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戦地から学ぶ「自粛疲れ」に向き合うヒント

2020年5月19日 15:18
戦地から学ぶ「自粛疲れ」に向き合うヒント

自粛期間が長期化し、思うように外出できない日々。「自粛疲れ」の声も聞こえてくるようになりました。戦場ジャーナリストととして数々の死線をくぐり抜けてきた佐藤和孝氏は「コロナ以上に恐れなければいけないのは、冷静な状況判断を邪魔する“恐怖心”です」と語ります。

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自粛疲れ。いろいろ制約されて楽しみを奪われ、発散もできない。「できるだけ家から出るな」ですよね。戦争では、家に居ようが砲弾や銃弾が降り注いできます。安全な場所がないのです。コロナの場合は外に出なければ感染しません。安全な場所があるのは戦争との大きな違い。

戦争になると戒厳令とか夜間外出禁止令などが発令されることがあります。アフガニスタンやイラクなどで取材中に何度か経験しました。

1992~1995年まで続いたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争では首都サラエボが敵対するセルビア人勢力に封鎖され、毎日のように砲弾や銃弾が撃ち込まれ、街から外に脱出できない状況下に置かれたわけです。電気、ガス、水道などは滞り、厳寒のサラエボでは、薪ストーブで暖をとるしかありませんでした。食糧は国連など援助団体からの炊き出しや配給。市民のほとんどはやせ細っていました。

取材でサラエボ市内のアパートを訪ねるとセントラルヒーティングの暖房は機能せず、当然水も出ません。部屋は、3LDKほどでベランダに目をやると窓は破れ国連から支給されたビニールで覆われています。住人に聞いてみると、窓の向かい側から見える山に敵対するセルビア勢力が陣取り、狙撃してくると言うのです。窓を突き抜けた銃弾の痕が壁にいくつも開いていて、この部屋は危険なので使えないと住人の男がつぶやいていました。

その様な過酷な状況でも、恋愛や結婚、出産と“生きる”という日常を非日常の中でも続けていきます。生きるという、生き続けるということ、その想いが希望なのかもしれません。

未知のウイルス。見えない恐怖。人類は遥か昔から未知のウイルスや細菌などと闘ってきたわけで、今の文明を築けたのは、未知のウイルスなどを克服してきたからであり、今まで培ってきた叡智を結集すれば乗り越えられない訳がないと思っています。

コロナ以上に恐れなければならないのは、人々の恐怖心です。

医療関係者や感染者に対する差別や誹謗中傷。恐怖に感染することが一番恐ろしい。恐怖が人の心を狂わせてしまいます。状況を冷静に判断する。必ずコロナ禍からは解放されるのですから。大事なのは恐怖に感染しないことです。

【連載:「戦場を歩いてきた」】
数々の紛争地を取材してきたジャーナリストの佐藤和孝氏が「戦場の最前線」での経験をもとに、現代のあらゆる事象について語ります。

佐藤和孝(さとう・かずたか)
1956年北海道生まれ。横浜育ち。1980年旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻を取材。ほぼ毎年現地を訪れている。他に、ボスニア、コソボなどの旧ユーゴスラビア紛争、フィリピン、チェチェン、アルジェリア、ウガンダ、インドネシア、中央アジア、シリアなど20カ国以上の紛争地を取材。2003年度ボーン・上田記念国際記者賞特別賞受賞(イラク戦争報道)。主な作品に「サラエボの冬~戦禍の群像を記録する」「アフガニスタン果てなき内戦」(NHKBS日曜スペシャル)著書「戦場でメシを食う」(新潮社)「戦場を歩いてきた」(ポプラ新書)