「人食いバクテリア」患者が最多…注意点は
人食いバクテリアとも呼ばれる感染症の患者数が今年、過去最多を更新した。いったいどのような症状があり、どういった点に注意すべきなのだろうか?
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短期間で体の一部が壊死(えし)するという感染症通称「人食いバクテリア」。症状の進行は非常に早く、その致死率は約30%。今、この感染症にかかる人が増えている。8日に国立感染症研究所が公表したデータによると、今年11月までの患者報告数は493人で、これは過去最多の数字。インターネットでは「とっても怖い」「どこから感染するの?」「予防はできるのか」などの声もある。人食いバクテリアに感染すると、どんな症状が出るのだろうか?
■“人食いバクテリア”の症状は?
人食いバクテリアを数多く診断した経験のある医師を訪ねた。
聖路加国際病院感染症科・古川恵一内科部長「組織を壊死に陥らせる状況に至り、他の臓器に感染を起こすこともある」
人食いバクテリアに感染した60代女性のおなかの写真では、皮膚は黒く壊死している。人食いバクテリアの原因となるのは、「溶血性レンサ球菌」という細菌。これに感染し、重症化するのが「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」、いわゆる人食いバクテリアだ。
■原因細菌はわずかな傷口から体内に
人食いバクテリアを起こす細菌は、虫さされや切り傷などわずかな傷口から体内に侵入。組織を壊しながら細胞を壊死させていく。その後、菌が血管に達すると、血液と一緒に全身に循環。肺、肝臓などの機能を著しく低下させる。
さらに、やっかいな特徴があるという。
古川恵一内科部長「非常に早く、2~3時間の間に赤黒いような変化を伴い急速に広がった」
初めは皮膚の赤い範囲は3センチ程度だったが、わずか2~3時間で腹部全体に広がったという。
■「胸の上部が壊死」経験者が語る恐怖
では、どのような自覚症状があるのだろうか?人食いバクテリアを経験した人に話を聞いた。茨城県に住む原田基子さん(82)は以前、胸の上部が壊死したという。
原田さん「いつもの風邪でへんとうが腫れてきたなと」
初期症状は軽く、発熱とへんとうが腫れた程度だった。しかし翌日、へんとうは水が通らないほど肥大。すぐに病院で膿(う)みを取り除いたものの、その2日後、今度は胸に激痛が走る。
原田さん「腐ってきていたんだよね、胸の上部の辺が化膿(かのう)して。痛かったですよ」
救急搬送された原田さん。この時、人食いバクテリアが胸にまで侵食していたのだ。
原田さん「寝かされている時、夢を見たの。誰かが私の胸の上で焼き肉をやっていたの」
壊死した皮膚の除去は成功したが、5か月間も入院したという。
■原因菌は日常生活に潜んでいる
この人食いバクテリア、原因となる細菌は、実は我々の日常生活の中に潜んでいる。
古川恵一内科部長「15~20%ぐらいの小児は喉に保菌している状態。(Q:日常的に持っている人もいる?)そうですね」
■症状が出たら早期に医師の診断を!
なんと20%弱の子供、さらに大人も3%ほどが喉にこの菌を持っているという。しかし、菌が体内に侵入しても、ほとんどの場合、免疫力により、簡単に死滅するという。万が一、症状が出た時、早期に医師の診断を受けることが重要だという。
■注意点のまとめ
改めて人食いバクテリアの注意点をまとめる。人食いバクテリアと呼ばれる菌は「溶血性レンサ球菌」、略して「溶連菌」と呼ばれる物の一部で、喉や皮膚にいる身近な細菌。溶連菌を持っている人が、咳をすることでの「飛まつ感染」、皮膚が触れることによる「接触感染」で広がる。ただ、感染しても、通常の健康状態であれば、免疫力で細菌は死滅するという。
一方、溶連菌の中でも毒性の強いものがあり、それが免疫力の弱い人に感染した時に重症化するリスクがある。子供やお年寄り、妊婦や産後間もない女性、持病のある方などは注意が必要だ。
初期症状は風邪と似ているそうだが、急速に全身がつらくなる。局所的に赤い腫れが広がる時は、すぐに医師の診断を仰いでほしいという。