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思い出詰まった「30円コロッケ」 地元で愛された精肉店…惜しまれつつ閉店へ

2024年5月29日 21:19
思い出詰まった「30円コロッケ」 地元で愛された精肉店…惜しまれつつ閉店へ

創業58年、地元で愛された精肉店が31日に閉店します。利益よりも大切にしてきたのはお客さんの笑顔。1個30円のコロッケには多くの人たちの思い出がつまっていました。

路地裏をのぞくと…

記者
「うわ、すごい行列ができています」

この長い列が愛されてきた何よりの証し。埼玉県草加市にある精肉店「肉のやまだ」です。

約15年通う地元の客(20代)
「自分が小さいころからあったのでよく通っていました」

約30年通う地元の客(60代)
「(孫に)『何が食べたい?』『やまだ』って言うの。かわいいでしょ。大皿に出すと『やまだのコロッケだ~』って」

地元の人から愛され続けて58年。人気の秘密は味だけでなくその安さ。物価高の今でもサクッと揚げたメンチカツは1枚80円。やさしい味わいの手作りコロッケは、なんと30円です。

妻 好子さん(78)
「もうからなくたっていいんだよ」

大将 山田奨さん(81)
「子どもらのために(値段は)あげられない。高校生がみんな…」
妻 好子さん
「みんな高校生が夕方来るんだから」

子どももお小遣いで買えちゃう“愛情価格”

お店の味を守るのは、大将の山田奨さん(81)と妻の好子さん(78)。1966年に創業し、当時から変わらぬ味と価格で多くの人の胃袋と心を満たしてきました。

それなのに…

大将 山田奨さん
「もう疲れたからな。こうやって物が拾えないから」

妻 好子さん
「本当はピリオド打ちたくなかったけど、今回しょうがないね」

体力の限界と後継者不足が重なり、今月いっぱいで58年続く歴史に幕を下ろすことを決めました。

20年以上通う常連客
「ここの合いびき肉じゃないと私のハンバーグできないので、どうしよう…悲しい…」

50年以上通う常連客
「一言じゃ言い表せない」
「なくなっちゃうって聞いた時の喪失感」
「思い出だもんね」

あと少しで食べられなくなる味を求めて続々と訪れる常連客。

「なくなると聞いて、さみしくて来ちゃいました」

妻 好子さん
「本当、ありがとう」

こちらの女性は…

「学校帰り、バイト前に来て、おなかを満たしてから行くみたいな。青春ですね。なくなっちゃうと聞いてさみしくて」
「同級生にも連絡して」

30円のコロッケを高校時代に友達と一緒に食べ、親しんでいたといいます。

「とにかく安くて、お小遣いでも余裕でおなかいっぱいになれたので、そのおかげでこんなに大きくなって」

こちらの女性も高校時代に“ある特別”な思いを…

50年以上通う常連客(60代)
「私の中のソウルフードなので。バドミントン部で練習終わって、みんなおなかすいたら、おなかすいたよね、肉のやまだ行くって制服着て」

部活帰りにコロッケを食べに通ったと言いますが…

50年以上通う常連客(60代)
「(コロッケを)買い食いして、学校に近所の人が通報してバレて、練習来るなと顧問の先生に怒られた。おばさんに通報されると練習できなくなるから、『陰の方で食べていい』って」

隠れて食べさせてくれたお店への感謝。たくさんの思い出がつまった青春の味です。

30年以上コロッケを買いに来ているという常連客は…

30年以上コロッケを買う常連客(40代)
「家族に頼まれて。共働きなのでおかずがないから、小学生の時から。けんちゃんけんちゃんって40超えていますけど(呼ばれる)」

今では子どもが生まれ、親子で食べるようになったコロッケ。

30年以上コロッケを買う常連客(40代)
「子ども2歳なんですけど、このコロッケが大好きなんです。これから大きくなるので、もう少しやってほしかった」
「草加のランドマーク。とにかく感謝の気持ち、58年間ありがとうございました」

別れを惜しむ人は後を絶ちません。手には感謝を込めた花束やプレゼントの数々…

常連客
「長い間お疲れさまでした」

妻 好子さん
「娘みたい、うちの」

さらに苦労が報われる出来事もありました。1人でやってきた小学生の女の子。

妻・好子さん
「たまきちゃん何年生だ、4年生か。あっ6年生になったのか」

閉店を知り、3か月ぶりにおやつのチキンを買いにやって来ました。

小学6年生 小川たまきちゃん(11)
「何回でも何回でもこっそり行ったりしている」

生まれたころから食べて育った思い出の味。これからも食べ続けたかったのに…

小学6年生 小川たまきちゃん
「私が大人になってもずっとあると思っていた。もうなくなるんだなって、この味が食べられないんだなって。とても悲しいです」

妻・好子さん
「感謝です、たまきちゃん!」

小学6年生 小川たまきちゃん
「今までありがとう」

大人から子どもまで半世紀以上も愛された地域密着の店。

妻・好子さん
「本当にね、本当にね、地域の人特に愛されていて本当に幸せです。どこにもいないと思います、日本中探しても」

閉店まで残りあと2日。最後まで30円のコロッケを笑顔と共に届け続けます。