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原発「最長60年」延長を検討 “老朽化”の正体に迫る最新研究とは

2022年11月18日 18:44
原発「最長60年」延長を検討 “老朽化”の正体に迫る最新研究とは

政府は、最長60年と定められている原発の運転期間の延長を検討しています。焦点となるのが原発の「老朽化」。その原因を解明し、あと何年安全に稼働できるのかを予測するための最新の研究を取材しました。

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今月、私たちが特別に取材を許されたのは、日本最大規模のエネルギーの研究機関「電力中央研究所」です。

そこにあったのは、いくつものパイプにつながれた鉄製のカプセル。このカプセルの中は、高温で高い圧力がかけられ、原子炉と同じ環境が再現されています。電力中央研究所では、“原発の老朽化”についての研究が行われているのです。

原発は長期間運転すると、様々な機器が劣化します。中でも特に注意が払われるのが、核燃料を入れる「原子炉圧力容器」です。長年、核分裂で発生する「中性子」を浴び続けると、容器の素材の強度が少しずつ低下するといいます。

このため、すべての原発は、圧力容器の強度を調べるのに、圧力容器と同じ材料でできた「監視試験片」と呼ばれる金属片を内部に複数設置していて、各電力会社は、監視試験片を定期的に取り出して、強度の変化を測定しているのです。

電力中央研究所にも、金属片の強度を調べる装置があります。

「じゃあ試験を行います。3、2、1」

セットされた金属片にハンマーが振り下ろされました。

衝撃が加わった金属片は――

電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 新井拓研究参事
「試験をすると、試験片はこのような形で折れ曲がります」

実際の原子炉内では、このような衝撃はありませんが、中性子を浴び続けると徐々に強度が低下するため、点検が義務づけられています。

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最も長いもので40年以上稼働している原発。今、運転期間の延長が検討されています。そうした中、長時間運転した場合に、圧力容器の素材の強さがどの程度低下するのかを予測する、最先端の原子レベルの研究が注目されています。

元々、金属片には鉄原子が規則正しく並び、その中に不純物も入っています。これが、核分裂で発生する中性子を長く浴びると、鉄原子の並びに乱れが生じ、同時に不純物が所々に集まり始めるのだといいます。

研究所では特殊な装置を使い、この現象を3Dで映像化しました。

中性子を浴びていない金属片は、不純物の原子1つ1つが、この段階では、ほぼ均一に散らばっています。一方、原発を60年運転したのと同じ量の中性子を照射した金属片では、不純物はあちこちに集まり、いくつもの塊を作っているのが分かります。

電力中央研究所によると、こうした塊が多くできるほど、金属片の強度が低下することが分かったといいます。研究所では、実験を重ねてとったデータから、強度の変化が“予測”できるとしています。

電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 新井拓研究参事
「原子レベルでの材料の変化のデータを蓄積し、鋼材(金属片)の強度の変化を予測する精度を上げていきたい」

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政府が今、検討しているのは「原則40年最長60年」という原発の運転期間の延長です。

延長案の1つめは、最長60年という上限を撤廃し、安全が確認される限り運転を可能とする案。2つめは、原子力規制委員会による安全審査などで運転を停止していた期間を除外し、その分を追加する案です。

原発の運転期間を延長することには、政府の審議会に参加した委員らの間でも意見が分かれています。

隅修三委員
「原子力の安全性を確保しながら、最大限に活用することは不可欠」

原子力資料情報室 松久保肇事務局長
「安全最優先の原則に照らして、古い炉を使うというのは問題ではないか」

今月下旬にも経産省の審議会で方針案が示され、年内にも決まる見通しです。