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内装や洗剤まで“サステナブル”レストラン

2021年5月24日 12:06
内装や洗剤まで“サステナブル”レストラン

安心・安全で持続可能な食文化の普及に向け、精力的に取り組む和食レストランがある。食材はもちろん、店で使う洗剤や箸にまでこだわりを持つ彼らだが、あえて具体的な目標は設定していないという。どんな狙いがあるのか、真意を聞いた。

■安心・安全のための「オーガニックチャレンジ」

神奈川・横浜を中心に、新鮮な海の幸にこだわる和食レストラン6店舗を営む株式会社きじま。近年、サステナブルな食への取り組みで注目されている同社では、環境負荷が少ない食材の使用を中心に据えつつ、多角的な取り組みを行う。

きじまは、「オーガニックチャレンジ」と銘打って、有機/自然栽培作物の使用比率などを公開。利用を推進している食材は多岐にわたり、現在特に3つの食材でチャレンジを行っている。1つ目は、無農薬・無肥料で自然栽培した米や農産物。2つ目は、国際的なサステナブルシーフード認証を受けた水産物。そして3つ目は、飼育環境に配慮され、ポストハーベスト農薬(収穫後に用いる防腐剤など)や遺伝子組み換え作物を使わない飼料で育てられた畜産物だ。

「今後は加工食品などについても、このチャレンジを広げることを考えています」と語るのは、同社事業戦略室長の杵島弘晃さん(29)だ。料理を学ぶためアメリカに渡った際には、サステナブルな食の概念を広めた農場直結型レストランで働いた経験も持つ。

2019年9月、きじまは、環境と社会に配慮した養殖方法を定めるASC(水産養殖管理協議会)と、水産資源と環境に配慮した漁業を定めるMSC(海洋管理協議会)のCoC(加工・流通過程の管理)認証を、日本の和食店として初取得したという。持続可能な水産物を使った料理を提供し続けている。

彼らの取り組みは、これだけにとどまらない。使用する洗剤は、海洋汚染の主な原因である石油由来の合成界面活性剤を完全撤廃したという。また、店舗内装の一部や箸・ストローに、FSC(森林管理協議会)認証材を使ったり、パンフレットや店内印刷物を環境印刷に切り替えたりと、店舗運営のあらゆる場面で、環境や持続可能性を考えた施策を行っているという。

■自分たちが、本当にいいと思えることをしているか

環境に配慮し、食べる人も安心な食を提供しつづけることで、レストランの利用客からはどんな反応があるのだろうか。

「きじまがオーガニックだから、無添加の食材を使っているから行く、という方が増えているのは事実だと思います」と語る杵島さん。だが同時に、そういう人たちがマジョリティーになることはないかもしれないとも感じているそうだ。

それよりも、まずは自分たちに正直になったとき、本当にいいと思えることをしているか。あくまで個人的な想い、と前置きした上で、杵島さんは次のように明かした。

「私はそこまで器用なタイプの人間じゃありません。だから、自分がやっていることと、いいと思っていることの間にギャップがある状態が、耐えられない。そのギャップを許容しながらやっていくのが苦手だし、居心地が悪いんです」

アメリカから帰国後にきじまで働き始めた杵島さんは、会社の経営理念を変えるところから着手。「食を通じて持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」ことをミッションに掲げ、使う食材を少しずつ無添加のものなどに変えていくところからスタートした。

「原材料が、安くても2倍、高いものでは5倍くらいになったので、本当にこの方向性で大丈夫か、社内で議論になったこともありました。でもオーガニックに変えていくことは決めていたので、最終的には社員のみんなも納得して、本当に一致団結してやってくれましたね」

取り組みをつづけていることで、働く社員の意識も変わってきたという。

「たとえばお弁当を買ったとしても、原材料のシールを見ながら、自分が日々口にしているものの中に何が入っているのか、どこから来た食材なのか、気にするようになっていると思います。そして、何か体に悪いものを食べるときや、甘い炭酸飲料を飲むとき、私の顔が浮かんでいるのではないでしょうか(笑)。少しずつですが、働く側の食に対する意識も高まっていますね」

■あえてゴールは決めない

サステナブルなレストランへの改革を進めてきた杵島さんは、過剰な安さ・はやさ・便利さを追求するために、安心・安全や自然とのバランスをないがしろにした現在のフードシステムに疑問を持っている。

「現在の食の世界においては、『大量生産、大量消費、大量廃棄』を前提にビジネスモデルが構築されています。たとえばそこでは、当然廃棄ロスの分も“あらかじめ廃棄することを前提に”原価に含まれているんです。これは本質的にフードロスを生み出してしまう仕組みであり、サステナブルではないと感じます」

きじまでは、ITのテクノロジーを導入し、来客数の見込み予測の精度を高めるなどして、食材の仕入れ量を調整することで、フードロスを削減したという。目指しているのは、漁師や農家などの生産者、レストラン、そして消費者が、シンプルにつながる共同体だ。自分たちが使うもの、食べるものが、どこでとれたか、誰がどのように育てたか。それが分かっているからこそ、安心・安全な食がかなえられる。杵島さんは言う「もっとシンプルに、そしてコンパクトに生活していけるはずだ」と。

ただ、今後の目標を尋ねると、意外な答えがかえってきた。

「実は具体的なゴールはないんです。設定しようとも思っていません。世の中の変化が早い現在では、ゴールを設ける意味が薄れてきていると感じるんです。逆説的ですが、ゴールを決めないほうが、かえってゴールに近づけるというか。今この瞬間足りてないところを、とにかく改善していく。それに尽きるような気がします」

きじまでは、期限を切って店舗数の目標を立てることもないという。今までも様々な縁の中で、新規出店してきたそうだ。あえて目標を定めない、この柔軟な姿勢こそ、何かを始めるとき、変えるときにフットワークよく動ける秘訣なのかもしれない。

「とはいえ理念がぶれることはありません。安心・安全でおいしく、かつサステナブルなものをお出しする点や、お客さまのことを考えた接客など、我々が大切にする基本は揺らがないんです」

日々社会課題に向き合いながらも、目標設定に固執することなくまい進する和食レストラン・きじまの取り組み。ゴールを決めない方法は、その時々で迷わず動くための理念に裏打ちされたものだ。このブレない理念こそが、“持続可能なゴール”なのかもしれない。

※写真はきじま みなとみらい店の内装。FSC認証材が使用されているという

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
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これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。