【特集】ムール貝からヒント?水の中でもくっつく接着剤の研究 医療分野での応用にも期待
水の中や私たちの体の中など濡れている環境でも機能する「接着剤」について。
外科手術など医療分野での応用が期待されているが、ある意外なモノが開発のヒントになっていた。
「いただきます!噛めば噛むほど貝の濃厚な旨味が広がります。実はこの貝ある技術開発に一役買っているんです!」
東北大学青葉山キャンパスの学際科学フロンティア研究所阿部博弥准教授(33)。
阿部博弥 准教授
「ムール貝という海の中の生物からヒントを得た。水中でもくっつく接着剤を作りました」
貝が海辺で石などにビッシリとくっついているのはなんとなく想像がつくだろう。
その中で、ムール貝の場合はこの髭のような部分「足糸」というそうなんですがこの接着力がポイントで、阿部さんはその化学構造に注目した。
あまり聞いたことはないかもしれないが、「カテコール」と呼ばれる構造が、水の中でもくっついていられる秘密だという。
この構造を持つ液体を作った阿部さん。さらにもう1つのアイデアを加えた。
阿部博弥 准教授
「普通の環境に置いておくとトロトロしているんですけど温めると溶液全体が白く硬くなる特性を持っている特殊な溶液を使っています」
液体状の接着剤をドライヤーで温めると白く濁りはじめ、次第に固体に変わった。
阿部博弥 准教授
「35度より低い体温より低い温度ですと濡れた表面にやさしくくっつく。体温よりも高い35度以上ですと、強く接着することができまして、その差も1000倍になる強い接着を示す」
「温度の上げ下げで接着力が変わる性質」と、「ムール貝の足からヒントを得た構造」。
これを特殊な方法でかけ合わせて完成させたのが『水中接着性ハイドロゲル』。
黒色で、固体と液体の中間ゲル状になっている。
40℃の温水の中でも手首にピタッとついて決して離れないのだ。
山形県酒田市出身の阿部さん。
研究者になるきっかけは数学の授業だった。
阿部博弥 准教授
「高校の時山形の高専にいたんですけどその時の数学の先生がフィボナッチ数列という数列を教えてくれまして、例えばヒマワリの種の並び方とか自然の中に科学が潜んでいるんだよっていうのを教えてもらった」
「フィボナッチ数列」とは、イタリアの数学者が示したある規則性に基づく数列のこと。
びっしりときれいに埋まっている種の配列にも通じるものがある、とされている。
このような自然界に潜む科学に阿部さんは興味を持ち、ムール貝から着想を得て水中接着剤の開発にたどり着いたのだ。
さあここで問題。
こちらは「注射針」。
できるだけ痛みが少ない方が嬉しいと思うが…その痛みを抑えるために私たちの身の回りの生物からヒントを得て開発が進められている。
その生物とは?
正解は「蚊」
刺されても気づかないことが多い。
蚊の針の構造をヒントに痛みを抑えるべく開発が進んでいるそう。
このように生き物の構造を新たな開発に活かす学問は「生物模倣」というそうだ。
阿部博弥 准教授
「生物が何千万年何億年と進化をかけてたくさん学んで色んな機能を出してきた。そこからヒントを得ることによっていきなり近道ができることになる」
水の中で使える接着剤はすでにあったが、身体の組織を傷つけずに安全にはがせるものは少なかったそうで、温度の上げ下げでくっつく力を変えられるという今回の研究が進めば、皮膚や組織の傷を元に戻す治療への応用が期待できるという。
阿部博弥 准教授
「すごい特徴を持った生物が世の中にはこんなところに潜んでいるのかというのがありますので、その発見と今持っている技術を組み合わせることでさらにすごいものが作れた時に非常に嬉しいなと思います」