尾身会長ら、若い世代「検査なし療養」案
感染者が急増している、新型コロナウイルスのオミクロン株。今後も収まらない場合、若い世代は「セルフケア」をするという案を、政府分科会の尾身会長らが提言しました。政府は及び腰で、専門家の賛否も分かれます。感染症学の専門家に、見解を聞きました。
■都内の保健所、応援「300人」必要に
有働由美子キャスター
「(新型コロナウイルスのオミクロン株の感染者は)多くが若い世代で、東京都モニタリング会議によると、東京では20代が35%以上。そのほとんどが、軽症か無症状です」
「こうした中、今後さらに(感染者が)急増した場合、『若い世代はセルフケア』という考え方を(政府分科会の)尾身会長らが提言しました」
小栗泉・日本テレビ解説委員
「今は、発熱などの症状があれば受診し、医師が必要と判断すれば検査するというのが基本的な考え方です。検査で陽性になると、無症状や軽症であっても、保健所などが健康観察を行います」
「ただ、その量が膨大になると、保健所は高齢者や重症化リスクがある人へのケアに十分に力を割けなくなってしまいます」
「実際、ある都内の保健所では既に100人が応援に入り、さらに兼務の形での応援が100人いますが、今の状況に対応するには、もう100人規模で応援が必要になっているといいます」
有働キャスター
「(応援が)300人いないと間に合わないということで、これから(感染者が)もっと増えると大変ですよね」
■松本主任教授「かなり厳しくなれば」
小栗委員
「そこで、新たな考え方『セルフケア』です。今後も感染の急増が収まらない場合、若い世代で、高齢者や重症化リスクの高い人と同居していなければ検査はせず、臨床症状だけで診断を行う選択肢も認めていいのではないか(というものです)」
「つまり『軽症や無症状の若者はすぐに検査に行かず、1週間家にいる』でいいのではないか、という声が専門家から上がっています」
有働キャスター
「(感染者が)さらに急増した場合ということですが、セルフケアについて、感染症学が専門の国際医療福祉大学・松本哲哉主任教授はどうお考えですか?」
松本主任教授
「医療資源は確かに限られてはいますので、かなり厳しい状況になれば当然、重症化しづらい若い世代の人たちは、優先順位からして譲って、例えば『自宅にいてください』という選択は、ないことはないと思います」
「ただ、検査もなしでの確定診断は難しく、本当にコロナと診断されているわけではない。そうすると『家に1週間いてください』と言っても、ちょっと症状が良くなれば、『あ、ただの風邪だったんだ』と、結局は仕事や大学に戻るという方たちも増えるかもしれません」
「そうすると、結局は感染を抑え込むこともなかなか難しくなるので、これはよほど厳しい状況になった時に取らないといけない策だろうと思います」
■線引きは? 若者の「重症化リスク」
有働キャスター
「まだ早いということですね」
松本主任教授
「現状でこれをやるのはちょっと早いと思いますし、少なくとも、なかなか臨床診断だけでやること自体は、かなり無理があるのではないかと思います」
有働キャスター
「ただ重症になりにくい人に力を割かなくても済むメリットは、医療現場にあるのではないでしょうか?」
松本主任教授
「もちろん、優先順位から言えば重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある方をしっかりケアすることは、間違いではないと思います」
「ただ若い世代でも肥満や糖尿病など、何らかの重症化リスクを抱えている人は確かにおられます。若いからそれで大丈夫、とも言いづらいということもあり、なかなか線引きが難しいかなと思います」
■政府は「セルフケア」に否定的
有働キャスター
「政府はどう対応しようとしているのでしょうか?」
小栗委員
「政府高官はセルフケアについて『行政がそれを言うのは難しい。もし何かあった時に責任が取れない』と否定的です」
「また専門家の中にも、『軽症なら検査せず家にいて、というのは国民には放置するのか、と映るかもしれない。デルタ株で放置されて亡くなった方もいた去年夏の記憶があるから、国民もなかなか受け入れがたいかもしれない』という見方もあります」
「一方で別の専門家は『デルタ株とオミクロン株は、まるで違う症状。そこをきちんと国民に説明して、うまく対応を切り替えないと、保健所の業務などがひっ迫してしまう』と懸念する声も上がっています」
■廣瀬さん「今後の選択肢として」
有働キャスター
「専門家の方の中にもさまざまな声がありますが、廣瀬さんはどう考えますか?」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン(「news zero」パートナー)
「松本先生の話を伺うと、今すぐは難しいのかなと思います。ただ、コロナ以外でも救急などで病院にお世話になるケースもあるので、そのような影響も考えた上で、今後はセルフケアという選択肢が必要になる時が来るかもしれないなと思いました」
有働キャスター
「オミクロン株のリスクと経済・社会のリスク、このバランスをどう取っていけばいいか、私たちがそれぞれ考えていかねばならないところですが、いずれにしても保健所のひっ迫は何とかしないといけません」
■役割分担も…保健所のあり方は?
松本主任教授
「これだけ(感染者が)増えてくると、今の状況でも保健所の方々、かなり疲弊されるほどに負担が多くなってきていると思います。本当に頑張っておられることはよく分かりますが、それを乗り越えるくらいの仕事量になっています」
「人を増やすのも大事ですが、できる部分はアウトソーシングした方がいいですし、少なくとも今の保健所は、入院するかしないかの判断を基本的に担っているので、うまく機能できなくなれば、自宅で指示も受けられず待機する患者が増える可能性が高くなります」
「そうすると結局は、かなりつらい思いをしながらどこに行っていいか分からない患者が増えるので、入院かどうかの判断は医師に任せるなど、役割分担も含めて保健所のあり方を見直していくことも大事だろうと思います」
有働キャスター
「そのあたりの整理も非常に大事なところですね」
(1月20日『news zero』より)