群馬県知事のアドバイザーは高校生……意見を聴くだけでなく実現する意義と難しさ
群馬県は、知事が高校生からアドバイスを受け政策にいかす「リバースメンター制度」を昨年度導入。提言を元に様々な年代が交流するeスポーツ大会を実施し、外国人医療について国に申し入れも行いました。こどもの意見を聴いて、政策にいかす意義と課題とは?
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群馬県の「高校生リバースメンター」は高校生が知事の相談役となり、政策提言を行う全国初の取り組みです。昨年度始まり、今年度も応募した高校生から10人が選ばれ、生活の中で気付いた課題をあげ、改善策を考えている段階です。実は、去年4月に施行されたこども基本法は、こどもや若者に関連する政策については、こどもや若者の意見を聴くことを国と自治体に義務付けています。
群馬県では、昨年度、10人9チームがリバースメンターを務めました。現役官僚や専門家からアドバイスを受け、国内外の事例を調べるなど数ヶ月かけて練り上げた提言を昨年11月、山本一太知事にプレゼン。その後予算がつき、実現した提言もあります。昨年度の提言の一部を紹介します。
⚫サイクルツーリズム✕リトリート(観光客が自転車で地域をめぐり情報発信を促進へ。提言した生徒と山本知事が草津町を自転車で走る動画を制作した)
⚫子宮けいがんへの関心を持ってもらい、ワクチン接種などで罹患率ゼロを目指す(女子生徒2人が考案したTikTok動画などを県のHPで公開し、生理用品に啓発のメッセージを付けて高校で配布。今後は9月に全国初となるショッピングモールでのHPVワクチン接種などを実施予定。2024年5月には厚生労働大臣とも面会した。)
⚫外国人が安心して医療を受けられる体制作り(医療通訳センターの新設のほか、行政や医療、救急、通訳が参加する協議会の設置などを提言。2024年5月、厚生労働大臣に面会し、実現を要望した。)
⚫校則改正手続きの県下統一ルールの制定(全国各地の高校の校則を調査している生徒が考えたもの。学校内で生徒が意見を言える環境を担保するため「学校民主主義条例」の制定や生徒・保護者が校則の改廃に参画することを法的に明記などを提言。県の対応は、各学校で実情に応じた対応をしつつ、教育委員会では校則見直しの意義などを周知。)
⚫eスポーツでコミュニティ作り(気軽に楽しめるようにeスポーツ公園を身近に作るなどの提言のうち、世代を超えて交流できる大会は2024年3月に開催された。)
⚫LGBTQへの理解を教育現場で(これを提案した生徒は、知事へのプレゼンで、男子生徒用の制服や髪型を望んだが、理解を得られずに苦悩した経験を語った。校則などによる制服や頭髪の男女の区別廃止、性的マイノリティの理解のための講演会への教員の参加を必須にすることなどを提言。県の対応は、校則の見直しは適宜進める、教員向けには引きつづき、LGBTQに関わる配慮を周知していくとなった。)
⚫桜の木を枯らす外来種、クビアカツヤカミキリを広げない対策(桜の木の実態を調査した生徒の提言。県として7月にこのカミキリを捕まえる市民参加のイベントを県内の公園で行った)
■高校生リバースメンターの感想は……
桜の木を枯らすカミキリの対策を訴えた吉田哲理さんは、昨年度務めた感想を「提言を作っていく中で省庁や有識者、メディアの方々からプレゼンの組み立て方や今まで持っていなかった視点を得られました。提言会の後、県や笑下村塾から連絡がない状態が続き、気落ちしたこともありました。良かったと思えることは、普通過ごしている中ではなかなか出会えないとても良い仲間たちや県知事、県教育長など多くの方と出会えたことです。改善してほしい点は、予算500万円を確保しているというと、1人あたり50万円かと思ってしまうので、平等にはいかないかもしれないが、などと最初に説明してほしい。県庁とのコミュニケーションを密にしてほしい」と話しています。
また、子宮けいがんの啓発に取り組んだ植松水歌子さんと大美賀悠衣さんはこう話しています。
植松さん
「豊富な知識と一緒に挑戦できる仲間を見つけることができました。ありがたいことに県庁の皆さんが協力してくださり、私たちの提言は実際に事業化することができました。私たちの任期終了後も県では、HPVワクチン接種や検診の呼びかけを積極的に行ってくださっており、自分たちの活動が少しでも社会に影響与えられたのではないかと感じることができています。強いて難点をあげるなら、提言が通った後、実現化のために何度かミーティングを行ったのですが、私たちの知らないところで話が少し進んでいたことがあり、県との連携がより有効的に行われると良いのではないかと思います」
