脳腫瘍と向き合った18歳 「ありのままの自分で」描き上げた絵本『×くん』に込めた思い『every.特集』
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「まちがいに×をつけること」がお仕事の『×くん』を描いたのは、11歳から脳腫瘍と闘った坂野春香さん。家族とともに“命”と向き合い、18歳で亡くなる1か月前に、この絵本を描き上げました。“生きる力”を込めたメッセージが読者の心に届いています。
「でました」
夫婦の元に届いた、できあがったばかりの絵本――タイトルは『×くん』
坂野和歌子さん
「すごーい」
坂野貴宏さん
「重みがある」
和歌子さん
「そうだね、できたよ」
貴宏さん
「できたよ、念願の絵本作家さんになりました」
作者は、娘の坂野春香さん。2020年12月20日に脳腫瘍で亡くなりました。18歳でした。
春香さん
「まって、めっちゃいい感じ」
お父さんと、お母さん、そしてふたつ年上の姉・京香さんの4人家族。小さい時から、絵を描くことが大好き。夢は漫画家。しかし…
11歳、小学6年生のときに脳腫瘍を発症。思うように体が動かせなくなっていきました。
母 和歌子さん
「絵だけが支えだったんじゃないかな。悲しいときには涙を流している絵を、元気になると表情豊かな絵を描いていた。やっぱり絵にあらわれますね」
17歳。腫瘍を取る手術をすることに。その時、大きな決断を迫られました。
父 貴宏さん
「腫瘍をたくさん取ると右手は動かなくなるし、言葉も発せられなくなる。だけどちょっと取らないようにすると少しは動くかもしれない、少しは言葉がしゃべれるかもしれないけど再発して早く死んじゃうかもしれない、どうする?って」
絵が描けなくなるけど、長く生きるか、絵を描き続けるために、悪化のリスクをとるか…。春香さんの答えは…
父 貴宏さん
「即答で『私は生きたいです』と。胸を打たれたというか、すごい子だなと思いました」
手術の前、スマートフォンに家族への手紙を残していました。
「パパ、ママ、京香へ。私という自我が死んでしまうかもしれないので手紙を残すことにしました」
春香さんの手紙
「パパ、ママ、この世に存在させてくれてありがとう。京香、いつも味方をしてくれてありがとう。心から家族が大好きです」
「不幸とは幸せだと気付かないこと、敗北を認め大いに楽しむこと、どんなところにも美しいものはある、それこそが運命」
手術後、後遺症で右半身まひと失語症になりました。そんな中、春香さんは、まだ動く左手だけを使って、絵本を描き始めます。
主人公の×くんが、傷つきながらも成長する物語です。
――×くんの おしごとは まちがいに ×をつけること きょうも いっしょうけんめい はたらいた
でも…
にんげん
「えー×? さいあく ×なんて なくなって くれれば いいのに」
×くん
「ぼくは しごとを していただけなのに こんなに うとまれて ぼくは いないほうが いいのかな…」
×くんはへこんだ
○ちゃん
「ちょっと、ひとのきもちかんがえたら!」
花丸ねえさん
「さすがに かわいそうよ いいかたってものが あるんじゃないのかな」
△くん
「みんな いやがっているよ」
みんなから ちゅういされた みんなから ひていされた
にんげん
「×、さいあく」
×くん
「だんだん はらがたってきた」
にんげん
「また、×かよ」
「×なんて きえてしまえば いいのに」
×くん
「かまうものか! えーい!!」
体が動かなくなってしまった春香さん。“自分自身に×をつけていた”のかもしれません。
絵本を描いている間も病気は容赦なく進行していきました。精神状態も悪くなり、突発的に「死にたい」と口にするように。
父 貴宏さん
「自傷行為をするようになっていった。ベランダから飛び降りようとしたり、床で自分の頭を打ち付けたり」
姉の京香さんは…
「その時期は本当に、私もそうですし、父と母も、もちろん妹も、家族4人が一番つらかったなって。妹に申し訳ないんですけど、一瞬この家から出たいなって」
これは、死にたいと叫び続けたあとに、姉の京香さんが買ってきたシュークリームを食べたときの映像です。
京香さん
「どうですか?」
春香さん
「おいしい・・・おいしい…生きている価値が見いだせた」
父 貴宏さん
「『死にたい、死にたい』って言って、その中で『死にたくない』『やっぱり生きたい』という言葉を発していたんですね」
「本当は生きたいというのが、春香の思いだったんじゃないかな」
“×”ばかりだと思っていた自分にも、生きている意味はある。
病気に苦しむ中で見つけた“生きる意味”を春香さんは、「×くん」が出会う女の子のセリフに込めました。
おんなのこ
「あ、まちがえた でも、×は せいこうのもと ×くん ありがとう」
×くん
「えっ」
「さあ、おしごと おしごと いそがしい いそがしい」
亡くなる1か月前に描き上げた絵本――
春香さんだから作れたこの「×くん」は、いま、本を読んだ多くの人の心に広がりをみせています。
「×くん」を読んだ小学2年生の太一くん。ちょっとした変化がありました。
母 由紀子さん
「最近怒らないよね、×うってもね」
中谷 太一くん
「×は悪いことではないから、間違えてもいいからやってみないとわからない」
「×を増やしたくはないけど、×も○もどっちもいいなと思いました」
母
「もともと×うつとすごい怒ってたよね〜」
太一くん
「小さい頃はね。でも、怒るのも減ったし、×も減ってきた」
乳がんを経験し、その体験を伝える活動をしている女性は…
彦田 かな子さん
「どんな自分でもいいんだよって、救われた気がしました」
“ありのままの自分でいいんだよ”
“×はせいこうのもと”なのだから
母 和歌子さん
「春香から、お母さんはお母さんでいいんだよって…『そのままでいいんだよ』って娘に励まされている気がして、ちょっと救われた」
「いいものを残してくれてありがとう…」
(2月12日『news every.』より)