【解説】“特殊詐欺”被害者の反撃 “暴力団のトップ”を民事裁判で訴え ほぼ全額取り返せることも
年末にかけて、オレオレ詐欺などのいわゆる“特殊詐欺”が増える傾向があります。
◇巧妙化する手口
◇だまされた人の後悔
◇暴力団から取り返す
以上の3点を詳しくお伝えします。もしかすると、裁判でだまし取られたお金を取り戻せるかもしれません。
警察庁は、今年1月から10月末までの、オレオレ詐欺などの「特殊詐欺」の全国の被害状況を発表しました。全体の件数は1万3919件。去年の同じ時期と比べて、1979件増加しています。被害額も280億円を超え、約25%もアップしています。
去年と比べて3割以上増えているのが、オレオレ詐欺と「架空料金請求詐欺」です。架空料金請求詐欺とは、例えば、「あなたは介護施設に入居する権利が当たりました。他の人に譲ることができます」と伝えられます。これに承諾すると、その後、別の人間が、「当選券を譲るのは犯罪だ。解決には金がいる」などと言い、架空の話を口実としてお金をだまし取る手口です。
「架空料金請求詐欺」の被害者を年代別にみてみると、70代の男女が一番多いが、幅広い年代の人が被害を受けています。
【年代別の被害割合】
50代 14%
60歳~ 10.9%
65歳~ 13.8%
70代~ 29.5%
80代~ 10.3%
注意を呼びかけても被害が増えているのは、巧妙な手口が使われるからです。実際に、過去に特殊詐欺にあった人の元に届いた通知書には、公的機関のような架空の団体名が書いてあり、被害にあったお金を返してくれるかのような内容が書かれていました。実は、これも詐欺でした。
これが届いた女性は、電話やこうした文書が届いてだまされて、ゆうパックで現金を数回にわけて数千万円送ってしまったといいます。
この紙を受け取って、実際に詐欺被害にあったという人に話を聞くことができました。
特殊詐欺の被害者
「その当時はすごく、『どうしてだまされたんだろうと』くよくよしましたけど。孫とかにもあんまり、お金はちょっとね、やれなくなりました」
ただ、こちらの女性は、ある方法を利用して、だまし取られたお金を取り返せました。それが、「暴力団」のトップに責任を問う民事裁判です。どういうことかというと、特殊詐欺の背後には暴力団がいて、お金が流れているケースが多くみられます。暴力団の関与があった場合、その組のトップに賠償請求をするというものです。特殊詐欺にあった女性も、当初の思いをこのように振り返っていました。
特殊詐欺の被害者
「相手が相手で、暴力団だから内心ちょっと無理かなと。『大丈夫?』という気持ちはありましたけど。怖いといえば怖いですけど、返してもらった方がいいですからね」
裁判をしたことで、女性は被害にあってから8年後に、数千万円のだまし取られたお金がほぼ全額戻ってきたそうです。
提訴した場合の費用は莫大(ばくだい)な額がかかるわけではありませんが、個人負担となり、それぞれの弁護士と相談して決めていくことになります。さらに、警視庁と弁護士が連携して、被害者が安心して提訴できるよう保護対策もしっかり行っています。
提訴できるようになる時期について、ケース・バイ・ケースではありますが、詐欺被害からだいたい2、3年後だということです。暴力団が関わっていることがわかった後なので、結構時間がかかってしまうといいます。
警視庁は、弁護士と共に暴力団が絡む特殊詐欺事件の被害者に、「裁判を起こしませんか?」と情報提供と支援を行っています。こちらが実際に訴訟を働きかける様子です。
警視庁の捜査員(被害者に訴訟を働きかける様子)
「暴力団員が関与していることが捜査で判明しました。暴力団員が関与している場合は、被害にあわれた被害金を暴力団の代表者から取り戻せる場合があるということでご連絡させていただきました」
弁護士(被害者に訴訟を働きかける様子)
「トップを訴えると、すぐに向こうが降参して和解をする事例もあります」
■放っておいてほしい被害者も
しかし、このように警察官らが働きかけても、被害者としてはすぐに裁判とはいかない事情もあります。
特殊詐欺の被害者
「仕組んだ連中をとっちめたいというのと、これから被害がでないようにという動きをしないといけないでしょうけど、個人に関して言えば、『ほっといてくれや』というのもある」
「放っておいてほしい」と思っている被害者が、多くいるのも事実です。ですが、警視庁と弁護士は、被害者がだまし取られたお金を取り戻すこと、そして暴力団の大きな資金源を断つこと、この両方の意味で根気強く被害者を説得しています。
元暴力団関係者
「相当痛手だと思います。結局、だましたお金が全てまるまる(暴力団に)入るわけではないので」
どういうことか説明すると、暴力団に入るのは、だまし取ったお金の全てではなく一部です。なので、裁判を起こされて被害額を丸々賠償するとなると、暴力団にとって痛手になるということです。
まだ数は少ないですが、19日も詐欺被害者3人が暴力団のトップに賠償を求め、東京地裁に提訴しました。警察庁によると、こうした代表者責任を問う裁判は2016年以降、16件起きています。現在、争いが続いているものもありますが、今のところ被害者側の勝訴が4件、和解が6件ということで、結論が出ているものは、全て“被害者側に有利”なものとなっています。
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何より詐欺被害にあわないことが1番です。身に覚えのない“うまい話”には必ずウラがあります。お金を振り込む前にまわりの人に相談する、少しでも不審だと思ったら警察に通報するなど、被害にあわないようにしましょう。
(2022年12月20日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)