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倉本聰さん“最後の舞台演出”にかける思い

2016年1月27日 4:32
倉本聰さん“最後の舞台演出”にかける思い

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。26日は「最後の舞台演出?」をテーマに、日本テレビ・小栗泉解説委員が倉本聰さんへのインタビューを交えて解説する。

 倉本さんが脚本・演出を手がける舞台「屋根」の全国公演が今月、始まった。倉本さんは現在81歳。これまでは脚本と演出ともに手がけていたが、次の舞台の演出はしないという。北海道・富良野市で24日、倉本さんに話を聞いた。


■本当の幸せとは何かを問いかける舞台

 -次の作品は、演出はもうされないと?

 倉本さん「わからないですけどね。演出ってすごい体力がいるんでね。一度、落ち着いて静かに考え直したいという気があります」

 最後と思っていたものの、まだ迷いはあるようだ。今回の舞台は脚本も演出も倉本さんが担当しているが、大正・昭和・平成と大きく変わる時代の中で、戦争や高度経済成長などに翻弄(ほんろう)される農家の夫婦とその家族の姿を描いたもので、本当の幸せとは何かを問いかけている。演出家としては最後の作品になるかもしれない、今回の舞台に託した思いを聞いた。


■作品を通して「戦争の記憶」を

 -今回の舞台は「屋根」というタイトルですけれども、廃屋を見て回られるということがあるそうですね?

 倉本さん「好きなんですよね。廃屋探して入り込むのが。屋根をはぐってのぞきますとね、わりと、その家を退去したときの、夜逃げの形跡があったり、想像して、住んでいた人たちの悲しみとか、いろんなことがわかりますしね」

 倉本さんは富良野の廃屋を見て回って、その屋根の下でそれぞれの家族が乗り越えてきたであろう出来事に思いをはせて、この舞台を作り上げたという。また、今回の舞台では、作品を通して「戦争の記憶」を伝えていきたいという思いがあるという。

 倉本さん「ちょうど大空襲のあったとき、あの頃、東京にいたんですけれども、上をB29が飛んでいくんですよね。それを屋根の上にのぼって、おもちゃの鉄砲でダダダなんてやって。おやじに引きずり下ろされましたけど(笑)。やっぱり戦争中の記憶っていうのは、なんといっても大きいですよね」


■倉本さんが不安に感じることとは

 そして戦後、猛烈なスピードで経済発展を遂げて、今も際限なく豊かさを求める日本人の姿に、倉本さんは疑問を感じているという。

 -すごいスピードで時代が変わっていった。その時代というのもまさに体感していると思うんですけど。

 倉本さん「不安でした。ものすごい不安感がありました。こんなにぜいたくになっちゃって、リッチになっちゃって、こんなことがいつまでも続くわけがないというのが、ものすごくあったんですよ。気持ちの中に不安感が生じて、これはちょっとやばいぞという気がして、もう少しやっぱり身の丈に合った暮らしというものをした方がいいんじゃないかと」


■今に満ち足りる…それが本当の幸せ

 東京から富良野に移り住んで約40年。日本人が忘れたものは何かを問い続けてきた倉本さんに、本当の幸せについて聞いた。

 倉本さん「僕は、戦時中も幸せだと感じていたんですね。今も幸せだと思っています。僕は戦争中、爆音の中で、防空壕(ごう)にもぐって、家族で怖さを防ぐために、必死になって歌を合唱していたときがずいぶんありましたけれども、そのときの幸せ感というのは、けっこう幸せでしたよね。腹もへっているんだけど。幸せっていうのはね、やっぱり、今に満ち足りているっていうこと」

 今に幸せを感じられる、それが、本当の幸せなのかもしれない。

■ポイントは「立ち止まる」

 きょうのポイントは「立ち止まる」。倉本さんは、今の日本はまるでスーパーカーだけれど、ブレーキとバックギア、2つの装置を付け忘れてしまった。効率よくスピードを上げることばかり追い求めるのではなく、身の丈を知り、今に満足するために、ブレーキを付ける発想をどこかでしないといけないとも話していた。「立ち止まる」ことで見える幸せに気づきたいと思った。