気象庁コロナ感染『0』 徹底対策の裏側は
■未だに感染者「0」の気象庁
新型コロナウイルス「第3波」が猛威を奮い、全国で感染拡大が続く中、未だに1人の感染者も出していない省庁がある。台風や豪雨、地震津波や噴火から国民の命を守るために防災情報を発表する気象庁だ。東京の本庁と全国の地方気象台を合わせて約5000人の職員が勤務し、これまでに100人以上がPCR検査を受けたが、未だに感染確認は「0人」だという。
(気象大学校の1人を除く)
すでに4万人以上の感染が確認された東京都。そこにある中央省庁では、国交省本省で31人、経産省本省・総務省本省で11人、外務省本省で10人、徹底した感染対策を呼びかけている厚労省本省でも9人の感染が確認されるなど(11月30日~12月2日に日本テレビが取材認した時点で)感染者が相次いでいる。
こうした状況でも、気象庁本庁と全国の地方気象台で働く約5000人の職員から1人も感染が確認されていないというのは極めて異例と言えるだろう。
その理由について、気象庁の関田康雄長官は定例会見で「気象庁の職員は非常に真面目な職員が多いものですから」と胸を張った。
「非常に真面目な職員が多い」という気象庁。一体どういった対策が行われているのか?
■現業室の職員を守れ! 「ゴーグル」配布も
気象庁には、全国各地から時々刻々と送られてくる地震や火山、気象データを監視し続ける職場がある。「現業室」と呼ばれ、その名のとおり気象庁の現場中の現場であり、中枢といえる。本庁で働く約1400人の職員のうち、約400人がこの「現業室」で働いている。そして、自然現象の小さな異変も見逃すわけにはいかない「現業室」での仕事は、どうしてもテレワークにはできない。
万一ここでクラスターが発生すれば、国民の命を守るための大津波警報や噴火速報、日々の生活に欠かせない気象情報が発表できなくなる恐れもある。職員の1人は「現業室での感染拡大は絶対に許されない」と強い危機感を口にしていた。
「現業室」で働く職員を守るための対策は、消毒液やマスクに留まらない。今年3月の早い段階で、職員にはゴーグルも配布された。(添付写真)目の粘膜からのウイルス感染を防ぐ狙いがあるという。
また「現業室」で働く職員と他の職員との接触を避けるため、同じフロアへの立入を大きく制限した。いざという時に緊急会見を行う「地震津波監視課長」や「火山課長」でさえも「現業室」には原則立ち入らない。
■長官自らが庁内を見回り「喝」
気象庁は「現業室」を守るハード面での取り組み以外に「危機意識の浸透」を図るソフトでの取り組みも行ってきた。小中学校の一斉休校の要請も、まだされていなかった2月中旬から、職員同士の接触を減らす目的で時差出勤や「現業室」以外でのテレワークを徹底してきた。当時、取り組みが不十分な部署には長官自らが足を運び、職員に実施を直接訴え、対策の徹底を呼びかけたという。職員の1人は「社長(長官)の本気度をみて締まるのがあった」と振り返る。さらに、気象庁本庁では毎日午前10時・正午・午後2時の1日3回、日々の健康管理や手洗い・咳エチケットの徹底を呼びかける館内放送が鳴り響くようになった。
■防災官庁ならではの強い「危機意識」
こうしたトップの強い危機感は職員へ着実に浸透していた。職員に対し「会食に行くな」との指示はこれまで一度も出されていないというが、緊急事態宣言目前だった4月1日異動に合わせた歓送迎会は、一切行われなかったという。
職員に理由を尋ねると「真面目にやっている職員が多いからこそ、飲みに行って体調が悪くなったらどうしようという恐怖心がある」と話した。
今も感染者ゼロを続ける気象庁。その裏側には「現業室」をまもるため、フロアへの立入制限など徹底した対策に加えて、トップの強いリーダーシップ。さらに防災官庁で働く職員ならではの強い「危機意識」があった。
■大切なのは防災情報を出し続けること
新型コロナウイルスの第三波が全国に押し寄せる中、気象庁の感染対策を指揮する職員は「これほど全国的に感染拡大している今、どんなに対策を徹底してもいつかは気象庁本庁や地方気象台でも感染者が出る。大切なのは防災情報を出し続けること、気象庁内で感染を拡大させないことだ」と先を見据えていた。