“売春目的で客待ち” 増える歌舞伎町で一斉摘発 「ずっとやめたかった」女性の再出発『every.特集』
東京・新宿の歌舞伎町で、売春目的で客待ちをする女性が増えていることから、警視庁が一斉摘発に乗り出しました。浮かび上がってきたのは、犯罪に手を染める女性たちの“事情”。逮捕を転機に“再出発するための支援”につながっています。
東京・新宿区歌舞伎町。
記者
「大久保公園周辺に女性が立っています」
ガードレールに腰掛ける若い女性たち。大久保公園周辺で問題となっている、売春目的の客待ち行為です。
最近、その数は増加し、外国人観光客も多く集まるようになったといいます。こうした実態をうけ、動き出したのは――
2024年10月、この日、招集されたのは、違法な性風俗店や売春などを専門に取り締まる警視庁の捜査員たち。“客待ちをする女性の一斉摘発”が命じられました。
警視庁保安課 半田正浩課長
「彼女たちは、こうした犯罪に手を染めなければならない理由が必ずあると思っています。しかしながら売春行為は犯罪であるということを、まずは理解させなければなりません」
私服姿で歌舞伎町へと溶け込んでいく捜査員たち。客待ちをしている女性がいないか、見て回ります。そして、捜査員が目を留めたのは道路脇に立つ若い女性。
捜査員
「こんばんは、人待ちですか」
女
「いいえ」
捜査員
「本当ですか」
女
「はい」
人を待っているわけではないと話しますが、さらに話を進めると・・・
女
「まぁそうですね」
女
「みんな大体2万円からです」
捜査員
「2万円から?」
女
「2万円から」
「避妊具をつけること」など条件を提示。やはり、売春目的の客待ちだったのです。女性はその上で“あること”を確認してきました。
女
「一応お兄さんの保険証(見せて)」
捜査員
「保険証? よく分からないけどそれ必要ですか?」
女
「一応」
捜査員
「本当ですか。じゃあいいですよ。いつもどこに行ってるんですか」
女
「あ、ちょっと(保険証)教えてもらっていいですか」
公務員は保険証が違うため、“警察官ではないか確認”してくるケースがあるといいます。それでも摘発を免れることはできません。
捜査員
「じゃあ、1回止めて、携帯」
女
「え、なんですか。あ、警察ですか」
捜査員
「午後10時39分、売春防止法違反の疑いで逮捕するから」
女
「はい分かりました。はい、はい。1回友達に電話してもいいですか」
捜査員
「ダメです、ダメダメ。携帯ダメ。身分証見せて」
女
「はい」
捜査員
「携帯出して」
女
「充電してるんですけど」
捜査員
「止めて、いいよ、ゆっくりでいいから、本当に何歳?」
女
「24歳です」
捜査員
「24歳? いつからやってるの?」
女
「え、今日初めてです」
捜査員
「初めて?」
女
「あ、今日で2回目とかですね」
捜査員
「いいよ、落ち着いて」
女
「もう大丈夫なんで、逮捕するならしてください」
“売春目的で客待ち”をしたとして現行犯逮捕されたのは、都内に住む24歳の女性。この女性、実は客待ちでの逮捕は2回目。これまで数十回ほど客待ちをしてきたといいます。
今回の一斉摘発で逮捕されたのは50人。これだけ多くの女性が売春に手を染めてしまう理由、その一つが…
ホストの男
「売春させたことに間違いありません」
先ほどの24歳の女性に売春させたとして10月、警視庁はホストの男を逮捕。24歳の女性はこの男からホストクラブの飲食代として、「今日は5万まで稼ごう」「遅い、早く稼いでよ」などと“売春を強要”されていたといいます。
さらに、客待ちをしている証拠として、大久保公園に立っている自撮りの写真を送らされていました。今回、一斉摘発で逮捕された女性たちの多くはホストクラブ、コンセプトカフェへの支払いや生活費のために売春していたといいます。
24歳の女性が逮捕されてから3週間後。都内の区役所には釈放された女性の姿がありました。寄り添っていたのは警視庁の捜査員です。逮捕された女性たちが“再出発するための支援”を行っているのです。支援を担当する捜査員に話を聞くと…
記者
「支援活動ってあんまり聞きなじみがない」
捜査員
「逮捕したらそれっきりということではなくて、再犯を防ぐためにも行政と手を組んで支援につなげていく」
「住む場所もない、仕事もない、実家とは絶縁状態って人もいるし、自分の体で稼げたら今日は(漫画喫茶などで)一泊しようとか、そういうものを断ち切らせるために、住む場所をまず支援する。その後仕事を支援する」
警視庁は、支援を行う行政と女性たちとをつないでいるのです。自治体により内容は多少異なるといいますが、居住地、当面の生活費、就職先、病気がある場合の通院など生活全般を支援するといいます。
こうした話を捜査員から聞いて、24歳の女性は支援を希望しました。
しかし、これまでの境遇から他人とコミュニケーションをとりたがらない女性も多く、支援を実際に受けるのは逮捕された女性のうち2~3割に留まっているのが現状だといいます。私たちは実際に支援を受けた女性に話を聞くことができました。
20代の高野ゆきさん(仮名)。2023年、売春目的で客待ちをし、2度逮捕されています。
支援を受けた 高野さん(仮名)
「好きなアーティストがいたんですけど、その人のライブにいくために少しでもお金が稼げたらなって」
安易な気持ちで売春に足を踏み入れてしまったという高野さん。その後SNSで知り合った男に「一緒に稼がないか」と声をかけられ、次第に大久保公園での客待ちを強要されるようになったといいます。
高野さん
「本当にやめたいって、ずっと思っていたんですけど(男に)家を知られている、暴力もうけている。その恐怖でなかなか抜け出せないで、警察に行ったとしても売春ということになるので」
“逮捕されるのでは”と相談に行けなかったという高野さん。そして迎えた転機が…
高野さん
「2度目の逮捕の時に『警察だよ』って言われた時になぜかうれしくて、『捕まりたかったんです』っていうふうに言って、刑事さんも『大変だったね』って言ってくれた時に、やっと抜け出せるんだなって」
その後、留置施設で捜査員や弁護士と話し、支援を受けて再出発することを決意。
高野さん
「区役所の担当の方にも事情とかを一緒に説明してくださって、無事その1~2週間後に生活保護の受給が決まって、3か月、4か月くらい(一時的に)住めるところがあって、そこから区役所に通いながらアドバイザーの方と新しい仕事探したり」
現在は紹介された企業の受付の仕事をしているといいます。
記者
「当時の自分に声をかけるとしたら」
高野さん
「警察の人って苦手な意識があったので、相談しに行くっていうことが頭になくって…。生活が苦しい理由だったりとか、裏で男の人に脅されている状況だったら、今みたいに私みたいに、少しは生活が変わると思うし、相談はとりあえずしてほしいなと思います」
(2024年12月4日『news every.』特集より)