関東大震災から100年…命を守るための“2つの教訓”
1923年に発生した関東大震災から、今年でちょうど100年。関東大震災とはいったいどんな災害だったのか。首都直下地震から命を守るための教訓とは…。
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9月1日は「防災の日」です。1923年のこの日に「関東大震災」が起きたことに由来していますが、それから今年でちょうど100年となります。そこで「関東大震災から学ぼう」をテーマに、首都直下地震から命を守るための“2つの教訓”をご紹介します。
■100年前の関東大震災の痕跡 東京の街路樹にも…
まず、関東大震災とはそもそもどんな災害だったのか。実はそれを紐解く鍵が「街路樹」にあります。
ということで、ここでクイズです。
次の3つの樹木のうち、東京都の街路樹で1番多いのはどれでしょうか。
A サクラ
B イチョウ
C ポプラ
正解は…Bの「イチョウ」です。
実は関東大震災の時、東京では大きな火災が起きたのですが、街路樹として植えられていたイチョウが焼け止まりになった、つまり“それ以上燃え広がるのを防いだ”とされたそうです。イチョウに延焼防止の効果があるということで、復興の時にイチョウが多く植えられたと言われています。
実は、当時の火災を生き延びたイチョウが今も都内に残っています。
それは皇居のすぐそば、この大きなイチョウの木です。保存のために少し位置が移されてはいますが、100年前もこの辺りにあり火災に巻き込まれました。今でこそ葉が生い茂っていますが、当時は黒焦げになったともいわれています。関東大震災は「火災による被害」がとにかく大きな災害だったのです。
関東大震災は1923年9月1日の午前11時58分に発生しました。激しい揺れが首都圏を襲い、都心でも震度7に達したと推定されています。お昼ごはんの時間帯だったこともあり、当時使われていた「かまど」や「七輪」から同時多発的に火災が起きました。
関東大震災で亡くなった方・行方不明になった方はおよそ10万5000人、そのうちのおよそ9割は火災によって命を落としたといいます。全壊・全焼した建物はおよそ29万棟にのぼりました。
では、火災の規模はどれくらいだったのか。こちらは当時の東京市の地図なのですが、赤で示されているのが焼失したエリアです。
これを現在の地図に重ねると、東京スカイツリーから東京タワーの間がほぼ焼けてしまったことがわかります。
さらに現在の墨田区に被服廠跡(ひふくしょうあと)と呼ばれる軍服などをつくる工場の跡地があったのですが、この場所では“ある恐ろしい現象”が起きていました。
それが、今日知ってほしい「関東大震災の教訓」1つめ。地震のあとの「火災旋風に注意」です。
被服廠跡で発生した、火災旋風を描いた絵があります。
大きな渦に、いろいろな物が巻き上げられています。火災旋風とは炎や煙が竜巻のようになって、物や人を吹き飛ばす現象なのです。
広い空き地だった被服廠跡には激しい揺れで家を失ったり、火事から逃げてきたりした人など、およそ4万人の市民が家財道具を持って避難していました。そこを火災旋風が襲い、4万人のうち3万8000人が亡くなりました。
どのような状況だったのか。生存者の1人で当時19歳だった、山岡清眞さんがつづった手記があります。
『眞黒な怪物が大きなマントを拡げて子供をつゝむやうに(中略)眞黒な雲か煙か押寄せて来て』
『ハッと思つた瞬間身体が宙に浮き上りました』
『家財道具に火がついてとび交う様はこれが地獄の何丁目かと思った』
想像を絶する状況だったことが伝わってきます。
これだけ甚大な被害を出した火災旋風ですが、その発生条件についてはまだ解明されていない部分が多いのです。
では、どう対策すればいいのか。
火災旋風を研究する消防庁消防研究センターの篠原雅彦主幹研究官によると、大規模な火災が起きればそれだけ大きな火災旋風が発生する確率も高くなるので、まずは1人1人が火災を起こさない、火災を大きくしない努力をすることが重要だということです。
例えば…
●避難の際は停電から復旧した際に起こる「通電火災」に備えてブレーカーを落とす
●家に消火器を準備しておき、もし火が出てしまったら初期消火をする。ただ、難しいと判断したらすぐに避難して身を守る
…などが重要だということです。
■関東大震災の教訓② 「"群集事故"に注意」
さらにもう1つ知ってほしい「関東大震災の教訓」。それは「"群集事故"に注意」です。
関東大震災では避難しようとする大勢の人が橋などに押し寄せ、群集事故が起きたという記録があります。この時と同じことが、首都直下地震で起きてもおかしくないと指摘されています。
群集事故を引き起こす大きな要因になると言われているのが「帰宅困難者」です。
東日本大震災では、東京だけでおよそ352万人の帰宅困難者が出ました。もし首都直下地震が発生したらこれを大きく上回る、最大で452万人の帰宅困難者が生まれると予測されています。
これだけの人が一斉に移動すると、激しい揺れでガタガタになった路面で転倒する人が出たり、余震が起きて急にみんながその場から逃げだそうとしたり、ちょっとしたきっかけで群集事故が起きてしまうといいます。
では命を守るためにどうすればいいのか。
都市防災に詳しい東京大学大学院の廣井悠教授によると、最大の対策は「すぐに帰らないこと」。安全が確保できているなら、ある程度状況が落ち着くまでその場にとどまりましょう、ということです。
そのためには…
●会社や学校など、普段いる場所に水や食料などの備蓄物資を日頃から準備しておくこと(東京都は3日分の備蓄を呼びかけ)
●家族の安否が不安だと「やはり帰りたい」とどうしても思うので、“いざという時の連絡手段”をあらかじめ話し合っておくこと
例えば、公衆電話などからも使える「災害用伝言ダイヤル」に伝言を残そうと決めておくこと
…などが重要だということです。