倒壊寸前の“迷惑空き家” 都会でナゼ増える? 相続した娘は「申し訳ありません」と謝罪の言葉を…
高齢化や人口減少により増え続ける「都会の空き家」。国の調査によると、空き家の総数は2018年までの20年で1.5倍に増加。不法投棄や放火など、現場では近隣住民を脅かす深刻な事態も発生している。この問題を川崎正明記者が取材した。(調査報道特番『QUESTION!みんなのギモン』 ―都会の空き家―<前編>)
■まるで森!? 高級住宅街にたたずむ空き家
市区町村別では全国最多、約5万戸もの空き家がある東京都世田谷区。大きな住宅が立ち並び、緑豊かなイメージも強い高級住宅街だが、実は至る所に空き家が存在していた。
――雨戸が木で塞がれています。
空き家の敷地内からは樹木がはみ出し、道路を覆っていた。
――ここが入り口。門も朽ち果てています。この奥に建物があるようですが、木が生い茂っていて見えません。鳥の鳴き声がすごい。森のような状態。
近所の人たちは悩まされていた。
「一番はゴミですね。ゴミ捨て場、不法投棄のポイントになっていて、ここに捨てていく。僕がここら辺に来て20年たちますから、それより前からずっとだと思います」
■26年前…まだ屋根が見えていた頃
26年前(1997年12月)の衛星写真では、住宅街の中に、木が生い茂った家が見える。この時はまだ、家の屋根が見えていた。
しかし、その16年後(2013年2月)。木は道路にはみ出し、屋根は見えなくなっていた。
そして、去年(2022年4月)。木はさらに大きくなり、隣の家にまで及んでいた。20年以上にわたって、放置されたとみられる。
都会の中には、管理されず、放置されたままの空き家がいくつも存在していた。
■空き家対策のスペシャルチームとは
そんな深刻な空き家問題に対応するのが、世田谷区の建築安全課に作られた「空家・老朽建築物対策担当」。千葉妙子係長が率いるスペシャルチームだ。
ロッカーの中のケースには、1軒1軒の空き家情報が記録されていた。
――奥沢、上野毛、駒沢…いろいろあるのですね。
5万戸あるとみられる世田谷区の空き家。倒壊の危険など早急な対応が求められる約1000件に対して売却や解体に向けて持ち主と交渉を進めている。
――空き家になる理由は?
千葉係長「両親が亡くなられたり、施設に入られたりする時は、子供世帯は自分の家を持っているので、実家が空いてしまうというのが一番多いと思います」
■木に覆われた空き家に不安を感じる近隣住民
小田急線の駅から程近い場所に見つけた倒壊寸前の空き家。
――こちらのお宅もすごい状態。不法投棄されたようなものがたくさん。
玄関の隣に植えられた木が成長し、家全体を覆っていた。隣の家の3階の窓からのぞいてみると。
――屋根が完全に抜けています。1か所、2か所、3か所…倒壊寸前。
朽ちた屋根には穴があき、今にも崩れそうだ。隣の家との距離は、わずか数十センチ。住宅が密集する都会の空き家ならではの危険な光景が広がっていた。
近所の人「火事が、火が一番怖い」
火が出たら隣に燃え移るおそれもある。
――鳥が木の中に入っていきます。
夕方になると、たくさんの鳥が集まり、木の実を食べていた。
近所の人「木の実を食べてフンをする。これ全部、鳥のフン」
電線に止まった鳥のフンで、道路は汚れていた。
近所の人たちによると、高齢の夫婦が亡くなった後、相続した娘が家の管理をしていたが、ここ数年は放置されたままだという。
■相続した娘の自宅へ…ドアに挟んだメモは
相続した娘の居場所を突き止め、話を聞きに向かうと、そこには千葉係長らの姿があった。世田谷区も調査を進めていたのだ。
自宅を訪ねて接触を試みるが、留守のようだったため、千葉係長は連絡をくれるよう記したメモを玄関ドアの隙間に挟む。相続した娘が戻れば、メモはなくなっているはずだ。
男性職員「来週来て(メモが)動いているか、動いていないか…」
6日後、千葉係長らが再び訪れると、メモはなくなっていた。
千葉係長「ドア開けているのか…どうするかぁ」
男性職員「けっこう遅い時間に帰宅している感じなんでしょうか」
千葉係長「1回も会話をせずに、ここまでくるのはびっくり」
――今までこういうケースは?
千葉係長「ここまではないです。手紙送っても無視されることはありますが、1回ぐらいは返事くれたのが普通」
世田谷区では、これまで何年にもわたって、手紙や電話、訪問などで、相続した娘と連絡を取ろうとしてきたという。
千葉係長「放置される空き家ができるのはどうしてなんだろう。そこを突き止めていって (放置される)空き家を発生させないというところまで持って行きたい」
空き家を放置する理由を知りたい――それが問題解決の糸口になると、千葉係長は言う。
■「家系図」で親戚まで…相続した娘の居場所を
別の日、世田谷区役所では、相続した娘の戸籍謄本を取り寄せ、家系図を作っていた。接触できないため、調査範囲を親戚まで広げ、相続した娘の確実な居場所をつかむ。細い糸をたぐり寄せる作業が続いていた。
千葉係長「(相続した娘と)世田谷区が連絡取れていないので、その次に親族、どのような方がいるのか調べて接触を図っていく」
■相続した娘は何度も「申し訳ありません」と…
我々は相続した娘から話を聞くため、彼女が帰宅するのを待った。そして、待ち続けること15日。ついに彼女が現れた。
――こんばんは。日本テレビですけど、空き家の取材をしていまして。大変な事もあったと思うのですが。
相続した娘「申し訳ないです」
この日、相続した娘が取材に答えることはなかった。別の日の取材でも彼女は「申し訳ありません」と謝罪の言葉を繰り返した。
彼女が相続したのは両親が住んでいた実家だが、親との思い出や実家への愛着から取り壊せずにいる人は多いという。
■区が「立ち入り調査」解体への働きかけも
倒壊寸前の“迷惑空き家”。我々が相続した娘を取材してから2か月後、新たな動きがあった。
――世田谷区の調査チームが今から立ち入り調査に入るということです。
老朽化した家の状況などを把握するため、空家等対策特別措置法に基づく立ち入り調査が行われた。
千葉係長「建物の老朽化が進み危険な状態になるのであれば、(立ち入り調査などの)法的な措置は進めます。それと並行して、所有者が自分の責任で、自分で決断して(解体に向け)動いていただく。そちらを促す作業も進めています」
千葉係長によると、その後、相続した娘と連絡がとれ、話し合いも進んでいるという。区は、空き家が解体されるまで働きかけを続けていく方針だ。
(4月22日放送 調査報道特番『QUESTION!みんなのギモン』より)
◇ ◇ ◇
川崎正明(日本テレビ報道局・調査報道班デスク兼記者)
報道局に20年以上在籍しニュース番組の取材、制作に携わる。過去には食品の産地偽装の実態や原発の再稼働問題などを調査報道。