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公務員が知見持ち寄る「オンライン市役所」

2021年5月31日 17:42
公務員が知見持ち寄る「オンライン市役所」

新型コロナウイルス感染症対策やワクチン接種体制構築など、全国共通の課題を解決するため、全国の公務員がオンライン上で知見を共有する「オンライン市役所」。行政や公務員に求められることが年々変化する中、公務員同士が個人でつながることの価値とは。

■自治体共通の課題に取り組むオンラインプラットフォーム

「オンライン市役所」は、現役の地方公務員・国家公務員であれば誰でも参加できるオンラインプラットフォームだ。地域や職場を超えて、課題や悩みを共有・相談したり、ノウハウを共有したりすることを目的に活動する。2021年5月末時点で、全国900以上の自治体・省庁から、3000名を超える公務員が参加しているという。

知見を共有するため様々な活動が行われている中、ここ数ヶ月注力しているのが、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種体制に関する情報交換会だ。2021年1月から、毎週末に開催してきた。

新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の混乱が社会に蔓延しているが、それは行政組織にとっても同じだ。これほど大規模なワクチン接種体制の構築は誰も経験したことがない。自治体の規模や状況によって、体制や考えるべきことも違う。そんな課題をいち早く察知して、同じ課題に取り組む公務員同士が最新の情報や解決方法を共有することが、接種体制のスムーズな構築につながると考え、情報交換会を開催するに至ったという。

会では「どのような予約システムを構築するか」「住民への告知をどう行うか」といったことから、最近では「基礎疾患のある方への優先接種について」など、直面する課題に対して、事例を交えながら議論が行われている。毎回200名程度、多いときは500名を超える参加申し込みがある。

参加者の反応について、ワクチン接種体制に関する情報交換会を主導する長井伸晃さん(神戸市役所勤務)に聞いた。

「ワクチン接種にあたる担当者の方々は、人員・会場の調整、複数のシステム対応、住民への広報、そして実際にワクチン接種が開始されてからの運用など、とても一言では言い表せないほど多岐にわたる膨大な調整や対応を求められています。そんな中で、なんとか効率的かつ安全に進めようと試行錯誤しています。情報交換会では『自分たちの業務進捗がどの程度で、何が不足しているのか、みなさんの情報と比較しながら確認することができた』『自分たちの議論だけでは気づかない課題点や問題解決への糸口が見つかった』といった声をいただいています」

ワクチン接種については、各地で想定外の事態も起きているが、政府の発表によると、7月末には、約93%の自治体が高齢者の接種を完了する見通しだ(5月21日総務省発表)。


■縦ではなく横でつないで知識を共有

この取り組みの立ち上げ背景には、公務員の人事異動に対する課題感がある。一般的に、公務員は1~3年で部署を異動するといわれており、それまでとは全く違う業務を担当することも少なくない。「異動のタイミングで悩む公務員もいます」と、オンライン市役所発起人の脇雅昭さん(総務省より神奈川県庁に出向)は話す。

「異動により、新しい部署の仕事のノウハウを一から積み上げなくてはならないこともあります。各職場にメンターもいますが、忙しい中で聞きづらいと思う人もいますし、自治体規模や業務内容によっては、職場でその業務を担当するのが自分だけのこともあります。一方で、自分が属する組織の外に目を向けたら、同じ様な仕事に取り組む人が、1741ある基礎自治体の数と同じだけいると予測できます。職場を超えて横でつながり、知見やノウハウを共有することが前提の場があれば、聞きやすいと思って立ち上げました。共有する側も、以前の部署で培った知見をいかせます。人事異動のたびに、誰もが先生になり、誰もが生徒にもなれると考えています」

これまでも、各自治体の職員同士が、電話などで情報共有する文化はあったという。ただ、全く面識がない人に急に電話をすることや、照会と回答というプロセスに心理的なハードルがあった。そこで、日常的に「顔が見える関係」をつくり、コミュニケーションのハードルを下げている。

脇さんは「全国に約332万人いる公務員の志と能力が1%上がったら世の中は良くなる」という思いで、全国の公務員をつなぐイベント「よんなな会」を開催してきた。多いときには全国から700人ほどの公務員が東京に集まることも。活動を数年間続ける中で、「より日常に落とし込みたい」という思いを抱えていたという。

「講演会で話を聞いたり、同じく全国で頑張る公務員と出会ったりすることで、自身の仕事を前向きに捉え直す人は一定数いたと思います。ただ、イベントは非日常な空間です。毎日働く中で、同じ温度感を保つのは難しい。もっと日常的に、業務でも活かせるような取り組みができないかと考えていたところ、コロナ禍になり、デジタルツールを使いこなす公務員は増えました。この危機を乗り越えるためにもと思い、オンライン市役所をスタートしました」

■“全員運営者マインド”で

オンライン市役所では、ワクチン接種体制に関する勉強会の様なイベントの他に、SNS上でテーマごとにグループが作られ、「財政」「債権回収」「SDGs」など、共通の課題に対して日夜情報共有やディスカッションが行われている。

また、子どもと一緒に参加できる子育てサロンや、音楽好きが集まる音楽サークルなど、業務には直結しないコミュニティ活動もある。さらに、SNS上でライブ配信番組を毎日放送してアーカイブ。ディスカッションには参加しづらい環境の人でも、新しい情報を得られるようにしている。これらの活動は、参加者の声から生まれたものがほとんどだという。

「公務員の学びやモチベーションにつながるようなことであれば、基本的にはOKとしています。プラットフォームなので、“運営者と参加者”と明確には分けたくないんです。コンセプトは“全員が運営者”。自分が好きだと思うことや、やってみたいことを挑戦する場所にしたいと考えています」

同じ悩みや楽しみを共有して、仕事を超えてつながり、気軽に相談できる関係性を築く。関係性を捉え直すことが、組織の外に出る意味なのかもしれない。

最後に今後の展望を語ってもらった。

「オンラインは出会いのプロローグ。新型コロナウイルス感染症が収束すれば、実際に会いに行く人も増えると思います。オンラインで築いた信頼関係はもっと強くなるし、新しい動きも生まれると思います。コロナが明けるのが楽しみです」

※写真はワクチン接種体制に関する情報交換会の様子

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。