大美賀さん
「私はこのリバースメンターのプログラムに取り組む前までは、県のような機関を一個人が動かすことはできない、難しいと思っていました。しかし、このプログラムを通して、動かすことができることを実感できました。笑下村塾の皆さん含めた大人の方々が私たちの意見に耳を傾けてくれたのを見習って、自分が大人になった時にこどもたちの意見をちゃんと聞いて、それを聞いただけで終わらせない、実現できるよう手助けできる大人になりたいと思いました」
■こどもの意見を聴く意義と課題は
群馬県の取り組みでは、お笑い芸人で若者の政治参加を進める出張授業などをしている、たかまつなな氏の「笑下村塾」が高校生のサポート役を務めています。
まず、リバースメンターの意義について、たかまつ氏はこう話します。
「高校生と話すと、選挙権は18歳からで、16歳の自分たちの声は政治に届いていないんじゃないか、社会は大人の人が決めていて、自分たちには変えられないといったことを聞きます。こどもたちの声を社会や政治に届けることが大事だと思っています」
「そもそも、なぜこどもの意見を聴くのかというと、自分の意見を十分聴いてもらう体験や自分の声によって自らの生活や社会に何らかの変化をもたらした経験をすると、自己肯定感や主体性向上につながるし、民主主義の担い手を育てることになると思います。そして、大人は考え方が保守的になりがちで、しがらみがないこどもたちが”これはおかしい”と純粋な声をあげることは、社会にとっても大きな気づきになると思います」
「さらには、高校生の声で何かが変わったことを知ったほかの子も、私もちょっと声をあげてみようというように勇気付けられることにもつながります」
■実現しない理由を伝えることが重要
高校生による提言は実現しないものもありました。政策の実現には、知事だけでなく、県の担当部署、県議会や教育委員会、国、市町村などさまざまな組織が関連しているためです。
たかまつ氏
「高校生にはできる限り、小さいことから大きいことまで書いてみない?とアドバイスしていて、提言の全部が全部とにかく実現されればいいということではないと思っています。ただ、出来ない場合はその理由を大人が様々な背景含めて、(提言した高校生に)しっかり伝えることが大切だと思っていて、今回もちゃんと説明するために文書で伝えました。高校生側から特に大きいリアクションはないですが、県の予算編成の仕組みを知っておきたかったという意見が出たので、今年度は、最初の段階でそれを説明しました」
こども基本法は、国や自治体にこどもの意見を聴くことを義務付けていますが、その意見をすべて通すべきなどとは書かれておらず、こども家庭庁は、反映できない場合、そのプロセスを分かりやすく伝えることが大事と強調しています。
たかまつ氏
「笑下村塾はリバースメンターの”心構え”を作りました。社会は変えられると信じて行動しようということとともに、社会を変えるには時間がかかる。一歩ずつ変えていこう。自分と異なる考えの人の背景を想像し、対話しよう。税金や市民のことも考えて……なども盛り込みました」
「こういうプログラムは、こどもの発表を聴いて、『素晴らしいね』で終わるものも多くて、政策を実現する取り組みは簡単ではないんです。行政もこどもの意見を聴くことに慣れていない。海外の例などをみても、行政とこどもたちの間に入って、意見を反映させるために一緒に考える役割が必要かなと思います」
「昨年度、県庁の方々が実現にむけてすごく調整して下さったんですが、とても手間がかかるので、心折れないで続けてもらうには、こどもの意見を聴くことって大事だねという意識が県庁や住民の中に広がっていけばいいなと願っています」
■山本知事は……
群馬県の山本一太知事は、今年5月、取材に対し「(リバースメンターの高校生とは)完全に友達っていうぐらい意見を聞きやすい関係性なんですよ。本当に『伊勢崎のスタバに来てください』みたいな感じで。すごい私にとってもいい経験だと思う」
「(提言)全部が実現しないこともわかってもらったのでよかったと思うんです。というのも実現するためにいろんなプロセスが必要で、県議会で予算を審議するなどのプロセスも学んでもらって。今回提言で政策に繋がったものも繋がっていないものもあるんですけど、それはそれでやっぱり全て意味があったのかなと思っています」と意義を振り返りました。
今年度のリバースメンター10人からは8月9日に提言が発表される予定です。