更地にすると固定資産税3倍も!? 都会で増える“迷惑空き家” 解体を「決断」した女性の思い
高齢化や人口減少により増え続ける「都会の空き家」。国の調査によると、空き家の総数は2018年までの20年で1.5倍に増加。不法投棄や放火など、現場では近隣住民を脅かす深刻な事態も発生している。この問題を川崎正明記者が取材した。(調査報道特番『QUESTION!みんなのギモン』 ―都会の空き家―<後編>)
■解体を決めた家に残る亡き父の思い出
市区町村別では全国最多、約5万戸もの空き家がある東京都世田谷区。大きな住宅が立ち並び、緑豊かなイメージも強い高級住宅街だが、実は至る所に空き家が存在していた。
その世田谷区で、家の解体を決断したAさん。去年の春、父親が亡くなりAさんの実家は空き家になったという。
亡き父の思い出の品が、たくさん残されている実家。父親が生前に愛用していたラジオも、その中の一つだ。
Aさん「毎晩、寝るときに枕元に持って行って、夜、目が覚めるとラジオを聞いていたようで」
いつも父親が座っていた椅子には、応援していた阪神タイガースのクッションも。
Aさん「昔の事を思い出したりして寂しい気持ちにはなりますけど、空き家の状態で長いこと放置すると防犯上、周りの方も心配するでしょうし」
Aさんは遺品の整理や物の片付けなど、時間と手間のかかる作業を済ませた後、最後は家を解体するという。
そんなAさんの決断を後押ししたのは、世田谷区が始めた「せたがや空き家活用ナビ」というサービス。空き家の所有者と不動産業者などを結びつける取り組みだ。
■家があれば10万円、更地なら30万円
一方でAさんのような決断がなかなかできず、親との思い出や実家への愛着などから空き家を取り壊せずにいる人は多いという。
さらに、空き家が放置される理由は他にもある。世田谷区が行った調査で最も多かったのは、「更地にすると、固定資産税が上がる」というものだった。
土地の上に家が建っている場合、「住宅用地」として優遇措置がとられ、固定資産税は減額される。しかし、解体して更地にすると優遇措置は解除され、税金は上がる。
では、更地にすると固定資産税はどれほど上がるのか。土地の路線価をもとに、標準的な税金の額を調べてみた。
「世田谷区内、私鉄の駅から程近い場所に100平方メートルの家」が建っていると仮定する。この住宅の固定資産税は年間約10万円。しかし、更地にすると3倍の約31万円になることがわかった。
固定資産税は土地の価格によって決まるため、地価の高い都会では、その負担がより大きくなる。これが、空き家が減らない都会ならではの事情だ。
こうした中、国は法律を改正し、「放置されている空き家」について税金の優遇措置を解除することを決めた。税金を上げることで、放置された“迷惑空き家”を減らそうという狙いだ。
■税優遇「解除」も…求められる都会の空き家対策
今後さらに深刻さを増す「都会の空き家」問題。持ち主だけでなく、国や地方自治体のさらなる対策が求められる。
(4月22日放送 調査報道特番『QUESTION!みんなのギモン』より)
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川崎正明(日本テレビ報道局・調査報道班デスク兼記者)
報道局に20年以上在籍しニュース番組の取材、制作に携わる。過去には食品の産地偽装の実態や原発の再稼働問題などを調査報道。