夢はゴールではない“牛のお医者さん”
子牛の世話が大好きな“高橋知美ちゃん”は、農家に寄り添う頼もしい獣医さんになりました。
知美さん「ここまで(お産)長かった」
きっかけは26年前。生徒9人の学校にやってきた、元気、強子(つよし)、モグタンと名付けられた3頭のクラスメート。
「強子が来た時どんな感じだった?」
知美さん「かわいいなと思った」
エサやりやフン掃除。子どもたちと子牛は一緒に成長していきました。ただ家畜として400キロになる頃に出荷(卒業)するという先生との約束がありました。そして、約束の卒業式。
知美さんたち「元気、強子、そしてモグタン」「君たちから色々なことを教えてもらいました」
よく体を壊したこの子牛たち、この子たちを治す「牛のお医者さんになりたい」知美さんの夢が始まりました。
高校は県内有数の進学校に進みました。
知美さん「ただいまー」
親元を離れての下宿生活。目指すは、国立岩手大学。家畜の獣医師を目指す人にとっては国内トップレベルの大学です。『高校3年間はテレビを見ない!』迎えた大学入試。
父・勝美さん「終わった?」
知美さん「全部埋めた」
「郵便局です」
知美さん「あった!」
母・芙美子さん「よかった!」「おばあさんあった!あった!」
祖母・マツノさん「良かったねーおめでとう!」
獣医師を目指しての6年間が始まりました。
「皮下注射、この皮の下へ」
知美さん「はい」
母・芙美子さん「この前、牛の解剖したんだって?」
知美さん「かわいがってた人がいる中で殺すのが一番つらい」
父・勝美さん「感情捨てることはせつないことかもしれないけど…」
知美さん「でも慣れるよ!」
父・勝美さん「慣れなきゃ」
大学6年の時、国家試験に挑戦しました。
知美さん「あった!よかった!」「もしもし、受かりました!」
母・芙美子さん「受かった!?」
知美さん「もしもしおばあちゃん」
祖母・マツノさん「お~よかった!よかった!よかった!」「堂々と帰って来られるわ」
夢はゴールではありません。獣医師としてスタートを切りました。体力がいる大型家畜の獣医師の中で女性は珍しい存在です。
知美さん「こんにちは!」
農家の方「今朝これ(種)付けたんだけど…ちょっと診て」
この日は人工授精しても、なかなか妊娠しない牛の検査。
知美さん「まだちょっと硬いな」「いるな(赤ちゃん)いますね」
農家の方「よかった。ありがとうございました」「いい獣医師さんになってください」
獣医師2年目の時、起こった大地震。けがや病気の具合を見極めて助け出す牛の優先順位を決める、難しい仕事でした。
知美さん「(牛を)治して乳搾って稼ぐより、ここでもう治療やめて、『お肉として出しましょう』という判断を下す」「言う時が一番嫌ですね」
知美さんは結婚し、2児の母に。子育てをしながら、獣医師の仕事は続けています。プロになって10年。妊娠検査の速さと正確さは、農家の評判になっています。
知美さん「(妊娠)3か月くらいですかね」
農家の方「やはり技術ですね」
知美さん「頼ってもらえる時はありがたい」「『診てもらった牛がいい値で売れた』とか、『いい肉になった』とか、そういう話を聞けば一番うれしい」
子牛たちとの出会いから26年。きょうも牛舎を巡る日々…。知美さんは「牛のお医者さん」です。
※2003年11月、テレビ新潟で制作したものをリメイク。
【the SOCIAL×NNNドキュメントより】