“買い物弱者”どう減らす?企業の取り組み
増加する“買い物弱者”。山あいの過疎地だけでなく都市部でも今後、増えるのではと言われる中、こうした人たちに向けて、様々な企業が取り組みを行っている。これからこうした事業が広がっていくには、どんな課題をクリアする必要があるのだろうか。
■“高齢化の加速”が要因
“買い物弱者”とは、経済産業省によると、「足が不自由だったり、駅やバス停などから遠く離れたところに住んでいたりして日常の買い物が難しい人たち」のことをいう。
経産省の推計によると全国の“買い物弱者”の人数は、2010年には約600万人だったが、2015年の段階では約700万人と、5年前に比べ100万人増えていて、また今後さらに増える可能性があるということだ。
なぜこんなに増えているのだろうか。その理由について経産省は“高齢化の加速”が一番の要因であるとしている。ただ、“買い物弱者”といわれると、山あいの過疎地などのことと思うかもしれないが、実は、都市部でも今後“買い物弱者”が増えるのではと心配されている。
■“買い物弱者”は「栄養状態が悪化する恐れ」
都市部であっても、高度経済成長期に建設された、いわゆるマンモス団地などでは、急激な高齢化や住民の減少が進んでいて、周辺のスーパーなどが撤退するケースがある。また、そういった団地は、エレベーターがなかったり、坂の多い地域に建てられていたりして、「買い物に出かけるのが大変」との声が上がっている。
“買い物弱者”の問題に詳しい茨城キリスト教大学の岩間教授は「今後、買い物弱者は、都市部で急増し、多くの人の栄養状態が悪化する恐れがある」と指摘している。
■高まる“移動販売”のニーズ
そこで、こうした人たちに向けて企業が乗り出している。東京・新宿区内を回る“移動スーパー”。4年前に徳島県でスタートしたが、今では各地のスーパーと提携し全国で約180台が走っているという。
東京では新宿区だけでなく品川区や豊島区などでも稼働しているが、この“移動スーパー”には、多い日で50人ほどの客が買いに来るということだ。野菜や果物といった食料品だけではなく、トイレットペーパーなどの生活用品など、あわせて500種類以上の商品が販売されている。
今後もこうした移動販売のニーズは高まるとして、スーパーだけでなくコンビニエンスストア各社も移動販売に乗り出している。
■手伝いも…“御用聞き”サービス
ここまで紹介したのは、お店ごと移動するタイプだが、一軒一軒家を回って必要な物を聞き取って配達する“御用聞き”サービスを行っている会社もある。
取材した日、利用者の家に届けたのは、ティッシュペーパーやお総菜。ただ、それだけではなく、この会社では毎回、同じ担当者が訪ねていて、時には重い物を運ぶなど、できる範囲で家の手伝いをすることがあるそうだ。
ただ、経産省によると、これまでなじみのなかった店の人が御用聞きサービスを始めようとしても、住民が不安に思ってしまい、買い物をしない事例が多くあるそうだ。それだけに、いかに信頼関係を築いていけるかが、今後こうした事業が広がっていくためには課題だ。
■自治体との連携
東京・多摩市にある多摩ニュータウンの例を見てみると、多摩市が宅配大手のヤマトホールディングスと団地を整備したUR都市機構と連携し、買い物代行や配送といった“くらしのサポートサービス”を今年4月、スタートさせた。これは、自治体という公的な機関が連携することで企業に“お墨付き”を与え、安心してサービスを利用してもらおうという取り組みだ。
このように、自治体が事業者とうまく連携することが今後、“買い物弱者”をなくしていくためには必要だ。