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「ガソリンが底をついたあの日」震災10年

2021年3月5日 14:17
「ガソリンが底をついたあの日」震災10年

東日本大震災から10年、当時被災地では何が起こっていたのか、今一度検証し、これからの大地震へどう備えるか考えます。被災地周辺では地震の直後から深刻なガソリン不足が起きていました。次の巨大地震ではどうなるのでしょうか…。


■走っている車はほとんど見当たらず…

これまで、内陸で地震が起きるたびに車があちこちからやってきて道路が渋滞してしまい、救援活動にも支障が出かねないという状況が生じました。しかし、東日本大震災直後の宮城県内の海岸線に向かう道路では、走っている車はほとんど見当たらなかったのです。 

震災直後、車の中で暖を取りながら一晩を過ごした人たちは、ガソリンスタンドに向かいました。しかし、停電で給油ができないスタンドや、すでに在庫を売りつくしたスタンドばかりだったのです。 

わずかにガソリンが残っていたスタンドも、救急車やパトカーでさえ、1台10リットルまでといった給油制限が設けられる状況でした。仙台などのスタンドでは多くの人が長い長い車の列に並び続ける事態となってしまったのです。

仙台市周辺ではガソリン不足が解消されるまでに、1か月ほどもかかってしまったのです。


■ガソリン不足で物流がストップ

ガソリンや軽油の不足は、被災地の生活に甚大な影響をもたらしました。スーパーでは、倉庫に在庫物資があっても、運ぶ車の燃料がないため商品を補充できなかったといいます。ガソリンなどの燃料はまさにライフラインなのだと再認識させられたのです。


■原因は製油所の被災だった

ガソリン不足の主な原因は、東北に燃料を供給していた製油所が被災してしまったことにあります。石油連盟によりますと、東日本大震災では仙台港と鹿島、千葉、神奈川にあった6つの製油所が被災して稼働停止となりました。早く復旧した3つの製油所も再開まで1週間から10日かかり、東北の主力製油所である仙台の製油所は再開まで約1年を要しました。

さらに、西日本から燃料を輸送するためのタンクローリーを集めようにも、その数が全く足りなかったのです。全国各社のタンクローリーの保有台数は2018年3月末時点で6515台ありますが、大半は各地で毎日稼働しており、すぐに他の業務に転用することは難しいのが現状です。大量の燃料を遠距離に運ぶ機材や体制を、急に構築することは難しかったのです。


■製油所の減少が進んでいる

それでは今、南海トラフの巨大地震が発生したら燃料問題はどうなるのでしょうか?今石油など化石燃料の需要は全体的に減少傾向にあります。そのため東日本大震災当時は全国に27か所あった製油所は年々減り続けています。ついに日本海側の製油所はなくなり、2020年10月時点で全国の製油所は21か所にまで減っています。


■南海トラフの被災エリアに製油所が集中

現在稼働中の製油所は、その多くが大消費地に近い東京湾、名古屋港周辺、大阪や瀬戸内海沿いの工業地帯に集中していて、いずれも南海トラフの地震の被災エリアに重なっています。

製油所そのものの耐震化も進められていますが、被災すれば被害の大小にかかわらず、再開には数週間はかかるのではないかと指摘されています。


■耐震対策で不備を指摘される

こうした製油所では南海トラフの巨大地震や首都直下地震に備えるため、国の補助を受けながら耐震化や津波対策などが進められてきたのですが、昨年秋、その耐震化などの対策で問題が明らかになりました。

石油会社10社の20製油所のうち、6社の12製油所が想定される最大クラスの地震よりも低い基準で対策を進めていたことが会計検査院の調査で指摘されたのです。会計検査院は、経済産業省・資源エネルギー庁に改善を指導するよう迫りました。


■製品の備蓄量には限界が…

国は一体どうやって巨大地震の後の燃料不足に対応しようとしているのでしょうか?これまでは世界情勢の中で輸入が途絶えてしまう事態に備え、国家備蓄を進めてきました。経済産業省によると燃料の備蓄は大半が原油の状態で保管されていて、その量は147日分にも達しています(令和3年1月現在)。

ただし原油は精製して製品にしないと使えないので、製油所が稼働できるということが条件になります。また精製したとしてもガソリンなどの燃料はいずれもそのまま置いておくと劣化するため、長期間保管しておくことができません。

また既存の貯槽所の多くは海沿いにあり、津波などによる被災の可能性を指摘する声も強くあります。またその保管量についても限界があります。

そのため、自治体によっては独自に燃料を備蓄して備えるところも出てきています。しかし量的には非常電源を少し長く稼働させたり、緊急車両の一部に利用できる程度にとどまっているのが現実です。

私たちはこうした事態になることも想定して、しっかりとした備蓄などの準備を進めていく必要があるのです。