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【解説】事件から58年…袴田巌さんに無罪判決 判決で「3つのねつ造」認定

2024年9月26日 20:54
【解説】事件から58年…袴田巌さんに無罪判決 判決で「3つのねつ造」認定

事件から58年。静岡県で起きた一家4人殺害事件の再審=やり直し裁判で静岡地裁は、死刑が確定していた袴田巌さんに、無罪判決を言い渡しました。裁判で最大の争点となったのは、赤みのある血痕が付いた5点の衣類です。

これは事件の1年2か月後、みそタンクの中から見つかったもので、袴田さんのものと判断されたことから、死刑判決の決め手となりました。

これについて弁護側は「1年以上みそ漬けされた場合、血痕は黒くなり、赤みは残らない」として、この証拠は捜査機関によるねつ造だと主張しました。

一方、検察側は、血痕が長期間みそに漬かっても「赤みが残ることはある」とした上で、ねつ造は実行不可能な空論だと主張していました。

26日の判決で静岡地裁は、検察側の証人となった専門家が「血痕の赤みが残るかどうかは、みそタンク内の酸素濃度による」と指摘している点について、「たとえ酸素濃度が低くても、1年以上みそ漬けされた場合、黒くなる」として、検察側の主張を退けました。

そして、衣類は事件から時間がたったあとに、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、みそタンクに隠されたとして、ねつ造と認定しました。その上で、これらを証拠から排除した結果、袴田さんが犯人だとは認められないとして、無罪を言い渡しました。

――58年前の事件に無罪判決が言い渡されましたが、これをどう見ていますか?

社会部デスク 宮下哲記者
「無罪判決自体は想定どおりと言っていいと思います。ただ、判決の中で『証拠には3つのねつ造がある』とまで言い切ったことは、かなり踏み込んだという印象です」

宮下デスク
「26日の判決では『自白調書』『5点の衣類』、そして『ズボンの共布』、5点の衣類の内のズボンの切れ端が袴田さんの実家から見つかっていたことも、捜査機関によるねつ造だとしました」

――最大の争点となっていた『5点の衣類』について、ねつ造だと認めたというのは、どういったことが考えられるのでしょうか?

宮下デスク
「『1年以上、みそ漬けされていた血痕に赤みは残らない』として、衣類は発見される直前に袴田さん以外の人によってタンクに隠されたと判断しました」

「その上で、それを行ったのは捜査機関の者以外に想定できず、さらに当時、袴田さんが無罪になる可能性も否定できない状況だったため『捜査機関がねつ造に及ぶことも想定しうる状況だった』と判断したわけです。ズボンの端切れについても『捜査機関の者によって袴田さんの実家に持ち込まれた』と判断しました」

――この判決をうけて、検察側はどう対応するでしょうか?

宮下デスク
「今の時点では、検察側はまだ控訴するかどうか、態度を明確にしていません。これまで、死刑が確定したあとに再審で無罪が言い渡された4つの事件では、検察側はいずれも控訴せずに無罪が確定しています。

宮下デスク
「今回もこれまでのケースと同様に控訴を断念するのか、その判断に影響を与える可能性があるのが、判決で捜査機関によるねつ造を指摘されたことです。実は、再審開始を決めた東京高裁の決定の中でも『5点の衣類』について、捜査機関によってねつ造された可能性があると述べていて、当時もこの表現に対しては検察内部ではかなり激しい反発がありました」

「今回の再審でも、ねつ造は『実行不可能であり、非現実的だ』と猛反論していたんですが、26日の判決では、東京高裁の決定よりもさらに踏み込む形で、捜査機関によるねつ造があったと言い切っていますので、かなりの反発が予想されます。検察内部でも、この判決を確定させるわけにはいかないと、控訴を主張する声が出ることも予想されます」

「ただ、袴田さんも88歳とご高齢で、50年近く身柄を拘束されているので、控訴となると厳しい批判も予想されますので、検察にとっては難しい判断を迫られることになります」

――事件発生が1966年で、26日の無罪判決まで58年。2008年の再審請求からも、再審開始が決まるまでに15年もかかっていますが、なぜこれほどの時間がかかったのでしょうか?

宮下デスク
「まず一つには、当時の自白偏重の捜査があったことが言えます。そしてもう一つ背景にあるのが、再審の制度上の課題です。再審請求の審理をどう進めるかを細かく定めたルールはなく、裁判官の裁量に委ねられています」

「さらに再審では、検察側が持っている証拠をどこまで、いつ、弁護側に開示するかというルールもありません。例えば今回、無罪の決め手となった『5点の衣類』の血痕の赤みが残るカラー写真が開示されたのは、2010年になってからのことでした」

「今回の事件を教訓に、法曹関係者はあるべき再審制度の姿を探ると同時に、裁判所もスピード感をもって再審請求の手続きに臨むことが求められると言えます」

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