個人間も対象 新たなボランティア「保険」
地震や台風といった自然災害が多発する昨今。いずれの被災地も人手不足に悩まされている。そんななか、災害ボランティアを対象とした新たな保険サービスが生まれた。そこには「個人間のボランティアを加速したい」という思いがある。
■より幅広くボランティア活動をカバーする保険を
一般社団法人FUKKO DESIGNは、4月1日より、災害ボランティアを対象とした新たな保険「しえんのおまもり」の提供を開始した。ボランティア活動のなかで、自分や他人に思わぬ怪我をさせてしまったり、他人のモノを壊してしまった場合などに、賠償責任を補償するものだ。
最大の特徴は、社会福祉協議会などが運営する災害ボランティアセンター(以下、災害VC)を“経由していない”ボランティア活動のための保険だということ。同法人が提供するボランティアマッチングサービス「スケット」を経由していれば、NPO等の支援団体を通じた活動や、個人が募集する活動でも対象となる。
「ボランティア活動保険の対象は、これまで一般的には、災害VCを経由した活動に限定されていました。しかし、実際の被災地では、災害VCではなく、NPO等の支援団体を経由して災害ボランティアに取り組む人が大勢います」と、同法人の理事である木村充慶さんは語る。
実際に2016年の熊本地震においては、人日に換算した場合、NPO等の支援団体経由のボランティア活動者数は、災害VC経由の活動者数と、ほぼ同等だったという。
「加えて、私たちは昨年からSNSを通じて被災者とボランティアを直接結びつけるCtoC(Customer to Customer の略で、消費者間で行われる取引)のボランティアマッチングサービス『スケット』の提供を開始しました。しかし、保険の対象とならないことが課題となってきました。そこで開発したのが『しえんのおもまり』です」
「しえんのおまもり」の補償期間は最大で1年間。料金は780円から。入院補償6500円/日、通院補償4000円/日、賠償責任3億円(支払限度額)を補償し、死亡の際には最大で3000万円の保険金が支払われる。さらに新型コロナウイルス感染症にかかった場合、政府による公費負担とは別に入院保険金を支払う「コロナ対応オプション」も用意した。
チェーンソーなどの電動器具を使う作業をはじめ、屋根の上での高所作業などが保険の対象となることも特徴のひとつ。「風で倒れた木を処理したり、瓦を直したり、屋根にブルーシートをはったり。被災地で求められる専門的なスキルを持ったボランティアが、より安心して活動できるようになりました」と木村さん。
公式サイトにアクセスすれば、スマートフォンでいつでも簡単に加入できる使い勝手の良さにもこだわったという。
「プラン内容が一目で伝わるよう、サイトデザインにはこだわりましたね。保険のパンフレットやサイトって、複雑でわかりにくいものになりがちなのですが、僕たちはそうはしたくなかった。ノンストレスで、気軽に申し込んでもらえるように心がけました」
■困っている人と助けたい人を、直接つなげたい
そう語る木村さんも、熱心な災害ボランティアのひとりだ。普段は広告会社で働きながら、災害時には率先して現地に駆けつけ、「泥かき」などに汗を流してきた。
「東日本大震災をきっかけに、ボランティア活動に従事するようになりました。西日本豪雨のあたりから、『一緒に何かしたい』という仲間が少しずつ増えてきて、3年前に有志で立ち上げたのがFUKKO DESIGNです」
「しえんのおまもり」や「スケット」を通じて、CtoCボランティアの活性化に取り組むのも、自分たちが現地に足を運ぶなかで、「災害VCや支援団体のリソースには、限界がある」ことを痛感したからだという。
「災害VCは社会福祉協議会が運営することが多いのですが、災害に特化した組織ではありません。だから災害ボランティアの受け入れに割けるリソースには限界がある。それをフォローする専門家や支援団体も数に限りがあります」
それなら、個人の力をもっと生かせないか。木村さんたちがそんな風に考えていた2019年、台風15号が日本列島を襲い、千葉県を中心に大きな被害をもたらした。
そこで取り組んだのが、インターネット上で誰でも募集ページを簡単につくれるWebサービス「bosyu」を活用して、被災者とボランティアを直接結びつけるという試みだ。
「bosyuで、ボランティアを募集しませんか」と呼びかけるチラシを木村さん自らが作成し、コンビニで印刷。被災地の人たちに配布した。そこから予想もしなかったようなユニークな募集が生まれていく。
「特に反響が大きかったのが、ある牧場のボランティア募集です。そこでは倒木処理の手伝いと、乗馬体験をセットにしていて。それが好評で、最終的には数百人がボランティアに訪れたそうです。CtoCの力ってすごい、と思いました」
そんな体験を踏まえて開発されたのが、先述のボランティアマッチングサービス「スケット」だ。被災者がスケット上に希望する支援内容を書き込むと、その投稿が自身のTwitterやFacebookアカウントでシェアされ、興味を持ってくれた人とSNS上でやりとりができるようになる。
「従来はボランティアの情報は、自分から災害VCや支援団体のサイトにアクセスする人にしか届きませんでした。けれどスケットなら、SNSを通じてボランティアに興味のなかった人にまでリーチできる。これまで以上にボランティアの間口を広げられるはずです」
■あなたのスキルは、誰かを救うかもしれない
スケットに寄せられる支援の内容は多種多様だ。「チェーンソーで倒木を処理してほしい」といったわかりやすいものもあれば「どうしてもプロのカメラマンに現地にきてほしい」といった一風変わった募集もあるそうだ。木村さんは「そこにもCtoCボランティアの可能性を感じている」という。
「これまで自分が仕事などで培ってきた専門性で、誰かを助けることができる。それはきっと、助ける側にとっても、日常では得がたいポジティブな経験になるのではないでしょうか。ソーシャルな活動に取り組むことの意義って、そういうところにもあると思うんですよね」
もちろん、災害ボランティアには危険と責任がつきもの。万が一、自分や誰かを傷つけてしまったときのためにも、保険にはきちんと加入しておくべきだろう。それが復興支援の第一歩だ。
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
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