“いじめ確認できず”…宝塚側が調査結果を公表 遺族側は「再度検証」訴え
宝塚歌劇団の宙組に所属する25歳の女性が亡くなった問題で、劇団側が調査結果を公表。その報告書では亡くなった原因の1つだと遺族側が主張している上級生からのパワハラについて、「確認できなかった」としました。遺族側もすぐさま会見し、報告書のその内容は「間違いだ」として「再度検証すべき」と強く訴えました。
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宝塚歌劇団 木場健之理事長
「宙組生の急逝につきまして、謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族の皆様には、大切なご家族を守れなかったこと、心より深くおわび申し上げます」
14日午後4時すぎから、宝塚歌劇団の会見が始まりました。2時間以上に及んだ会見の冒頭、深々と謝罪をしたのは劇団のトップ・木場健之理事長です。
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「宝塚歌劇にとってかなり、今回のことは危機的な状況である」
「清く、正しく、美しく」をモットーに、宝塚歌劇団は来年で110周年を迎えます。今年9月、その宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の女性の遺体が、宝塚市にあるマンションの敷地内で見つかりました。自殺とみられています。
亡くなった女性の遺族側は10日、会見を開きました。
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士(10日)
「約1か月半、わずか1日3時間程度の睡眠しか取れない状況が続き、加えて上級生からのパワハラもあり、健康を損なって亡くなった」
亡くなった背景には、劇団での「過重労働」、そして「上級生からのパワハラ行為があった」と主張。劇団などに対し、事実を認めた上で謝罪と補償を求めていました。
遺族側は、上級生から「下級生の失敗はすべてあんたのせいや」「マインドが足りない、マインドがないのか」「うそつき野郎」などの心ない暴言を受けていたと訴えています。
劇団は先月、外部の弁護士による調査チームを設置。現役の劇団員ら70人以上から聞き取りを行うなどし、そして14日、調査結果を公表しました。
まず、上級生からのパワハラについては、女性に対するいじめやハラスメントは確認できなかったとしました。
宝塚歌劇団 井塲睦之理事・制作部長
「指導内容・方法については、社会通念に照らして不当とは言えない。上司からの業務指導の範囲内である」
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「故人に対するいじめやハラスメントは確認できなかった」
ただその一方で――
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「(上級生が女性に)うそをついていないか何度も聞いていたという状況は確認。それらが時間的に近接・重複して起きたことで、故人にとっては大きな心理的負荷になったものと十分に考えられる」
「いじめはなかったが、強い指導で心理的負荷になったのは間違いない」との説明。これには、記者から厳しい追及がありました。
――上級生のパワハラにならない? どう受け止めている?
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「過密な稽古スケジュールをこなすなかで、精神的にかなりいっぱいいっぱいの状況であったところに上級生から指導を受ける局面があり、ご本人にとっては受け入れ難いところがあったのかと思っている」
そして、会見では「女性が上級生にヘアアイロンを当てられ、やけどをした」という件についても話されました。劇団が先月7日に開いた会見では、そういった事実はないと説明していました。
宝塚歌劇団の担当者(先月7日)
「いじめという事案があるというふうには考えていません。加害者も被害者もおりません」
14日の会見でも――
宝塚歌劇団 井塲睦之理事・制作部長
「どちらが事実であるか判断することは困難。いじめ目的であったとは言いがたい」
入団7年目。25歳の未来あるタカラジェンヌが亡くなったもう1つの理由として指摘されているのが、過重労働です。
遺族側の弁護士が作成した、女性が亡くなる直前の労働時間を記録した資料。1日のスケジュールを見ると、女性は午前9時ごろから日付が変わる午前0時ごろまで約15時間、びっしり稽古を行っていたといいます。睡眠時間はわずか3時間だけだといいます。こうした生活が1か月ほど続き、月の時間外労働は少なくとも200時間を超えていたといいます。
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士(10日)
「入団7年目というのが下級生の中の一番の上の学年にあたりまして、大変重要な責任」
女性は「長の期」と呼ばれる下級生のまとめ役を担っていましたが、宙組に8人いた同期生が退団や休演などで2人まで減り、女性に大きな負担がかかっていたと主張しています。
「過重労働」との指摘に劇団側は――
宝塚歌劇団 井塲睦之理事・制作部長
「強い心理的負荷が故人にかかっていた可能性が否定できない」
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「『長の期』としての役割・活動に娘役2人のみであたったことが、故人にとって大きな負荷になっていたものと判断している。そのような状況や問題を劇団側が十分に把握できず、対処できなかったことに責任を痛感しております」
報告書では、1か月に118時間以上の時間外労働があったことになるなどとして「精神障害を引き起こしても不思議ではない程度の心理的負荷があった可能性は否定できない」との指摘がありました。
――なぜ、負荷があったことを把握できなかった?
