家屋倒壊が増えた原因? 1年前の“震度6強”…損傷しても改修できず 背景に大工不足【武居信介の防災学】
注目すべき点は、1年ほど前に起きていた地震でも大きな被害を受けていたことです。昨年の5月5日に発生した能登半島沖地震では、珠洲市で震度6強を観測、石川県全体で3422棟の家屋で一部損壊以上の被害が発生していたのです。被害が大きかった珠洲市正院町などでは、去年5月の地震直後に行われた応急危険度判定の結果、立ち入りが危険な“黄色紙”や、原則として立ち入り禁止の赤紙が張られたままの家屋が、正月の能登半島地震の発生の直前でも多く残されていました。
そこに、最大震度7の大きな揺れが再び襲ってきたわけで、すでに被災して損傷を受けていた家屋の多くが倒壊する結果となりました。
◆被災家屋…1年経って改修進まず
被害が大きかった珠洲市・正院地区の区長、浜木満喜さんは次のように語ります。
「去年の地震の後に被害を受けた家を改修したくてもやってくれる大工さんがいないんです。大工さんも高齢化しているし、そもそも能登でも大工さんが少なくなっていて、改修を頼んでも請け負ってくれる若い人がいないんです」
「私はしかたなく、80歳を超える知人の大工さんに教えてもらいながら自分で自宅の補修をし、応急措置をしただけの家で暮らし続けていました。また高齢化が進んでいて、多くの人が家の改修をしたところで何年住み続けられるかわからず、多額のお金を投ずることに躊躇する人も多かったです」
応急修理をしただけの浜木さんの自宅は今回の地震で全壊。いまは夫婦で仮設住宅で生活しています。珠洲市の高齢化率は去年の段階で51%を超えていました。地域住民の高齢化が地震への備えを脆弱化させる結果にもつながっていたのです。
◆“日本の大工” 就労者は20年間で半数に…
総務省が5年ごとに行っている国勢調査によると、大工に就労している人数は2000年に約64万6800人いたのに対し、2020年には29万7900人と20年間で約半分に減少してしまっています。年齢構成を見ると60歳以上の割合が2020年の段階で43%と高齢化も顕著に進んでいます。
さらに、地震被害にあった家屋の被害状況をきちんと把握して修理していくにはかなり高度な技術と知識が必要ですが、最近の住宅建設は工場で生産した資材を現地で組み立てるだけの作業が増えていることから、こうした経験豊かな大工さんの人材も減ってきてしまっているといいます。
◆南海トラフや首都直下地震 もし起きた場合…
2019年の台風15号(令和元年房総半島台風)で被害を受けた千葉県・房総半島でも、被災家屋の改修工事はなかなか進みませんでした。あまりに多くの家屋が被災したため、屋根が壊れてしまったものの修繕してくれる業者が手一杯となってしまい、ブルーシートで応急修理をしたまま暮らしを続けるしかなかった家が多くありました。
いま、南海トラフの巨大地震や首都直下地震などが迫っていると指摘されています。こうした地震では2度3度と大きな揺れが襲ってくる可能性が高くあります。
しかし、損傷した家屋を補修してくれる業者がすぐに見つかる可能性はとても低いのが現状です。そうした大きな揺れに備えるには、簡単には損傷しないようにしっかりとした耐震性のある住宅にしておくとともに、家具をきちんと固定するなどして、自分や家族の命を守るために自ら意識をもって備えておくことが重要だといえます。