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「動物園から社会を変える」園長の思い

2021年6月4日 14:35
「動物園から社会を変える」園長の思い

「動物園から社会を変える」よこはま動物園ズーラシアの園長を務める村田浩一さん(69)が掲げる思いだ。生物多様性の保全や、持続可能性の担保が叫ばれるなか、動物園の役割はどのように変化しているのか。世界と日本の動物園の違いとは。

■動物園の4つの役割

「楽しんでもらうことだけが、動物園の役割ではありません」

そう訴え続けてきたのが、横浜市にある「よこはま動物園ズーラシア」(以下「ズーラシア」)園長の村田さんだ。ズーラシアは、「生命の共生・自然との調和」をメインテーマに掲げる国内最大級の動物園。1999年と比較的近年にオープンしたことから、気候帯別に動物が展示されるなど、当時の欧米諸国にあった先進的動物園の流れを汲んだつくりになっているという。

ズーラシアの特徴は、環境教育や調査研究に力を入れていることだと、村田さんは話す。

「動物園は、4つの役割が知られています。理解されやすいものは『レクリエーション』つまり来園者に心の安らぎとか楽しみを与えることですよね。それ以外に『希少種の保全』『環境教育』『調査研究』があります。戦後に建設された多くの動物園は、経済復興や国民に慰安を与えるための目的が大きかったので、当初は環境教育や種保全や研究のための活動は中心的ではありませんでした。そういう意味で、後発のズーラシアは先進的な働きをしている動物園だと思います」

特に環境教育や保全教育に力を入れているという。飼育員によるガイドツアーや、小学校に出向いて行う「出張どうぶつえんスクール」の実施。さらに、ズーラシア独自のプログラム「ズーラシアスクール」も提供している。

「ズーラシアスクールでは、動物が野生でどのような状況にあるかや、環境の変化と自分たちの暮らしとがどう関わっているのかなどを、飼育員と一緒に実際の動物を観察しながら勉強します。コロナ禍ではリモートで開催となりましたが、子どもたちの討論の内容は濃く、こういう活動が生物多様性保全や地球環境保全のためにも大切になると考えています」

世界では、環境保全を主導する重要な役割として動物園が位置づけられてきたという。世界の動物園・水族館で構成される国際組織「世界動物園水族館協会(WAZA)」が2020年に「世界動物園水族館協会持続可能性戦略 2020-2030」を発表。その中で、動物園や水族館には、SDGsへの積極的な貢献や持続可能な未来のために主導的な役割があることが明記された。

「動物園は社会を変えていく力を持たなければならない」

村田さんが日本の動物園にも必要だと長年働きかけてきたことでもある。

■欧州から学ぶ動物園の成り立ち

動物園職員、動物の研究者、そして現在の立場に転身してきた村田さん。幼い頃から自然が好きで、広い世界に憧れを持ち、自然や動物に触れる職業を探し、獣医学科に入学する。

しかし、動物を“経済動物”として育てる牧場や、飼い主とのコミュニケーションスキルも求められる動物病院に違和感を持ち、大学卒業後は定職につかずに2年ほどフリーターとして過ごしていたという。

獣医職として神戸市に入ってからもその破天荒ぶりは続く。最初に配属されたのは、希望していた動物園ではなく保健所。「すぐにやめようとした」と話す。

「ここは自分の居場所ではないと思いました。すぐにやめようと思いつつ、自分ができることを探そうとも思い、仕事が休みの土曜日の午後と日曜日を使って、神戸市立王子動物園で実習させてもらいました。その熱意が伝わったのか、園長が事務職として受け入れてくれたのです」

それから23年間、異動せずに動物園で働き続けた。動物園の役割とはなにか考え続ける中で、動物園のルーツに行き着いたという。

「近代動物園が誕生したのは、パリやロンドンで、最先端の動物学の研究をする場だったと知りました。博物学を学ぶことが教養とされ、研究者にとっての研究機関であり、市民にとっては異国の珍しい動物を見て学ぶことが、動物園の目的だったのです。歴史的背景を知れば知るほど、日本の動物園に欠けているものを感じました」

動物園は研究の場であり、ただ楽しむだけの場ではない。自身の信念に基づき、仕事と並行して大学にも所属して研究し、論文を書き続けた。周囲からは「動物園は研究する場所ではない」とはっきり言われたこともあるという。それでも村田さんは動物園の役割の重要性を問い続け、それは王子動物園をやめて日本大学の教員として働き始めても変わらなかった。

横浜市立動物園の方針を検討する会議にも参加するようになり、前任の園長が亡くなったタイミングで、園長を打診された。

■動物に対する責任を果たしたい

動物園の環境教育や研究の役割を説く村田さんだが、レクリエーションを否定することではないと話す。

「レクリエーションは英語でre-creation。再創造という意味で、日常に疲れている人が、自分を見直したり、新たな明日を育む意味になればいい。動物園の来園者には、動物自体を知りたい人もいれば、環境を知りたい人もいるので、それぞれのニーズに合わせた多様な情報を提供できる場所にしたいです」

動物園に来る全ての人が学びに興味をもつわけではない。それでも、1万分の1、10万分の1の人が環境に対して真剣に考えるようになれば、その影響は大きい。その先に、地球の未来があると、村田さんは語る。

「1970年代に『成長の限界』が話題になったように、研究者や一部の政治家は、何十年も前からこの社会状況や環境に対して、強い危機感を訴えてきました。環境と人、そして動物と人との関係性はますます崩れている。このままでは、人類の生存すら危ぶまれる。ここで社会経済の仕組みや自分たちの生活を変えなければいけない。その危機感を伝える場としての役割が、動物園にはあるのです」

日本では動物園の8割が公立。その意味を考えてほしいと村田さんは話す。そしてそれが、動物園で過ごす動物に対する責任を果たすことだという。

「動物に対して失礼にならないように、できることをすべて全うしたいですよね。生きている間は幸せな生活を保障するし、その間に得られる生理や生態や行動に関する情報は記録して世界に発信する義務がある。死亡した後も、生きた証が残せるように、例えば細胞やDNAを保存するとか、冷凍保存精液などを使って将来的な繁殖計画にいかすとか、骨格標本や臓器標本を作って動物学的な資料にするとか。そういったことを行う義務を、私たち動物園関係者は飼育下動物に対して負っているのではないかと思います」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。

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