「泣き寝入りはしたくない」同性愛者であると上司に広められ…うつ病など発症 20代男性「アウティング」で初の労災認定
20代の男性が、同性愛者であると上司に広められたことでうつ病などを発症、これが初めて労災と認められました。
男性「(暴露されたと知った時)パニック状態でその時は、嗚咽というより、体調がわるくてめまいなどがすごく、その場から逃げたい、消えたい状態に陥りました」
東京都内の生命保険代理店に勤めていた20代の男性は、2019年5月、緊急連絡先として、豊島区の制度を使ってパートナーになっている男性の名前を会社に伝え、直属の40代の男性上司には、自分が同性愛者であることを伝えたということです。その際、同性愛者であることを業務上知る必要性が高い正社員にのみ、本人から言うこととし、パートの従業員には伝えないということを会社側と確認しましたが、上司は、パート従業員1人にこの男性に同性のパートナーがいることを伝えてしまいました。これは「アウティング(性的指向などを本人の許可なく人に暴露する)」といいます。
上司は「自分から言うのが恥ずかしいと思ったから俺が言っといたんだよ。1人ぐらい、いいでしょ」と笑いながら話し、謝罪もなかったということです。
この後、男性はこの上司やパート従業員との関係が悪化、この上司からの暴言も増え、社長に相談したものの事態は改善せず、動悸(どうき)、不眠などのほか、電車に乗ることもできなくなり、自殺したい気持ちが高まり、受診した結果、不安神経症と診断され、長期の休職、その後、退職を余儀なくされたということです。
男性は体調悪化の中でも「泣き寝入りはしたくない」と考え、パートナーの支えも得ながら、NPO法人POSSEに相談、個人でも加入できる労働組合にも加わり、会社側と交渉を始め、性的マイノリティーに関する暴露を禁止する条例がある豊島区にも救済を申し立てました。男性との交渉で、会社側は当初「善意だった」と主張し、アウティングが許されない行為だとの認識がない様子でしたが、男性側が組合とともに記者会見やデモなどをしたこともあってか、2020年10月、会社側は事実関係と責任を認め、男性と和解。上司は男性に直接謝罪したということです。
そして、男性は2021年4月、労働基準監督署に労災を申請し、去年3月、労災と認められました。情報公開請求で入手した公式の書類には、上司による「アウティング」と明記されており、支援した労働組合によるとアウティングによって発症した精神疾患の労災認定は日本初だということです。
なお、男性は、対人恐怖症やそううつ病とも診断されその症状は今も続いているということです。
厚労省の指針では、アウティングをパワハラと規定しています。男性は、アウティングを罰則付きで禁止する制度が必要だと述べ、性的マイノリティーへの差別がある中では「絶対に会社では(性的指向などについて)言えない。それをオープンにできるのはごくわずかだと思う。アウティングは、自殺につながるほどのことだとわかってほしい」と訴えました。
男性を支援してきたNPO法人POSSEの佐藤学さんは、会社の適切な対応はどうあるべきだったか問われると「原則として、性的指向などについて、誰に、どの内容までは伝えてよいかを本人に確認すべき。本人に同意なく広めたのが問題だった。こうした内容は、本や企業内研修でも学べるはずで、会社としてどうすべきかを勉強すべきだ」と話しました。