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“障害は特性”自閉症アーティストGAKU 「絵は社会とつなぐ唯一の接点」

2022年4月1日 19:00
“障害は特性”自閉症アーティストGAKU 「絵は社会とつなぐ唯一の接点」
自閉症アーティストGAKUさん(20)/提供:遠藤アスミ氏

4月2日は世界自閉症啓発デーです。自閉症などの発達障害について、広く理解を深めてもらうために国連が定めた日です。こうした中、年に200枚以上のペースで絵を描き続ける20歳の自閉症アーティストがいます。なぜ彼は絵を描き続けるのか? そこには社会とをつなぐ“接点”がありました。

■自閉症アーティストGAKUさんとは

神奈川県・川崎市にある雑居ビル。アトリエでほぼ毎日、絵を描き続けているのは佐藤楽音(がくと)さん20歳です。

楽音さんは自閉症アーティストGAKU(ガク)という名で活動しています。

GAKUさんが絵に目覚めたのは16歳の時。以降、年間200枚以上のペースで描き続けています。絵を描くときはアーティストのスイッチが入りますが、実は重度の自閉症と知的障害があり、言語能力は6歳程度だといいます。

父親、佐藤典雅さんによると、動いている車が止まると大泣きし、好きな作品のDVDを購入しては、シュレッダーにかけることを繰り返すといいます。

さらに好きなお菓子も袋からピーナツだけを取り出し、毎回誰かにあげるという彼なりのルーティンも。

また多動症のため、じっとしていられず、家の中ではいつも小走りで動き回ります。今のこだわりは、1日に5回シャワーに入ることだといいます。

■3歳の時に診断された自閉症 アメリカで9年間“療育”

GAKUさんが自閉症と診断されたのは、3歳の時だったといいます。

父・典雅さん
「息子は3歳の時に自閉症と診断されました。当時は、『自閉症ってなんだ?』と。いろいろ調べたらアメリカのロサンゼルスで対策が進んでいるということだったので、仕事を辞めて家族全員で引っ越しました」

当時は、“自閉症は治せる”と思っていたという典雅さん。アメリカで、9年間の療育生活が続きました。その後、帰国し現在は神奈川県川崎市で暮らしています。

絵はアトリエでしか描かないというGAKUさん。

■アーティストとしてのはじまりは、岡本太郎さんの作品

なぜ、GAKUさんは絵を描くようになったのでしょうか?

アトリエでGAKUさんと一緒に働き、共に時間を過ごしているアートディレクターのココさん。きっかけはGAKUさんが16歳の時に見た、ある芸術家の作品だったといいます。

アートディレクター ココさん
「高校1年生の時に川崎市にある岡本太郎美術館に一緒に行きました。すると、じっとしていられない彼が作品の前で5分以上も立って見続けていたのです」

岡本太郎さんの作品を見た翌日、突然GAKUさんは、こう話したといいます。

「GAKU 絵を描く!」

GAKUさんが発したこの言葉が、アーティストとしてのはじまりでした。

■独創的な作品は700枚以上 初の個展も

2018年、最初に描いた作品「太陽」。複数の◯が描かれ、その中に青や赤や緑などが色鮮やかに表現されています。

これまで描いた作品は700枚以上にのぼり、カラフルな色を使った独創的な世界観で描かれています。

これはGAKUさんの代表作の1つ、犬を表現した作品です。真っ赤な背景に描かれた笑顔の犬。明るい色と対照的に、耳は黒く塗られ、その上に白いドットが描かれています。

真っ白いキャンバスに、何を描くかは本人次第だというGAKUさんの作品ですが、動物の作品もあれば、抽象的な作品も数多くあります。

GAKUさんの作品についてアートディレクターのココさんは。

アートディレクター ココさん
「20歳の子が心で感じていることを、絵で表現しているのかなと感じます。プロになればなるほど、評価が気になりますが、彼はこうしたら高く売れるという計算は一切なく、誰にもこびていないところが魅力です」

どんなに失敗してもキャンバスを捨てたことはなく、必ず完成させるというGAKUさん。年間200枚以上のペースで絵を描き続けています。

描き始めてから1年後、“ある変化”が。GAKUさんはこう語ったといいます。

「GAKU ミュージアム!」

アトリエで描き続けてきた作品が、外の世界に発信されることになりました。

2019年5月、都内で初の個展が開かれ、60点ほどの作品が展示されました。このとき初めて、作品が売れたといいます。

■海外ブランドとコラボも 絵が社会とつなぐ唯一の接点

個展の開催から半年後、GAKUさんはこう語りました。

「GAKU ニューヨーク!」

自分の作品をニューヨークで展示したいと父・典雅さんに訴えたといいます。

ニューヨークで個展を実現させるためには、絵の運搬費などの費用が必要です。そのためクラウドファンディングでお金を募り、開催することができたといいます。

この個展がきっかけで、GAKUさんの作品は海外でも注目されるようになりました。ニューヨークでバッグやポーチなどを扱うブランド「レスポートサック」の担当者から声がかかり、コラボレーションが決定。今年3月には、GAKUさんがデザインしたバッグが発売されました。

また、イギリスの自然派化粧品ブランド「THE BODY SHOP」もGAKUさんがデザインした商品を発売しました。一部の商品は完売した店舗もあるといいます。

売り上げはGAKUさんに還元されるだけでなく、一部は障害者の活動支援にも充てられるなど、社会貢献にも活用されています。

■GAKUさんにとって“絵は言葉” 特性をどう個性に?

父・典雅さんは、息子にとって“絵は社会とつなぐ唯一の接点”だといいます。

父・典雅さん
「彼にとって絵は、言葉なんです。絵を通じて社会に発信できるようになり、初めて外とつながりが持てています。社会的にも、人としても、自分の存在価値を認めてもらえたのかなと思いますね」

思うように話すことができない息子にとって“絵は言葉だ”と語る典雅さん。父親として望むこととは…

父・典雅さん
「彼がアーティストとして活動を続けていくためには、“事業(アーティスト活動)としての経済的な自立”が必要だと思っています。この先、何十年も事業として存続出来るかどうかを考えています」

障害があるかないかは関係なく、息子が絵を描くことについては。

父・典雅さん
「息子は、たまたま絵に興味を持ちましたが、本人が興味を持ったものが種だとすれば、その種を育て芽にして、摘まないようにする環境づくりが大事だと思います。よく自閉症は“個性”だという人がいますけど、僕は“特性”だと思います。障害だからと決めつけるのではなく、持っている“特性”をどのように最大限に発揮すれば“個性”に転換できるかどうかが重要だと思います」

“絵という言葉”を手に入れたGAKUさん。20歳の若者は、この先どんな絵を描き、社会に対しメッセージを発信していくのでしょうか。