ノーベル化学賞 快挙の裏に日本人
水曜日に発表されたノーベル化学賞にアメリカとフランスの女性研究者2人の受賞が決まりました。その快挙の裏にはある日本人研究者の存在がありました。
■ ノーベル賞の科学分野で女性が同時受賞は初
今年のノーベル化学賞に決まったのは、フランスのエマニュエル・シャルパンティエ氏(51)と、アメリカのジェニファー・ダウドナ氏(56)です。ノーベル賞の科学の分野で、女性2人が同時に受賞するのは初めての快挙ということです。
シャルパンティエ氏は、今回の受賞決定をうけ、「2人の女性の受賞が決まり、最近の社会のトレンドを反映していると思う。科学の分野で女性が活躍してほしい」と話しています。
ダウドナ氏は、「私の幼少期を思い出すと、女の子は科学をやらないものだと言われた。私はそれを無視してよかった」とコメントしています。
今回2人がこれだけの快挙を成し遂げたことで、女性は科学分野には向かないという偏見がなくなることを期待したいと思います。
■「ゲノム編集」とは?
この2人の受賞理由が、ゲノム編集技術の開発です。ひとことで言うと、私たちの生命の設計図である遺伝子を、文章を編集するように自在に切り貼りして編集できる技術です。
この技術の原点となる発見をしたのが、実は日本人の研究者、九州大学の石野良純教授(63)です。 石野さん自身も受賞が期待されていましたが、受賞が決まった2人を次のように祝福しました。
「人類に役立つ技術開発をされたことに対し、評価されたことはうれしい。私も祝福したいと思います。編集技術はあまりにも画期的といいますか、革命ですね、一種の」
石野教授は、1986年大阪大学の研究員時代に大腸菌の遺伝子を解析し、その配列の一部に規則的な繰り返しがあることを発見しました。 これを参考にゲノム編集技術を開発したのがシャルパンティエ氏とダウドナ氏の2人です。
このゲノム編集技術は、一見難しそうな名前ですが、実は私たちの生活を一変させるほどの画期的な技術で、世界中の研究者から注目されています。
■ゲノム編集技術 どう活用?
ゲノム編集技術を使ってどんなことができるのでしょうか。
医療の分野では、この技術の登場で、これまで治療法が確立されていない遺伝性の病気、がんやエイズ、難病などの治療の開発にもつながると期待されています。 そして、医療分野だけではなく、農業分野では、私たちに身近な食品の品種改良にも用いられています。
ゲノム編集を使って、害虫に強いイネ、同じ作付け面積でも収穫量が格段に多いイネの栽培などの研究も進められています。ほかにも腐りにくく日持ちするトマトの品種、より栄養価が高い、甘みが強いなど消費者が求める特徴を持たせる品種の研究も進んでいます。
さらに、農作物だけでなく、動物でも研究が進んでいます。 近畿大学水産研究所では、ゲノム編集したマダイの養殖実験が行われています。もともと身が薄いマダイですが、ゲノム編集で筋肉の発達を強めて、肉付きのよいマダイを育成しようとしています。 生後1年5か月のマダイを、通常のものとゲノム編集したものを比較すると、体長はあまり変わりませんが、体の厚みが平均してほぼ1.5倍になったいうことです。。
肉付きがよくなると1匹からとれる身の量が増えるので、私たちが食べられる量も増えます。つまり、食料の安定供給や価格を低く抑えることにもつながります。
■ゲノム編集技術 その課題は
素晴らしい技術ですが、まだ課題も多いです。
例えば安全性です。狙った場所以外の遺伝子を操作してしまう危険性も捨てきれないということです。 特に病気の治療などで、間違った遺伝子操作が行われてしまうと取り返しがつかないため、安全性の面でもまだ検証が必要です。
さらに倫理面での課題もあります。
遺伝病の治療などでは、生まれる前の受精卵の段階で遺伝子を操作する必要がありますが、ヒトの受精卵を人為的に操作することには反対の意見も多いです。
さらに、技術が進めば、病気の治療に止まらず、背が高いとか運動神経がいいなど親の望み通りの子どもデザイナーベビーを誕生させることも可能になります。
実際に、2018年中国の研究者が世界で初めてゲノム編集でエイズに感染しにくい双子を誕生させたと発表しました。倫理的に問題だと批判され、中国当局が調査を指示する事態になりました。
ゲノム編集技術は、うまく使えば私たちの暮らしをより豊かで便利にする技術ですが、きちんとルールを作り、必要な研究が進められる環境を整えることが求められています。
2020年10月9日 16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より