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被災者の“笑顔の瞬間”…「幸福写真」撮り続ける理由は

2022年3月10日 2:28
被災者の“笑顔の瞬間”…「幸福写真」撮り続ける理由は

東日本大震災から2か月後に、宮城・石巻市で撮影された笑顔あふれる1枚の写真。被災者の笑顔の瞬間を、11年間、撮り続けている写真家がいます。幸せの願いを込めた「幸福写真」とは…。

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3日、石巻市にあるノリの加工場を訪れると、カメラを構える男性の姿がありました。写真家・平井慶祐さん(42)です。

平井慶祐さん
「めっちゃイイっすよ」

撮影していたのは、震災をきっかけに知り合ったノリ漁師の家族写真。夫婦と両親の4人での記念撮影は、結婚式以来およそ20年ぶりだといいます。

平井慶祐さん
「こういうタイミングないからね、いいね」

平井さんは震災直後から11年間、石巻の人たちを撮り続けています。

避難所に置かれた手作りのプールで遊ぶ子どもの写真やスナックの再開を喜び、踊り出す人たちの写真など、カメラに収めてきたのは、街の悲惨な状況ではなく、被災した人たちの喜びや幸せの瞬間です。

震災直後、ボランティア団体の記録広報班としてやって来た平井さん。現在は石巻に移住し、活動を続けています。

なぜ「人々の笑顔」を撮り始めたのでしょうか。

平井慶祐さん
「撮らせてもらった写真を印刷して渡しに行っていたんですね。『この間、撮らせてくれてありがとうございました』、『わざわざ来てくれたのね。お茶でも飲んでく?』って。それがきっかけで受け入れてくれたり、そういうときにいい顔してる写真の方が喜んでくれるんじゃないかな」

少しでも気晴らしになればと、避難所で小さな写真展を開催してきた平井さん。続けるうちに、気づいたことがあるといいます。

平井慶祐さん
「傷を癒やすみたいな、大それたことを僕にはできないなってすごく思っている。でも大きな悲しみがあるんだとしたら、喜びの部分を増やしたら、(悲しみの)量は減らないけれど、喜びの方がちょっと多い人生になる可能性は、まだまだある。写真を、喜びを増やすための道具として使いたい」

平井さんの写真に心を動かされた、遠藤綾子さん。津波で自宅を失い、避難所生活を送ってきました。遠藤さんには、忘れられない1枚があるといいます。

震災からおよそ半年後の避難所での写真。男の子を抱く男性は、遠藤さんの夫です。親子の温かいひとときのように見えますが…

遠藤綾子さん
「避難一緒にしていたノリ漁師さんのお子さんなんですけど、すごく懐いてて。私と夫は3人、子どもを亡くしてますので、震災で。すごくいい顔で笑っていて、このとき、こんな顔できてるとは思ってなかったですね」

ふとした瞬間にみせた、夫の笑顔。

遠藤綾子さん
「平井さんの写真って、彼の目線だと思っています。思いやりって目に見えないものだけれど、思いやってることが見えて分かることが多かった」

悲しみは減らせないけれど、喜びを増やすことはできる。遠藤さんをはじめとする地元の人たちは平井さんの撮った写真を「幸福写真」と名付け、去年は大規模な写真展を開催しました。

さらに今年、これまで撮影してきた人たちの「今の幸せ」を形にした写真集を制作しました。

みんな幸せであってほしいという願いを込め、タイトルは「10年の幸福写真」。

のり漁師 中井裕紀さん
「みんなの気持ちも温かくしてくれるような写真家なんだろうな」

書店経営者 岡部栄二さん
「自分ちょっと音楽関係やっていまして、自分ってこの瞬間幸せだったんだなって、それが伝わってくる」

被災地で、笑顔の瞬間を積み重ねてきた平井さん。

平井慶祐さん
「石巻のような震災があって悲しい事実があったところで、いざ幸福っていう言葉を堂々と使うと、誰かを苦しめてしまうかもな、みたいなことをすごく考えました」

「でもみんな(幸福を)持っているなって思ったし、自分の幸福って何だろうな、みたいなのはみんなが考えて、みんなが気づいたり、選んだりするきっかけに思ってもらえるとありがたいですね」

(3月9日放送『news zero』より)