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「チームワークの中で解消して、課題も乗り越えて、1つの作品を作り上げていったのかなと。我々は生徒の頑張りに甘えていた部分があったと思う」
過重労働があったことは認め、今後の対応策については――
宝塚歌劇団 村上浩爾専務理事
「根本から見直していくために、過密な公演スケジュールの見直しというのは、1つ大きなポイントであるかなと考えています」
劇団は今後、年間の興行数を減らし、稽古の時間を見直すなどして対策するとしています。
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「今後は新しい体制で再発防止・信頼回復に向けた取り組みを早期に具体化してもらえるよう速やかに業務の引き継ぎを行う」
そして、木場健之理事長は来月1日付で辞任すると表明しました。
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そして、劇団側が会見をはじめて1時間あまりたった午後5時15分ごろ、遺族の代理人弁護士が会見を行い“怒り”をあらわにしました。
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「何一つ謝罪を行っていません!」
「遺族側は納得することはできず、事実関係を再度、検証し直すべきであると考える」
今回、遺族側は女性が亡くなった背景として「上級生からのパワハラ」「週刊誌で報じられたヘアアイロンの問題」「過重労働」などをあげていますが、中でも“再度検証すべき”と強く訴えたのは「パワハラ」と「ヘアアイロンの問題」でした。
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「被災者に仮に業務遂行上の一定の不備があったとしても、それはあまりの多忙さ故に生じたものであり、そのことを棚に上げて被災者を叱責するのはハラスメントそのもの。この報告書の内容は失当である、間違いである」
女性は亡くなる直前、「うそつき野郎!」などと心ない暴言を受けていたと遺族側は訴えていますが、14日の劇団側の会見では――
宝塚歌劇団 木場健之理事長
「たとえば『うそつき野郎!』『やる気がない』といった発言の有無についてはすべて伝聞情報であり、実際にそのような発言があったことは確認されていません」
これに――
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「被災者がうそをついたかのような認定をしていることがまず問題。『うそつき』と言われたことについては、LINEで本人がはっきり話していて、それも調査委員会に提出しております。人格を否定するようなことを言われたという事実をLINEで家族に述べています。まったくもって偏した認定です」
「はっきり言って、調査委員会はLINEで本人が、亡くなった彼女が訴えて書いたことについてほとんどすべて否認している」
遺族側が「調査委員会に証拠として提出したものの認められなかった」と訴えるLINEのやりとりは他にもあるといいます。
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「(上級生が)ヘアアイロンを当てやけどをさせたという事実を(劇団側は)認定していない」
劇団側が「調査で、上級生Aが故意に押しつけた事実はない」としたヘアアイロンの問題です。遺族側によると、女性はヘアアイロンでやけどをした後、母親にこんなLINEを送っていたといいます。
【亡くなった女性が送ったとされるLINEの内容】
「まえがみ」
「○○(上級生A)にまかれて」
「やけどさされた」
「ちゃいろになってる」
「わたし」
「でこ」
「さいあく」
「くすりもらってぬってるけど」
「芝居の通しが痛かった」
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「家族や本人のLINEにも書いている証拠をすべて調査委員会には提出したにもかかわらず、なんらその問題について言及せず、やけどは大したことがないかのような」
調査報告書には、女性が診てもらった劇団診療所の看護師のヒアリングをもとに「ヘアアイロンでやけどをすることは、劇団内では日常的にあること」と書かれていましたが――
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「(母親によると)皮膚が赤くなり、3センチもめくれあがっている状態だったと。事実経過としては、ヘアアイロンは被災者が自分で使おうとしたのに対し、(上級生)Aが『髪を巻いてあげる』と言って、その結果、Aが操作するヘアアイロンによりやけどが発生した。こういうことがよくあることでは決してありません」
「加えて言えば、Aがわざとやったのではないと否定したとしても、これだけのケガを下級生にさせたのであるから、そのことについて被災者や関係者に対して深く謝罪すべきところ、何一つ謝罪を行っていません」
一方、今回の調査報告書を受けて劇団側が過重労働を行ったことを認定したことなどについては――
亡くなった宝塚歌劇団員の遺族の代理人弁護士
「過重労働の問題は評価している、その問題の認定については」
一定の評価を示したものの、劇団側が認定した労働時間については「実態より少ない」と指摘しました。
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東京宝塚劇場では14日も公演が行われ、ファンが続々と入場していきました。
今回の会見、ファンはどう受け止めているのでしょうか。
ファン歴約30年の人
「深夜遅くまでみなさんが稽古しているのは、ファンはみんな知っているので、これからみんな自分の体のことも気をつけてお稽古していっていただければいいなと。みんなが笑顔で過ごせる環境で今までのような素晴らしい舞台を作っていってほしい」
宝塚ファン
「亡くなった方のことを思うと本当に心が痛むんですけど、とにかく改善して、新しい時代に合わせた運営をしてもらえたら」
今後、遺族側は劇団側に意見書を提出し、11月末までに対面での交渉を行う予定だといいます。
補償や謝罪について具体的なことは決まっておらず、劇団側は「きちんと話して対応させていただきたい」としています。
(11月14日放送『news zero』より)