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水際対策緩和へ…岸田首相が苦悩するワケ

2022年2月16日 22:56
水際対策緩和へ…岸田首相が苦悩するワケ

「G7の中で最も厳しい対策」と言われる日本の水際対策。留学生やビジネス関係者なども含め、外国人の新規入国は原則停止となっている。この岸田政権肝いりの水際対策の緩和が17日に発表されることとなった。岸田首相が決断に至ったワケとは。

■「G7の中で最も厳しい対策」を決定

「外国人の入国については11月30日午前0時より、全世界を対象に禁止をいたします」

2021年11月に岸田首相が表明して以降、留学生もビジネス関係者も原則停止となっている外国人の新規入国。松野官房長官は2月15日の会見で、「在留資格の事前認定を受けており、日本へ入国できていない外国人留学生は、2021年末時点で約15万人となっている」と明らかにした。

その水際対策が、3か月ぶりに緩和されようとしているが、岸田首相がその判断に至ったワケは。

■全世界からの入国停止翌日にオミクロン株感染を確認

外国人の日本への新規入国を原則停止する。

この思い切った決断の背景を首相側近は「岸田首相は総裁選の時からずっと、『常に最悪を想定して対応する』『コロナ対策は岸田政権の最重要課題だ』と話していた。今回のケースで最悪を考えれば、オミクロン株の感染力と毒性が想定以上で、ワクチンが効かず、世界中で感染が拡大することだ。それを想定すれば、自ずと世界からの渡航を禁止することになる」と解説する。

発表当日の夜、岸田首相は「小出しにしてだんだん引き締めるというのではダメだ。まずは全部閉める」と周辺に語っていた。

発表翌日の11月30日、国内初となるオミクロン株への感染が確認された。感染したナミビアの外交官が入国したのは発表前ではあったものの、入国前の検疫で陽性が確認され速やかに隔離したため、水際措置が有効に機能していることを強調する形となった。

その後に行われたNNN・読売新聞の世論調査では「水際対策を評価する」と答えた人は89%にのぼった。「先手先手」を銘打つ岸田政権にとって、幸先の良いスタートとなったが、この高支持率が“呪縛”となっていく。

■1か月メドのはずが…長引く水際措置「鎖国状態」

12月22日、海外渡航歴がなく感染経路が不明な「市中感染」が大阪府で確認された。これは日本国内で初となる市中感染で、瞬く間に全国でオミクロン株への感染が確認されることとなった。

政府は、水際対策で、国内での感染が広がらないよう時間を稼ぎながら、オミクロン株の特性や海外の感染状況などを踏まえて判断するとしていた。

水際対策の期限が近づく中、政府内では、延長か緩和か、検討を続けていた。事務方は、国内で市中感染が広がるようであれば、水際対策を継続する必要はないとして、岸田首相に対し、対策を緩和する案を示した。

しかし、岸田首相が下した決断は水際措置の延長だった。
ある政府関係者は「世論調査を総理は非常に気にしている。当初の判断が高い支持率につながっていることで、なかなか緩和に踏み切れないのでは」と指摘する。

政府が「G7(主要7か国)の中で最も厳しい対策」と誇る一方、経済界からは、「一刻も早く鎖国状態を改善してほしい」という声が相次いでいた。

自民党幹部は「支持率が持ち堪えてる理由が最初の水際強化なのが悩ましい。岸田首相も留学生や外国人ビジネスマンの受け入れを何とかしないといけないのは分かっているが、水際を緩めたという印象になるのがイヤみたいだ」と語った。

■身内からも“注文”岸田首相の決断は

さらに、与党内からも水際対策の緩和を求める声が相次いだ。安倍元首相は派閥の会合で「日本へ留学するプログラム辞めようかという話にもなってきている。ビジネスの交流ができないというのは世界の経済の中で日本が立ちおくれていく危険性にも直面していく」と危機感をあらわにした。

公明党の山口代表も「科学的知見を踏まえ、留学生や文化芸術スポーツ関係者の受け入れなど、緩和の検討をお願いしたい」と岸田首相に要請した。

こうした声に後押しされる形で、政府は水際対策を緩和する方針を固めた。条件付きで観光目的でない外国人の新規入国を認めるほか、1日あたりの入国者数の上限を5000人とする方向で調整している。

この判断について岸田首相周辺は「まん延防止等重点措置を延長する自治体があるのに、一気に水際の緩和はできない。段階的な緩和になる。日本からしたら緩和だが、G7各国から見たら、緩和には見えないだろう」、別の政府関係者は「いつまでも水際を止めておくわけにはいかなかった。経済を動かすことも考え、総合的な状況判断だった」と語った。

岸田首相は周辺に「いつかは緩和しないといけなかった。国内の感染状況がかなり厳しい状態の時から、緩和しろという声が凄かった。これで『緩和します』と言った途端に『対策を緩めるのか』と批判されたら、たまらない」と苦笑いして語ったという。

岸田首相は17日に会見を開き、水際対策の緩和について国民に説明する予定だ。国民の心に届く丁寧な説明が求められる。