政府「ワクチンパスポート」検討 懸念も
新型コロナウイルスへの感染状況が悪化し、ワクチン接種も大きく出遅れる中、接種を証明する「ワクチンパスポート」の導入にむけた検討が始まりました。海外ではさまざまな形の取り組みが始まっていて、課題も見えてきています。
■東京の新規感染者数 30日ぶりに前週を下回る
30日、東京では新たに698人の新型コロナウイルスへの感染が確認されました。29日は1027人で、およそ3か月ぶりに1000人を超えました。前の週の同じ曜日との比較では、30日は、30日ぶりに前週の新規感染者数を下回りました。
■モデルナ社ワクチン 日本に初上陸
こうした中、日本初上陸となるアメリカのバイオ医薬品メーカー『モデルナ社』のワクチンが、30日朝に関西空港に到着しました。ファイザー社のワクチンと違って、一般的な医療用の冷凍庫での保管が可能なため、輸送しやすいのが特徴で、合計で5000万回分の供給を受けることになっています。
このモデルナ社のワクチンは来月に承認される見通しで、まだ承認されていません。有効性は、臨床試験の結果、ファイザーが95%、モデルナが94.5%とほぼ変わりませんが、保管温度や接種間隔などがファイザーとは異なります。そのため、同じ場所で2種類のワクチンを管理すると混乱が起きる可能性もあるので、それを避けるため、各自治体での接種はファイザー、国が主導して東京と大阪に開設する予定の大規模な接種会場ではモデルナを使う方向で調整が進められています。
■政府が導入を検討「ワクチンパスポート」とは?
これまでにワクチンを接種できているのは、首相官邸のホームページによると、約480万人いる医療従事者などでは約35%、約3600万人の高齢者では約0.2%です。十分な量が届いてからどれだけスムーズに接種を進められるかが注目点になります。
そんな中、政府は、海外への渡航者向けにワクチンの接種歴などを記録した、いわゆる「ワクチンパスポート」導入の検討を進めています。経団連は、ワクチンパスポートが導入されれば、出入国の際の2週間の隔離措置が緩和され、海外とのビジネスの改善が期待されるとして、導入を働きかけています。
■ワクチンパスポート 海外の動き
ワクチン接種が先行する海外では、既にさまざまな動きが出ています。例えば、EU(=ヨーロッパ連合)では、接種歴や検査結果、感染歴などを記録する『デジタルグリーン証明書』の導入が検討されています。これを所持することによってEU域内外の自由な移動を促進し、観光産業の復活に役立てたい考えで、この夏までの導入を目指しています。
中国でも、先月から『国際旅行健康証明』と呼ばれる独自のワクチンパスポートの発行を始めました。紙版とアプリ版の2種類があり、PCR検査の結果やワクチン接種記録、抗体の有無などが記載されます。当面は中国国民が対象ですが、今後、各国と相互承認を進めてビザ発給などに便宜をはかり、人の行き来を広げたいとしています。いち早く運用を始めることで、国際的な基準作りを主導する狙いもあるとみられます。
一方、アメリカは、政府としては現時点でワクチンパスポートの導入は検討していませんが、州独自で似たような取り組みをしているケースがあります。ニューヨークでアイスホッケーの試合が行われた時には、入り口で陰性を証明する書類を提示して入場する観客の姿が見られました。ニューヨーク州などは独自の取り組みとして、こうしたスポーツイベントへの入場の際に利用できる『接種履歴や検査の陰性証明を表示するアプリ』を開発し、運用を始めています。
■「さらなる不公平につながる可能性」懸念の声も
一方で、こうした取り組みには懸念の声も上がっています。
実は、EU各国の間でも温度差があり、例えばギリシャやスペインなど比較的観光需要の高い国は導入に積極的な一方、ドイツやオランダ、ベルギーなどは、接種していない人が差別されたり、接種を選択する自由が阻害される懸念があるとして、導入には難色を示しています。
アメリカではワクチンに懐疑的な考えを持つ人が多く、ニューヨーク州などとは反対に、テキサス州では個人の自由を尊重するとして、ワクチンパスポートなどの導入を州知事が禁止しています。
WHO(=世界保健機関)も、ワクチンへのアクセスが不公平な中、さらなる不公平につながる可能性があるとして、「現時点でワクチン接種の証明を旅行の要件として使うことは推奨しない」としています。
■日本での対応は?
日本での対応はどうなるのでしょうか。河野大臣は、アレルギーなどの理由でワクチンを接種できない人もいることから、ワクチンパスポートにはPCR検査の結果についても記録する考えを示しました。海外渡航をスムーズにすることが主な目的だとしています。
ワクチン接種が順調に進む各国では、経済復活への切り札としてワクチンパスポートを導入する動きが加速しています。そんな中、日本は、接種そのものがかなり遅れているのが実情ですが、中国などが“ワクチン外交”に続いて“パスポート外交”とも言える動きを見せる中、先を見据えた戦略を立てるためにも、公平性なども含めて早急に議論を進める必要があると思います。
(2021年4月30日16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)