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電力ひっ迫を背景に原子力活用に舵を切りつつある日本…原子力規制委員会は原発の安全性を担保できるのか

2022年11月14日 21:38
電力ひっ迫を背景に原子力活用に舵を切りつつある日本…原子力規制委員会は原発の安全性を担保できるのか
「原則40年、最長60年」の原発の運転期間の延長を巡る議論など、政府は原発推進に舵を切り始めました。福島原発事故の惨劇を繰り返さないよう、原子力利用の安全規制のあり方に注目が集まっています。読売新聞科学部の前村尚記者が解説します。

■今の日本は電力がひっ迫している状態

2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故が起き、政府は「原子力発電の依存度を低減させる」方針を打ち出しました。ところが政府は今年、原発の「再稼働のありかた」と「運転期間」を大きく変えてもっと活用する方向に舵をきろうとしています。

その理由は日本の電力がひっ迫しているからです。政府は今夏、「節電要請」を出したのに続き、今冬も節電を呼びかけています。東日本大震災の際、「計画停電」が行われ、多くの人の生活に支障が出ました。今の日本は電力がひっ迫した状態で、その理由の1つとして原発の再稼働が進まないことが考えられています。

福島第一原発事故前の2010年度は、原子力発電の割合は25%もありましたが、2019年度はわずか6%です。原発の代わりにエネルギー供給の柱となってきたのは、石炭やLNG(液化天然ガス)などを燃やす火力発電で、2019年度は76%に上ります。国内では今年3月、政府から「電力ひっ迫警報」が出ました。この時は季節外れの寒さに加えて、直前に福島県沖で発生した地震の影響で火力発電所が停止したことが影響しました。

■短期的なエネルギーの安定供給には原子力しかない?

日本では主に、火力、再生可能エネルギー、原子力の発電手法があります。ただ火力発電所の稼働にこれ以上力を入れるのは難しそうです。理由は2つあります。1つは「脱炭素」という世界的な潮流です。石炭やLNGを燃やせば、二酸化炭素が排出されます。今、エジプトで気候変動対策を話し合う国際会議「COP27」が開かれていますが、温暖化による悪影響を回避するには、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの排出量を抑えなければなりません。もう一つはエネルギー価格の高騰です。ロシアによるウクライナ侵攻などの影響でロシアが世界に輸出していたLNGの価格が高騰し、火力発電を賄うための燃料を入手しづらくなっていることが挙げられます。

再生可能エネルギーについては、太陽光発電や風力発電は天気や天候によって発電量が低下する可能性があり、不安定です。例えば太陽光発電は悪天候時や夜間は発電量が低下します。風力発電は不安定さに加え、国内への普及に政府が本腰を入れて、大きな力を入れて取り組みませんでした。水力発電は巨大な施設整備が必要で、もはや適地が少なく、発電コストも安いとは言えません。水素もエネルギーとして利用できますが、担い手として手を挙げる会社がいないというのが現状です。

短期的にエネルギーの安定供給を実現しようとすれば、残された選択肢は原子力発電です。こうした状況を踏まえ、政府は今夏、脱炭素化を実現するグリーントランスフォーメーション(GX)を推進するため、「GX実行会議」を開催しました。

その会議などで脱炭素を進めるための1つの方法として、原子力発電の活用を検討し始めました。具体的には▽再稼働の促進▽運転期間の延長▽次世代革新炉の開発・建設――です。

■原発の再稼働の促進

ただ福島第一原発事故を経験した私たちとしては、諸手を挙げて「大歓迎」という訳にはいきません。そこで原子力政策のカギを握るのは、原発事故の翌年に発足した原子力規制委員会がどう規制をして、安全性を担保するのかということです。

福島事故後、国内の原発はすべて一度停止しました。各電力会社は再稼働を目指し、廃炉を除く国内36基のうち27基の原発について、規制委に安全性を確認する「安全審査」を申請しています。規制委はこの27基について安全審査を進めており、今日までに17基が「合格」しています。ところが再稼働しているのは、西日本の10基にとどまっています。

安全審査に合格したといっても、「100%事故は起きない」とは言い切れません。ひとたび事故が起きれば、発電所近くの地域に大きな影響がでます。地域の人の理解や万が一の時の避難のあり方などを十分に準備しておかないと再稼働はできません。地域の理解を得るには丁寧な説明が欠かせず、政治の役割が期待されそうな場面です。ですから政治が前面に立って解決できる事柄があれば、再稼働が進むのではないかと考えています。

■運転期間延長に備えた新たな安全規制案

また運転期間の延長を巡る議論も活発に行われています。

現行のルールでは、原発が運転開始から40年を迎える際、規制委が安全性を詳しく確認した上で、1回に限り最長20年の延長を認めています。つまり「原則40年、最長60年」です。ところが規制委に安全審査を申請した原発の平均“年齢”は、35歳です。30年を超える原発が多いという事情もあり、運転延長の議論は進みました。

原発の推進役を担う経済産業省資源エネルギー庁は11月初旬、▽運転期間に上限を設けない▽上限は設けつつ、安全審査などで停止している期間は運転期間にカウントしない――などとする案を公表しました。日本では「60年超」運転は経験がありません。規制委は運転期間がどのように決まったとしても、安全性を担保するため、「30年+10年+10年+・・・」という新たな仕組みの安全規制案を提案しています。

新たな安全規制案では、原発が30歳を迎えるときに、その後の10年は運転しても安全かを判断します。「運転OK」となっても、また10年後に再び規制委が次の10年は運転を続けて良いかを判断します。こうした判断を繰り返し、「もう安全性は保てない」と判断すると、運転できなくなるのです。

規制委の山中伸介委員長は記者会見で「申請しても合格できるかどうかはかなり難しい」と話し、規制委の定例会合では委員から「年数が経てば経つほど合格しにくくするような仕組みを取り入れるべきだ」という声も出ており、合格のハードルは高くなりそうです。

政府が思い描く「原発の活用」には、反対の声もあります。電力がひっ迫しているという現状は理解できますが、手放しで「原発を推進」と賛同するわけにもいきません。

日本政府には「11年前の福島事故を思い出し、丁寧な議論が欠かせない」という姿勢を貫いてほしいと思います。その上で原発を推進するという選択肢をとるのであれば、安全性の確認を大前提に、原子力政策を前に進めるしかありません。規制委には厳しく安全性をチェックするという厳格な制度作りや姿勢が求められます。