全国唯一“刑務所内の中学校” 初の女性受刑者「勉強したい」と強く思うワケ…卒業までの日々【バンキシャ!】
長野県にある刑務所の敷地内には全国で唯一、中学校がある。教室で授業を受けているのは、刑務所に服役している受刑者たち。去年、初めて女性の受刑者が入学し、1年間、義務教育の内容を学んできた。彼女たちが「勉強をしたい」と強く思うワケとは──。
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今月6日、ある学校の生徒たちが卒業の日を迎えた。
「卒業生、起立」
顔を明かせないそのワケは──。
生徒
「どんなときでも私たちを応援し信じてくださった、皆様の気持ちを裏切ることのないように、二度とこのような施設に戻らないと、この場で誓います」
5人の卒業生は、みな罪を犯して服役中の女性受刑者だ。
生徒
「私の周りは犯罪者が多いから、自分も犯罪して…」
長野県にある「松本少年刑務所」。その敷地内に教育棟と呼ばれる建物に日本で唯一、刑務所内の公立中学校がある。70年前、近くにある松本市立旭町中学校の分校として創立された「桐分校」。卒業式を迎えたのはその生徒たちで、創立以来初めてとなる女性の生徒だ。
犯した罪と向き合いながら、学びを通じ、彼女たちが得たものとは? 卒業までの日々をバンキシャのカメラが追った。
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主に26歳未満の罪を犯した男性が収容されている松本少年刑務所。2023年、この刑務所内にある中学校を「バンキシャ!」の桝太一キャスターが訪れていた。
桝キャスター
「学校です!学校というのが分かりますね。ここだけ別世界みたいです」
少人数の1つだけのクラス。
桝キャスター
「学生さんはどういった人がどういった基準で選ばれている?」
山本看守長
「全国の刑務所に募集をかけまして、入学試験みたいな問題集と志望動機と、中学校の教育が必要かどうかの人を選んでいる」
読み書きのできない受刑者が、学びを力に社会復帰できるようにと、創立された中学校だ。そんな旭町中学校桐分校が去年、初めて女性受刑者を受け入れた。
松本少年刑務所・中道徹 所長
「男性用の刑務所だから(トイレなど)設備面とかで、今までできなかった。条件が整い、今回初めて女性受刑者を受け入れた」
入学にあたり年齢制限はなく、重視されるのは刑務所での生活態度。そして、強い学習意欲だ。
今回選ばれた5人は20代から60代で、薬物事犯や窃盗などの財産犯だ。学ぶ期間は1年間となり、平日の午前8時から午後4時まで、毎日7コマの授業を受け、夏休みや冬休みはない。中学3年間分のカリキュラムを1年で学ぶ。一般受刑者と違い、刑務作業はない。
道徳の授業ではこんな質問も…
生徒
「協調力ってどんなこと?」
担当教官
「協調性ってやつだね。協調性が自分にあるか」
「社会に出ても思った通りにいかない。こっちいったものを戻す、あっちいったら戻す、修正力という力をつけなければいけない」
教師は、刑務官や元教員など。受刑者が学びを通して自分をみつめ、反省の心をつちかうことも目的としている。昼食時には、教室で給食当番が盛り付けし配膳。その間も時を惜しむように自ら学習を続けていた。
生徒の多くは、服役する前、家庭環境などから十分に義務教育を受けてこなかったという。
生徒(30代)
「高校も行けてなくて、(出所後)仕事をするのに、今は高卒以上ばかりだから基礎から学び、夜間の定時制高校に行きたい」
再出発に向け、失った時間を取り戻そうとしていた。
生徒(30代)
「数学は連立方程式とか、できたときはすごいうれしい」
──経験したことない感覚ですか?
生徒(30代)
「したことない。楽しかった」
知らなかったことを知る喜び。
生徒(60代)
「学んできたことで『もっと知りたい』という興味がわいてきました」
授業を終え、単独室に戻ってからも学びは続く。消灯後も、机の小さな明かりが教科書を照らしていた。自習は、午後10時まで許されている。
担当教官
「分校の目的の一つとして世界を広げるというのが大きい。それは知識であったり、人との触れ合いであったり。それに喜びを感じると、どんどん吸収していくんじゃないかなと。選択肢が増えればそれだけ間違い(再犯)の確率も少なくなっていくんじゃないかなと」
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卒業を間近に控えた先月下旬。毎年、旭町中学校の分校生たちが、刑務所を出て向かう場所がある。車で5分ほどのところにある、一般の中学生が通う旭町中学校本校だ。
刑務官
「行きましょう。どうぞ」
校舎内や授業を見学する、この特別行事。出所後に待つ社会生活に向けての経験になればと、卒業前のこの時期に行われている。図書室の見学では、多くの書物にふれ、思わず表情がやわらぐ。
生徒
「あった!竹取物語」
教科書で習ったばかりの竹取物語を食い入るように見る。そして、刑務官に囲まれながら、授業が行われている教室に向かった。
生徒
「こんにちは」
あいさつをのぞき、本校の生徒と自由に会話することは許されていない。
生徒(60代)
「知らない人で自分より年齢の低い人に会うのが、すごく不安でした」
出所後の自分たちを社会は受け入れてくれるか。常にそうした不安を抱えているという。
そして…
司会
「分校生が入場します。盛大な拍手でお迎えしましょう」
同じく卒業を迎える3年生、約100人が待つ音楽室へ。
司会
「分校生のみなさん、こんにちは。本日は短い時間ではありますが皆様にとっても私たちにとっても、思い出となることを願っております」
実は桐分校には、音楽の授業もある。練習してきた合唱曲「Believe」をこの日、約100人の生徒の前で披露することになっていた。
──(Believe)
たとえば君が傷ついて くじけそうになった時は 必ず僕がそばにいて ささえてあげるよ そのかたを
本校の生徒
「私たち100人の前で歌うというのはすごく緊張することだと思いますし、それでもすごく一生懸命歌っているし、過去のことを悔やんでいるというのが歌からも姿からもすごく感じとれました。こういう経験ができて見方が変わりました」
──(Believe)
I believe in future 信じてる
すると…
先生
「サプライズです。一緒に歌います」
──(Believe)
もしも誰かが君のそばで 泣き出しそうになった時は だまってうでをとりながら 一緒に歩いてくれるよね
生徒(60代)
「みんなが温かい目で、一人一人がすごく輝いた目で、包んでもらえるという気持ちがすごくうれしくて」
生徒(30代)
「みんなの応援の気持ちを踏みにじることが二度とないように、しっかり生きていきたいと思いました」
──(Believe)
悲しみや 苦しみが いつの日か喜びに変わるだろう
分校生はサプライズに声を震わせながら歌い続けた。
生徒たち
「ありがとうございました」
その後、1年間の学びを終え、それぞれの刑務所に戻っていった分校生たち。自らの罪と向き合いながら残りの刑期を過ごしていく。
(3月23日放送『真相報道バンキシャ!』より)