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ゴミ×アートで実現 サステナブル資本主義

2021年6月2日 21:03
ゴミ×アートで実現 サステナブル資本主義

“世界の電子機器の墓場”と呼ばれるアフリカ・ガーナのスラム街・アグボグブロシー。そこには、投棄された電子機器を燃やして生きる人々がいる。その事実を知ったアーティストが生み出した次世代の経済システム「サステナブル・キャピタリズム」に迫る。

■ゴミがアートに。アートが富に

「アグボグブロシーでは、投棄された電子機器を燃やして処理する際、有害物質を含んだ煙が発生。その煙を毎日吸うことにより、がんで若くして亡くなってしまう人も多いそうです」

2017年6月、単身アグボグブロシーを訪問したアーティスト、長坂真護さん(36)は、毎日を必死に生きる彼らの姿を目の当たりにした。彼らが燃やしているのは、日本を含め先進国から投棄されたゴミ。先進国の富の裏側に、大きな犠牲があることを知った。

「この現実を、アートの力で伝えなければと思いました。ただ、単なるボランティアや寄付による一時的な支援は、大と小の力関係があって、フェアではありません。対等な人間として関わる、サステナブルな経済の仕組みを作らなければならないと考えたんです」

長坂さんが目を付けたのは、廃棄された大量の電子機器。ゴミをアートへと変えることで、価値を生み出すことができるのではと考えた。

その目論見は当たった。帰国後にゴミを用いて作品を制作。その売上をもとに、ガスマスク250個を手に2度目の訪問を果たしたという。ゴミがアートに、アートが命を守るガスマスクへと変わったのだ。

その後、長坂さんの活動は急拡大した。2018年3月に銀座で行われた個展では、作品が1点1500万円で売買されたという。その売上をもとに、スラム街初の学校を設立。貧困の連鎖を断ち切るために子どもたちが無償で学べる場を提供した。2019年には、現地に電子廃棄物アートの美術館を設立した。

さらには、長坂さんの取り組みをエミー賞を受賞したハリウッドのドキュメンタリー監督カーン・コンウィザー氏が映画化。2020年7月、ドキュメンタリー映画『Still A Black Star』はアメリカのImpact Docs Awardsで受賞した。本人も驚くほど、長坂さんの活動は世界中で認められるようになった。

■社会貢献・文化・経済の3軸を満たす、新しい資本主義

長坂さんは、自身が考案した経済システムについて『サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)』と名付けている。

「人間は、3つの欲を持っていると思うんです。地球で生きる者として、環境がよくなってほしいというような社会貢献に対する欲求。知的生命体として、文化に触れたい欲求。そして富を築きたいという経済に関する欲求です」

従来の社会で行われてきた活動は、この3軸のうちどれか2軸のみに焦点を当てたものがほとんどだという。たとえば海岸のゴミ拾い。環境が良くなり、コミュニティという文化が形成されるものの、経済活動にはつながらない。アートの取引も、文化も提供して富を生み出しているが、社会貢献の文脈では価値を生み出していることは少ない。長坂さんはこの仕組みにメスを入れた。

「この3つの欲求をうまくブレンドして、サステナブルな資本主義の経済システムを作りたいと考えました。廃材を使ったアートならば、文化も経済も社会貢献も満たすことができる。ものを作って儲ければ儲けるほど、地球環境もよくなるんです。

環境活動というと、多くの人がボランティアや寄付を想像します。ですがボランティアで週末だけ環境にいいことをしようとしても、効果は大きくありません。ビジネスとして組み込めば、365日地球に貢献できて、しかも経済も動かせるんです。一番僕たちの身近にある『労働』を利用しない手はないですよね。まさしくCSV(Creating Shared Value)の考え方です。社会貢献も文化も経済も、どの欲求も満たせる方法を生み出すことが、真の環境活動家なのではと思います」

サステナブル・キャピタリズムの考え方は、多くの人々に受け入れられ始めている。事実、長坂さんの作品を買う人の90%は経営者だという。

「経営者の方は、企業理念や方針に僕のアートを取り入れようと考えているんです。今ではSDGsという言葉が広く知られるようになりましたが、実際のところどんな意味なのか、何をしたらいいのか分からないというのが人々の本音です。でも僕のアートは、サステナブルを分かりやすくビジュアルで伝えることができるんです。古来から、絵をデフォルメして漢字ができたり、ラスコーで牛の壁画が描かれたり、アートを基盤にしてビジネスや文明が作られてきました。パラダイムシフトが起こるときには、アートは不可欠だと思いますね」

長坂さんはアートが持つ偉大な力を最大限に活かしながら、サステナブル・キャピタリズムを世界に広めている。

■環境にもやさしい“第二のアンパンマン”へ

長坂さんが次に目をつけているのは、「アニメ文化」だ。電子ゴミから生み出したアニメキャラクター「ミリーちゃん」を“第二のアンパンマン”にしたいと語る。

「アンパンマンは道徳教育にも用いられる最大のアニメです。素晴らしい文化を提供して、かつ経済も回しています。ミリーちゃんでは、さらに環境にも貢献したい。アグボグブロシーに作ったリサイクル工場で電子機器をチップ化し、3Dプリンター技術でグッズを作ります。売れれば売れるほど、環境にも貢献できるんです」

文化・経済・社会貢献の3つの欲求すべてを満たす、長坂さんの新たな挑戦。大きな夢ではあるが、単なる空想ではない。これまで長坂さんが築き上げたロジックに基づく、実行可能な目標だ。サステナブル・キャピタリズムが世の中の当たり前となる未来は近づいている。

※写真はアグボグブロシーで現地の人と。Photo by Fukuda Hideyo


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

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これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。