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皇太子時代 モロッコ訪問“異例”の大歓待

2021年2月22日 12:33
皇太子時代 モロッコ訪問“異例”の大歓待

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。陛下の皇太子としての最初の親善訪問となった1991年9月のモロッコ訪問について、長年皇室取材に携わってきた日本テレビ客員解説委員の井上茂男さんとともにスポットを当てます。

――映像は、どういった場面でしょうか?

1991年9月、皇太子時代の天皇陛下がモロッコを訪問された時の場面です。陛下は王宮で当時の国王と会われたのですが、この時、予期せぬ勲章が贈られ、しかも国王自ら陛下の胸に付けるという異例の出来事がありました。モロッコ側の大歓待を象徴する場面といえると思います。

――モロッコはスペインの南、アフリカの北東の端にある人口3600万の王国で、親日国として知られるイスラム教の国です。この訪問はどういうきっかけだったのでしょうか?

ご訪問はモロッコからの招待でしたが、当時取材したところでは、当時のハッサン2世国王が、天皇陛下より3つ年下のモハメッド皇太子、今の国王モハメッド6世に、同世代の皇太子の友だちを作ってあげたいという親心で招いたそうです。弟のムーレイ・ラシッド王子を交え、2人の王子が陛下を厚くもてなす場面が見られました。

――モロッコではどんな場所が印象に残っていますか?

陛下は首都のラバト、映画でも有名なカサブランカ、そして世界遺産になっているマラケシュやフェズを訪問されました。中でもフェズで、「メディナ」と呼ばれる旧市街をじっくりと歩かれた場面が強く印象に残っています。

街には華やかな民族楽器の音が鳴っていて、陛下は、観光名所「ブー・ジュルード門」を通って、城塞に囲まれた迷宮のような街を歩かれました。狭い通りには、肉屋や魚屋、木の実を売る商店などが並び、フェズの人々の暮らしぶりが間近に見られる所です。通りの至る所で、大きな拍手や子どもたちの歓声で迎えられ、「レロレロレロ」という現地ベルベルの人たちの独特の歓声があがっていました。また神学校やモスクも中にあって、陛下は何度も足を止めて町の様子を写真に収められていました。さらに、店頭でナツメヤシやパン、木の実などを勧められては口に入れ、「おいしい」と食べられる場面もありました。報道陣には外務省から現地の水や食べ物にはくれぐれも注意するように言われていましたので、陛下の“冒険”“チャレンジ”には驚いたものですが、いま考えると、招待国のもてなしに身を任せる親善の姿勢だったでしょう。

――モロッコではひやっとするような事件もあったそうですね。

最後の訪問地マラケシュで、一時、陛下の行方がわからなくなるハプニングがあったんです。日没直前に到着したマラケシュの空港から、ホテルに向かう途中で、接伴役の大臣が陛下に夕日を見せようと、予定になかった“寄り道”をしたんです。公園の入り口で陛下たちは馬車に乗り換え、ヤシ林の向こうに沈んでいく夕日をご覧になったんですが、移動中の車内で陛下との間で決まったようです。携帯電話が普及していなかった時代です。後続の随員たちには知らされずに事が進行していったんですね。ところが、日が沈んだ後、陛下は車に乗り換えて猛スピードで走り去るんですが、後続の車に乗るはずの侍従長と侍従の2人が取り残されたんです。首席随員や護衛は付いていけたのですが、侍従長たちは、私たち記者の乗るバスが“救出”したんです。その時、侍従が憤然と「殿下は拉致されたようです。前代未聞です」と言うものですから騒然となりました。信じられない出来事でした。

――陛下はどちらにいらしたんですか?

ようやく行方が分かったのは20分も過ぎた頃で、大使館員が持つ無線機に、殿下は町の中心の「ジャマ・エル・フナ広場」にいるらしいという連絡が入りました。

急いで行ってみると、広場の一角に人だかりができ、陛下は歓迎の大群衆のなか、警備陣が人混みをかき分けて作るスペースを悠然と歩かれていました。この場所は、ヘビ使いや猿回しなどの大道芸人が集まってパフォーマンスを見せ、屋台が並ぶ賑やかなスポットです。日本では考えられないことですし、私も初めての海外同行取材でしたので、肝を冷やし通しでしたが、自慢の夕日を見せようという粋な計らいだったと今では思います。旅の締めくくりの記者会見で陛下は、「非常に明るくて、何とも言えない人なつっこい表情が忘れられないですね。そういう場所を歩くことによって、普通のモロッコの人たちの生活ぶりを見ることができた点もよかったと思います」と話されています。

――その後もモロッコとの交流は続いているのでしょうか

この訪問を通して、今の国王はもちろんですが、弟のムーレイ・ラシッド王子との友好も生まれます。王子は平成と令和の「即位の礼」の両方に参列していますし、また陛下のライフワークの「水問題」に関しても、陛下が講演をされた第3回世界水フォーラムにラシッド王子が出席するなど、接点がありました。1991年のご訪問がこうして親善を育み、「水」をテーマにした国際会議で更に交流が深まる、短い滞在でもやはり親善訪問は大事だと感じます。

【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説委員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。

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