない4万匹ほどが生息していると推計されました。
■熊本野生生物研究会・坂田拓司会長
「これだけの数が戻ってきてくれて本当に良かったというのが一番の私の気持ちです」
一方、秋山さんはDNAを調べるためコウモリの皮膚の一部を採取していました。
■東京大学大学院 農学生命科学研究科・秋山礼さん
「日本で繁殖場所が13か所しか見つかっていなくて、私の研究は全部の地点を回ってそれぞれがどういう遺伝子型を持っているのかを調べています」
200キロ以上とも言われるユビナガコウモリの行動範囲。他の地域で採取したDNAとも比較して、今後詳しい生態を調べます。
【スタジオ】
(畑中香保里キャスター)
取材した吉田記者です。コウモリは出産のためにこのトンネルに集まってくるんですね。
(吉田佳記者)
毎年7月前後に出産のためにやってきてここで子育てをし、9月頃になると九州各地に旅立つサイクルを繰り返していると考えられています。取材して驚いたのはコウモリの数だけではなく、このトンネルが全国でも屈指の生息地として専門家たちが注目している場所だということでした。
そんなコウモリですが、実は人間にとってもある役割を果たしてくれているというんです。
【VTR②】
今回調査したトンネルの周辺には、水田が広がっています。
井手の水門を管理し、農地へ流す水の量を調整している地元農家のみなさんに、コウモリについて聞いてみると…。
■地元農家の女性
「害はありませんので共存するしかないですね」
■地元農家の男性
「コウモリは大変な益獣(えきじゅう)だと思います」
男性が口にした「益獣」という言葉。野生生物研究会の坂田さんがその意味を教えてくれました。
■熊本野生生物研究会・坂田拓司会長
「コウモリは主に昆虫などの虫を食べています。昆虫の中には農作物を荒らすような害虫等も含まれていますのでそういう意味では『益獣』人の役にも立っているという捉え方もできる」
害虫を食べて、農業被害を減らす。コウモリの新たな一面を知る機会となりました。
【スタジオ】
(吉田佳記者)
コウモリによる騒音やにおいを指摘する意見があることも事実ですが、その存在を受け入れ共存しようと考える地元の人たちの声を聞いて、コウモリに対するイメージが変わった気がしました。
今回調査にあたった熊本野生生物研究会の坂田拓司会長はコウモリについて、「自然界において大きな役割を果たしている生物の一つ。そういう意味での重要性を認識していただきたい」と話しています。これからもうまく共存していきたいですね。