「最低4年」狙う菅首相 総裁選レース行方
■“最低4年”長期政権狙う菅首相
2020年9月の自民党総裁選で圧勝した菅義偉首相。安倍前首相の「ワンポイントリリーフ」との見方も自民党内にある。菅首相の自民党総裁任期は安倍前首相の残り任期である2021年9月30日。つまり、1年後に行われる総裁選までの「短期政権にしか過ぎない」と。
就任後、菅首相は、デジタル庁の創設や不妊治療への保険適用など次々と政策を掲げ「菅カラー」を打ち出し、所信表明演説では「2050年までの脱炭素社会実現」の宣言に踏み込むスタートダッシュを見せた。
発足直後の内閣支持率が7割を超える高い水準となると、次第に自民党内でも「これは本格政権になる」との認識が広まっていった。「機を見るに敏」なのは、この重鎮の真骨頂だ。自民党の二階幹事長は2020年11月、テレビ番組で、2021年9月までに解散・総選挙が行われ、自民党が勝利すれば、総裁選は菅首相の無投票再選が望ましいとの考えを示した。
菅首相の側近はこう解説する。「菅さんは最低4年間は首相を続ける気だ。2021年の総裁選に勝ち、その後の3年間の総裁任期はつとめ上げるつもりで想定している」。菅首相は周辺に対し「自分がやるべきことをすべてやったら辞めれば良い」と語っている。そして、こう付け加えたという。「でも、デジタル化もカーボンニュートラルも、そんな短期間で道筋をつけられるものではないよね」
長期政権への野心を燃やす菅首相の戦略はシンプルだ。国民の目に見える形で成果を出していくこと。その狙い通り、不妊治療への助成拡大は2021年1月から開始予定。携帯料金値下げについては、NTTドコモが政府の意向を汲んだ新プランを発表。そして、公約の目玉の一つ、デジタル庁も2021年9月に発足させるため、通常国会に法案を提出する方針だ。
こうした成果を積み重ねることで、内閣支持率を高い位置で維持し、自民党総裁選、そして総選挙の勝利へつなげようという考えだ。
しかし、その戦略には、早くも黄色信号がともりつつある。NNN・読売新聞が2020年12月26日と27日に行った世論調査では、内閣支持率が、12月上旬の調査から16ポイント下落し、45%に。不支持の43%と拮抗する水準まで急落した。GoToトラベルをめぐる菅首相の対応への国民の不信感の高まりなどが、支持率の低下を招いたのだ。すぐに自民党内からの不満も噴出する。「菅首相自らのメッセージ発信が足りていない。2021年1月も支持率が下がるようなら、いつ“菅おろし”が始まってもおかしくないよ」(自民党中堅議員)
早くも正念場を迎える菅政権。新型コロナ対策で成果を出せなければ、長期政権も夢に終わる可能性がある。
■頼みは麻生派? 岸田前政調会長
一方、2020年の総裁選で菅首相に敗れた岸田文雄前政調会長は、2021年総裁選への準備を着々と進めている。岸田氏は、課題の地方票を取り込むために、全国各地への地方行脚をさっそくスタートさせた。
しかし、早くも暗雲が垂れ込める。岸田氏は、総裁選の3週間後に開かれた岸田派のパーティーで、「次の(総裁選の)機会は勝利することができるように政策を磨き、力を蓄え精進する」と決意を表明した。そして、「より大きな政治の塊が不可欠」、「宏池会(岸田派)の塊を実現できるよう先頭に立って汗をかいていきたい」と宣言。麻生派や谷垣グループなど宏池会をルーツとする派閥を結集させる「大宏池会構想」を打ち出したのだ。
しかし、この発言は、肝心の麻生派や谷垣グループに根回しした上でのものではなかった。麻生派のベテラン議員は不快感をあらわにした。「大宏池会なんてのは岸田が言う話じゃないんだよ。もし言うなら麻生さんが言う話。麻生さんだって怒ってると思うよ。岸田は、もう過去の人でしょ」
岸田氏としては、総裁選で勝利するために、麻生副総理兼財務相の支持を取り付けたいという思惑だったが、麻生氏は「大宏池会構想」に応じるそぶりは見せていない。
さらに、岸田氏にとって痛手となったのが、地元広島で勃発した「広島3区」をめぐる問題だ。公職選挙法違反の罪で公判中の河井克行元法相の選挙区である衆議院広島3区に、公明党が斉藤鉄夫副代表の擁立を発表したのだ。自民党の現職がいた選挙区に、連立与党の公明党が候補者を立てるという異例の事態。公明党関係者は「岸田氏ら自民党広島県連の対応が不誠実だった」と批判した。お膝元での内紛劇が、岸田氏の求心力の低下を印象づける。
こうした現状に、岸田氏の側近議員ですら「岸田さんは次の総裁選には出られないのではないか」と諦めムードを漂わせる。無役となった岸田氏が、総裁選までの9か月間でどれだけの存在感を出せるのか、その道のりは決して楽なものではない。
■死んだふり? 石破元幹事長
2020年の総裁選で最下位に沈んだ石破茂元幹事長。2020年10月、総裁選大敗の責任をとるとして、派閥会長を辞任することを発表した。この背景について、石破派のベテラン議員はこう語った。「会長を辞任することで、内外に、2021年の総裁選で菅首相とは戦わないことを示した。菅首相に石破は使われて信頼を得れば、また石破も輝くチャンスがある」
次の総裁選への不出馬を宣言することで、党内の非主流派から脱したいというのがベテランたちの思惑だった。しかし、石破派の若手・中堅議員は「次の総裁選も石破氏で戦うべきだ」と反発し、派内の路線対立が浮き彫りとなる。
2020年12月になり、派閥の会長は置かず、集団指導体制をとることでようやく再出発を果たした。しかし、石破氏の側近である山本有二元農相が派閥に休会届けを出すなど、派内の混迷は続いている。
当の石破氏は、安倍政権時は、厳しい政権批判で注目されてきたが、石破派のベテラン議員への配慮もあり、今のところ、菅政権の批判は控えている。石破氏自身は次の総裁選について、どう考えているのか。周辺に対し、こんな本音を漏らした。「『死んだふり』とか言われるけど、『死んだふり』は死んでないということだから。私は全然、死んでませんよ」
■河野太郎氏は? 小泉進次郎氏は?
次の総裁選に新たに手をあげる候補はいるのだろうか。自民党内では2020年総裁選で立候補に意欲を示した河野太郎行革担当相の名前があがる。河野氏は世論調査で高い人気を誇り、「いつか首相になりたい」と意欲を示し続けているものの、所属する麻生派内をまとめきれていない。麻生氏側近は「麻生氏は、『現職の首相が出る総裁選に、閣僚が対抗馬で出るべきではない』と河野氏に釘を刺している」と語っている。派閥会長の麻生氏の支援を取り付けることができるかが焦点だ。
そして2020年の総裁選で河野氏が立候補すれば支持することを表明した小泉進次郎環境相の動向も注目される。国民的人気の高い小泉氏が「将来の首相候補」であることは衆目の一致するところ。しかし、環境相として目玉政策である脱炭素社会の実現を推進している以上、菅内閣が続く限りは、菅首相を支え続けるとみられる。小泉氏の周辺もこう語る。「総裁選は環境相として実績を積み上げてからだろう。立候補するのは早くても次の次ではないか」