女子刑務所のコロナ対策 密避けられず苦心
日本最大の女子刑務所、栃木刑務所。覚醒剤に関する犯罪や窃盗などで有罪が確定したおよそ500人が収容されている。閉鎖空間での集団生活。いわゆる「密」が避けられない刑務所の中で、どのように新型コロナウイルスの感染を防ぐのか。塀の中の感染対策とは―。
午前8時。受刑者たちはマスクを着用して刑務作業に当たっていた。去年4月から着用が義務になったというが、この「マスク」が刑務官の新たな悩みに。受刑者の口元が見えないため、舌をかむなどの自傷行為が行われても分からないうえ、私語にも気づきにくくなるのだという。
受刑者の昼食のあり方も、変化を余儀なくされた。「いただきます」と言い終わると、全員が配膳された机ごと移動し、壁に向かって食事をするようになったのだ。本来は、一般社会に近い形で生活するのが望ましいというが、マスクを外している際の感染を防ぐためにイレギュラーな対応をせざるを得ない。
ここにも、刑務官の葛藤があった。刑務所の担当者はこう話す。「受刑者を完全に隔離してしまえば感染リスクは下げられる。しかしそうすると、受刑者の改善更生のための働きかけ、作業や職業訓練などができなくなってしまう」。刑務所での集団生活や人とのコミュニケーションは、更生のために不可欠なのだ。
矯正と、感染対策の両立に悩む刑務官たち。一方、受刑者が手洗いをする場所を見てみると、置いてあるのは「液体石けん」のみで「アルコール消毒液」は設置されていない。そこには、刑務所ならではの“事情”があった。