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人口250人の町の“郵便局長”は元商社マン! Uターンして20年…過疎化進むふるさとへの情熱

2024年7月10日 19:10
人口250人の町の“郵便局長”は元商社マン! Uターンして20年…過疎化進むふるさとへの情熱

愛媛県宇和島市から車で50分、三浦半島の先端に位置する人口250人ほどの蒋渕地区。

ここに蒋渕唯一の郵便局、宇和海郵便局があります。

清家さん:
「あれ郵便船です。戸島と嘉島を配達して荷物を預かって戻ってきています」

清家裕二局長53歳。蒋渕出身です。

離島も管轄する宇和海郵便局は、全国に2か所しかない郵便船を持つ珍しい郵便局です。

入り組んだ半島の先にある蒋渕。小学生は3人…中学校やコンビニなどはなく、人口の流出は“必然”となってしまっています。

清家さんは関東の大学を卒業後、東京の総合商社に勤めていました。

清家さん:
「代々ありがたいことに(清家家は)局長をこの地でさせていただいてて、父がやめるタイミングで募集があったので」

10年間勤めた会社を辞め、20年前に、郵便局長として蒋渕に帰ってきました。

清家さん:
「結構特殊な(郵便局)、もともと『郵便船』があるのがかなり特殊なんですけど、地域が小さいこともあり(地域と)かなり近い」

「特殊な」郵便局であり…

郵便局員:
「(局長が)月に郵便局にいるのは1日、2日くらい」

清家さん:
「いつでも手を挙げる準備はできている」

地元のためならなんでもやる。清家さんもまた、「特殊な」局長なのです。

廃校を改装!地域と東京をつなげる“地域イノベーション拠点”に

この日、清家さんが訪れたのは、蒋渕から30キロほど離れた宇和島市内の旧・石応小学校。10年以上前に廃校となっています。

校舎の中に入ると…廃校とは思えないおしゃれ空間。去年、日本郵便と東京の大手IT企業「ネットイヤーグループ」、そして、宇和島市が協定を結び、旧・石応小学校をリノベーションして地方と東京がつながるスペース、地域イノベーション拠点にしようと進めています。

ネットイヤーグループ 花田直也さん:
「今年の1月に東京からすぐそこの古民家に引っ越してこっちで生活してます」

このプロジェクトを仕掛けた一人が清家さんです。

清家さん:
「郵便局への信頼感とか地域の人の認知があるので」

2人で打ち合わせを進めていたところに来客が…宇和島市の岡原市長です。

岡原市長:
「(清家さんとは)高校時代の同級生。彼自身がハブみたいなところがあって、彼を経由して次の人間を紹介してもらったりとか、そういった意味でキーマンだと思います」
清家さん:
「キーマンは言い過ぎじゃない(笑)」

日本郵便が社として進めている地域活性化。清家さんは、いち早くそれを実践している郵便局長なのです。

動く郵便局長、次に訪れたのは宇和島市役所。

清家さん:
「郵便局のサービスで見守りサービスというのがあって、スマートスピーカーと連動してやるというのがありまして」

一人暮らしの高齢者が多い蒋渕。宇和海郵便局は、市から委託を受けて、リアルとオンラインの両方で、お年寄りの見守り活動をしています。このオンラインでの見守りシステムが、今年の春、国のデジタルコンテストで内閣総理大臣賞を受賞しました。

宇和島市高齢者福祉課 岩村正裕課長:
「すぐフットワーク良く行ってもらうことが最大の強みだと思ってますので、本当に頼りになっていまして助かっております」

商品開発から海ゴミ拾いまで…仲間たちと立ち上げた企業組合

商社に勤めていた際、蒋渕に帰るつもりはなかったという清家さん。

「しんどかったですけどやりがいもあったので」

20年前に蒋渕に戻り、衰退しているふるさとの姿を目の当たりにしました。何か自分にできる事は無いか、Uターン直後に、地元の幼馴染たちと立ち上げたのが地域活性化を目指す企業組合「こもねっと」です。

清家さん:
「ここは『こもねっと』の加工場で、きょうはタイの一夜干しの加工をする」

タイをさばくのは「こもねっと」の職人こと、高木元さん。

清家さん:
「簡単そうに見えるけどすごいスピード。こんな簡単にはできないです」
高木さん:
「この仕事しだしてタイを捌きだしました」

高木さんは「こもねっと」で、地元の食材を使った商品開発を担当しています。

かつてこの加工場には、「こもねっと」が運営するレストラン「こもてらす」が併設していました。しかし、スタッフの高齢化とコロナの影響で一昨年、やむなく閉店しました。

清家さん:
「せっかく目に見える形で地域に貢献できる所だったんですけど」

清家さんの妻・千鶴子さんです。「こもねっと」のメンバーでもあります。

清家さん:
「東京で働いていた時代に出会って」

長野県出身の千鶴子さん。

千鶴子さん:
「何回も断ったんですけどね。そんな遠くには行きたくないって(最後は)押し切られて」

初めは渋々ついてきたこの地、今では…

千鶴子さん:
「もう快適ですね」

「こもねっと」は蒋渕の海を守るため、船では上陸できないような海岸のごみの調査や回収を行っています。たった10分の作業で、カヤックいっぱいのゴミが集まりました。

5年前に作った「ホリバタ」は若者たちの居場所に

動く郵便局長、清家さん。打ち合わせに向かったのは…

女子高生:
「毎日来てます」

卓球に汗を流す女子高校生に。

男の子集団:
「一応、高3です」
「受験はまあ…うーん」

健康麻雀にいそしむ男子生徒。

宇和島市中央公民館 西尾祥之さん:
「中学生から30代まで使える場所」

学校でも、家でもない、たまり場。通称「ホリバタ」。ホリバタは、5年前に市が設置し、“騒いでも、勉強してもいい”今では、宇和島の若者たちの居場所になっています。

「ホリバタ」の立ち上げ当初から関わってきた清家さん。自らの人脈を活かし、「ホリバタ」で、夏以降に開催予定の新企画にむけ準備中です。

“情熱”で走り続けた20年…たどりついた「一住民としての思い」

長い一日の終わりは、仲間との晩酌。地域のために立ち上げた「こもねっと」は、ほとんどのメンバーが都会からのUターン組。共通する原動力は、蒋渕を思う“情熱”です。

メンバー:
「養殖業がまだまだ現場アナログなんで、そこをなんとかしたい」

「こもねっと」開発担当 高木元さん:
「本当にリアルに、画面越しではなくて電波越しではなくてリアルな体験を通してファンをつくっていける仕組みをつくっていきたい」

清家さん:
「まったく計算していない20年だったなと思うんですけど、それが結果的にいろんな人とつながったりとか、勉強になったなと感じましたよね」

“情熱”で走り続けた20年。“人と人をつなげる”ことが、衰退していくふるさとに新たな価値を見出すヒントになるのかもしれない。清家さんが20年でたどり着いた答えです。

清家さん:
「郵便局長としてというよりも蒋渕の一住民として、蒋渕に生まれた人間として、じゃあどうやるか、どういう地区になってほしいかという中で、郵便局長としてどうこうというよりも、蒋渕の人として郵便局をどう使うか。今までもきっとそうだったし、これからもそうしていきたいなと思ってます」

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