書店員の選書術。本を贈るコツとは…
『贈る。』コロナ禍で人との距離が制限され、会うことができない日々。変わる生活の中で、自分と向き合う時間や、離れて暮らす大切な人を思う時間も多かった。「日常にサプライズや楽しみを。」“贈る”をテーマに取材しました。
■書店員に本を選んでもらえるサービス「ブックカルテ」
第3回は、自宅にいながら選書のプロに本を選んでもらえるサービス「ブックカルテ」。埼玉・東武東上線朝霞駅のそばにある書店を訪れました。この書店は、新型コロナで店を訪れて読みたい本を探す客が減っていた1年ほど前、あるサービスを始めました。
その名も「ブックカルテ」。「本を読みたい人」と「書店員」をマッチングし、その人にあった本を書店員が選んで郵送してくれます。
利用者は、まず読んでみたい本のカテゴリーを選択します。すると、その分野の本に精通した書店員が探し出され、本を選んでくれるのです。
1回税込み1万2500円で、およそ1万円分の本が届きます。そして、本を選んでもらう時に重要なのが、利用者が読書の傾向や人生観などを記入するカルテです。
サービスを立ち上げた、ブックカルテの東海林真之代表に話を聞きました。
「書店業界、出版業界がだんだん苦しくなってしまっている現状に、電子書籍のようなアマゾンのようなサービスと戦っていくための本屋さんの価値というのを、よりちゃんと出していきたいというところで選書というのに目をつけて始めました」
今では全国の書店員、およそ30人が登録する「ブックカルテ」。そもそもカルテをもとに書店員が本を選ぶサービスは、北海道の「いわた書店」が始めたアイデアでした。
東海林代表は、このサービスを全国に広げられないかと考え、賛同を得て、2020年12月に「ブックカルテ」を始めたということです。
ブックカルテ代表・東海林真之氏
「本屋さんに行って本を選ぶことの楽しみというのがあったことが、(コロナ禍で)なかなかしづらい時間になってしまったので、本屋さんに代わりに選んでいただくというところの本との出会いの楽しみを、ネット上で体験していただけたらうれしいなと思っています」
■「ブックカルテ」に登録している書店員に聞く!本を選ぶコツとは?
本を選ぶ時のコツとは…。書店員の伊藤楽さんに密着しました。
チエノワブックストア・伊藤楽さん
「これがカルテなんですけど、お客様の好きな本だったりとか、本を読んでどういう気持ちになりたいとか、最近悩んでいることとかがあればそういうことを読み取って、そこから一番良さそうな本を選んでいきます」
平均して10冊ほどの本を選ぶという伊藤さん。カルテから浮かび上がる“その人”を想像し、著者やタイトル、あらすじもチェックしながら、店内を何周も歩きます。
伊藤楽さん
「たまに立ち止まって棚を見たり、ないなと思ってまた隣に移ったりっていうのをずっと繰り返しています」
選んでは見直して…。全て決めるまでに3~4時間かかるといいます。依頼は全国から。カルテには様々なことが書かれています。
――利用者のカルテの印象
伊藤楽さん
「お客様は割と新しいものというか、今の社会がどういう動きになっているかとかそういうのに興味持ってるお客様とか、あとは結構自分にあまり自信がないみたいなことを書いてくれるお客様もいるので、背中を押せるような本も入れたりとかはしています」
――本を選ぶ時のコツ
伊藤楽さん
「お客様に面白いって思ってもらえることと、あとはお客様が普段読んだことないジャンルの中から、好きだと思ってもらえそうな本をなるべく選ぶようにしています」
「例えばミステリー好きな人とかだったらミステリーの要素も強いんだけど、SFのジャンルに入るやつだったりとか、そういう選び方をしていますね。あとはほっこりするのが好きな人だったら、読んだ感想としてはそうなるんだけど、ちょっと不思議な謎が絡むみたいなそういう作品を選ぶようにしています」
■新年。おすすめの本~成人式を迎えた人へ~
伊藤楽さん
「オードリーの若林さんのエッセーなんですけど、普通に読んで笑えもするし、後ろ向きなことを考えてしまっている人が、こんなこと考えているの自分だけかもみたいな風になっちゃうかもしれないんですけど、『そんなことないんだ』って肩の力が抜けるような感じになっているので、成人して緊張する、人生緊張するみたいな人にこそ読んでほしいですね」
■新年。おすすめの本~新しいことをスタートしたい人に向けて~
伊藤楽さん
「動物しか来ない百貨店のコンシェルジュさんが主人公の話なんですけれど、いろんな動物がいろんな悩みを持ってやって来て、それを解決していくっていう話です。新年新しいことを始めるってなった時に不安なこともあるかなとは思うんですけど、解決していく姿とかを見て、頑張ってもらえればなと思いますし、あと新年で買い物に行った人も多いと思うので、それつながりで選んでみました」
■贈るとは「自分の気持ちを伝える手段の一つ」
さて、書店員の伊藤さんにとって『贈る。』とは…。
伊藤楽さん
「やっぱり言いにくいこととかも、本の内容で、自分の気持ちを表現して贈るっていうことができるので、自分の気持ちを伝える手段の一つかなと思います。僕があなたに対して、『こういうふうに思ってますよ』とかっていうのを伝えるための手段の一つとして、本を贈るってことはあると思います」
本を読み始める時のちょっとした手助けになれば。手紙も添えるという伊藤さん。利用者自身に自由な感想を持ってほしいとシンプルに。お礼の手紙が送られてくることもあるのだとか。
※伊藤楽さんの選書
「完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込」(若林正恭/角川文庫)
「北極百貨店のコンシェルジュさん 1」・「北極百貨店のコンシェルジュさん 2」(西村ツチカ/小学館)