古い価値観を露呈「最悪」会長人事ゴタゴタ
辞意を固めていた東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、組織委の臨時会合に出席し正式に辞任を表明。しかし「人事は白紙」「最悪」「日本の危機管理能力が…」と、五輪開幕まで半年を切る中、後任の決め方をめぐって迷走が続いています。
■森会長が辞任表明も人事でゴタゴタ…“古い体質”明るみに
森氏が11日に急きょ、後継として指名したのが、日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏。ただ一転、12日になって白紙に戻っています。なぜ、こんなゴタゴタになっているのでしょうか。日本のスポーツ界を取り仕切ってきた人たちの古い体質が浮かび上がっています。
11日、森会長が指名した川淵氏は、サッカーJリーグ初代チェアマンで、日本サッカー協会や日本バスケットボール協会の会長などを歴任しました。森会長とは同じ早稲田大学出身で、年齢も83歳と84歳。1歳差です。
森会長は11日、川淵氏を自宅に呼びました。川淵氏によりますと、森会長に涙ながらに後継を依頼されたということです。森会長と会ったあと、川淵氏は報道陣の前でこう話しました。
「俺も感極まってさ、本当につらかっただろうなっていうんで、涙が止まらなかった。みんなが思うのは、森さんが83歳で、俺が84歳。『またお年寄り』って言われるのが一番不愉快」
このように森会長に同情するような発言もあったのです。
■川淵氏を後継指名? 会長職は理事会で決めるルール
そもそも、「自らの不適切な発言の責任をとって辞任する人が、後継を指名するのはおかしいのではないか」という声も相次いで上がっています。しかし、森さんは「川淵さんしかいない」として直談判で後継を依頼。川淵さんも内諾した形でしたが、これでは「密室人事」と言われても仕方ない側面もあります。
組織委員会の会長職は、理事会で決めるルールとなっています。そうした本来のプロセスの前に、事実上、森さんが後継を決めて外堀を埋めようとした形になっていました。しかも、後継指名された川淵さんは、「森さんがいなくなったら困る。相談役という形で残ってもらうつもり」とも話していました。これでは、何のために辞任したのかということになるし、国民からも、国際社会からも、理解は得られません。
■批判次々…政府内からも反発の声「最悪だ」
後継指名に関する不透明なプロセスには、政府内からも反発の声があがっています。
政権幹部は12日朝、「責任をとって辞める人が後継指名するのはあり得ない。最悪だ」と強い不快感を示しました。
五輪担当大臣経験者も、「後継を密室で決めて、世代交代にも女性登用にもなっていないのは、厳しい。川淵会長ではもたない」と言っています。
また12日朝、加藤官房長官も次のように述べました。
「適正な手続きにのっとって、かつ透明性のある形で、皆さんが、国民の皆さんが、あるいは内外の皆さんが納得していただくような形で進められていくべきもの、進められていくものと思います」
さらに、組織委員会の内部からも声があがり、ある幹部は会長の決め方について「人事は白紙だ。選考委員会などを設置して検討していきたい」と述べました。
森会長が辞任を表明した臨時会合に出席していた組織委員会の理事は、「川淵さんを森さんが本当に指名したのであれば、ガバナンス上、大問題。そもそも組織として問題」とし、「世界から見ても、女性の名前をあげないと日本の危機管理能力が問われる」と指摘しました。
■『若い人』『女性』…提案はあった
実は、川淵氏によると、次のようなやりとりもあったといいます。
川淵三郎氏(11日夜)「菅さんあたりは『もうちょっと若い人いないかとか』、当然の話だよね、それは。そういうことを言わないとおかしいと思うんだけど。『女性がいないか』っていうような話もあったって聞いている」
後任をめぐっては、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長から森さんに対して、女性の共同代表の話が提案されたり、菅総理が「もっと若い人か、女性はいないのか」と伝えていたといいます。
森氏の動向については海外でも注目されていて、イギリスのタイムズ紙は、「後継とされる84歳の川淵氏には、多くの人は感心しないだろう」として、厳しい目を向けています。
一方、複数の政府関係者によりますと、五輪担当大臣の橋本聖子氏が、大臣を辞任して後任の会長につく案が挙がっているといいます。ただ、橋本大臣は12日朝、正式な手続きを踏んで決めることで、「注視していきたい」と述べるにとどまりました。後任の会長人事については、現時点では不透明な状況です。
■古い価値観や体質露呈 五輪まで半年切る…課題山積
この期に及んで、こんなにもゴタゴタしていて、本当にオリンピック開催に影響はないのでしょうか。来月25日には聖火リレーが福島県をスタートします。オリンピックの開幕は7月23日、パラリンピックの開幕は8月24日と、もう半年を切っています。
しかも、今回は初めてのコロナ禍での大会で、観客を入れるのか、外国人の受け入れや検疫、感染対策はどうするのかなど、決めなければならないことが山積みです。
新しい会長決定の本来のプロセスにはそれなりの時間がかかると言われていて、開幕が迫る中でトップが不在の状況が続くことも心配されます。
今回、女性蔑視発言に象徴されるような“古い価値観”や“古い体質”そのものが問題視され、辞任に追い込まれたにもかかわらず、今度は後任の決め方をめぐって、またしても、古い価値観や体質を露呈してしまった形です。
本当に問題の本質を理解しているのだろうかと疑いたくなってしまいますが、これも今の日本の現実です。これをどう変えていけるのか、ここからが勝負です。
(2021年2月12日16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)