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2021年6月16日 20:15

テクノロジーで人と環境に優しい水産養殖を

テクノロジーで人と環境に優しい水産養殖を
(c)NNN

魚の養殖業にイノベーションをもたらす企業「ウミトロン」。loTやAIなどの技術を用いて、養殖現場の労働負担や環境負荷の削減に取り組んでいる。代表の藤原謙さん(38)は元JAXAの研究員。宇宙から海にフィールドを変えて挑戦する背景とは?

■水産養殖を持続可能な産業に

2050年には世界の人口が97億人に達すると予測される中、かねてから危惧されている食料不足の問題。貴重なタンパク源を生産するために、魚の養殖に期待が寄せられている。

「世界では、健康志向の高まりや新興国や途上国の経済発展などを背景に、魚の需要が大きく増えています。一方、天然魚の漁獲量は頭打ちに。獲れる量は限界の状態です。天然の水産資源を守っていく必要がある今、魚を自分たちの手で育てる養殖業が重要な役割を担っているのです」

藤原さんたちが開発したのは、養殖場のいけすに設置する自動の餌やり機「ウミトロンセル」。ソーラーパネルの付いた装置の中に魚の餌を入れておけば、スマホやパソコンで魚の映像を確認しながら、遠隔で餌やりができる。さらにAIが魚の食欲を解析し、餌の量と餌やりのタイミングを自動でコントロールしてくれるというサービスだ。

サービス開発にあたっては、養殖現場の声を何度もヒアリングしたという。その中で注目したのが、餌代だ。生産コストの5~7割にも及ぶ餌代が、生産者を悩ませていたという。

「ウミトロンセルを活用して、魚にとって適切な量とタイミングで餌を与えれば、無駄なコストを削減できると考えました。また、魚たちの食べ残しが原因となる海洋汚染も防げるので、養殖業の課題だった環境負荷も下げられます」

もう一つ切実な声としてあがったのは、過酷な労働環境だった。海上の天候は不安定で、毎日魚の様子を見に行くには危険が伴う。さらに生き物を扱うため、土日祝日も心配で現場を離れられない生産者が多かったという。それゆえ、遠隔で餌やりができる技術は生産者に喜ばれた。

「愛媛県で養殖場を家族経営している方が、『久しぶりに日曜日に家族で遠出をしたのですが、買い物中に餌やりができたので助かりました』とうれしそうに話してくださったんです。やはり養殖業も“週休2日”で“9時~17時”という当たり前の働き方を実現したいという声はありました。労働環境が整えば、若手や女性など新たに養殖業に飛び込む人が増えて、産業の発展につながるのではと感じています」

■無機質な宇宙のエネルギーが、命を育む過程が面白い  

現在、海をフィールドとしている藤原さんは、もともとJAXAの宇宙開発研究員としてキャリアをスタートした。幼い頃から大の宇宙好きだったため、天文衛星や宇宙探査機の開発プロジェクトに携わる仕事に大きな喜びを感じていたという。

一方、働くうちに研究成果が世の中に直接役立っている実感がなかなか持てず、次第にもどかしさを感じるように。学んだ技術を実社会に生かせる事業を、自分で立ち上げたいと思うようになっていた。

3年間JAXAで働いた後、アメリカのビジネススクールに留学してMBAを取得。その後日本に戻って三井物産に入社し、農業ITの新規事業に携わることに。人工衛星のデータを使って農作物の状況をモニタリングしながら、生育効率を上げていく。そんな取り組みに藤原さんは大きな可能性を感じたと話す。

「人工衛星という宇宙技術を使って、産業に直接役に立てる事業だと思いました。農業以外にも生かせる分野があるはず。そう考えていたときに、地元大分の瀬戸内海の景色が思い浮かびました。海は地球の7割を占めていますが、陸上と比べてまだまだ未開の地。最新のテクノロジーと水産養殖をかけあわせれば、海における食料生産はもっと可能性を広げられると考えました」

最新のテクノロジーを活用して持続可能な水産養殖を実現する。そのミッションを掲げて、2016年にウミトロンを創業した藤原さん。宇宙開発の知見や技術を活かしながら、ウミトロンセルをはじめ、衛星データを活用して海洋分析をし、魚の生育管理に役立てるサービスなど整えていった。

養殖場で元気に泳ぐ魚たちを見ていると、不思議と心が躍ると藤原さんは語る。

「宇宙開発って、宇宙人を見つけない限り無機質な世界なんですね。でも、地球というのはとても特別な場所。宇宙空間に浮かぶ孤立した惑星に、太陽からエネルギーが降り注ぎ、それを海のプランクトンが吸収して酸素ができる。陸では木々が育って、川から海に栄養源が流れ込む。その中で生態系の多様性が保たれ、魚が元気に泳ぎ、最終的に人の食べ物になる。そんな一連の流れを考えると、ワクワクするんです。

宇宙の物質的な世界と、そこから育まれる生き物の世界。その接点を想像しながら取り組んでいると、毎日発見があって面白いんです。僕の中では宇宙の研究を、いまだに続けているような感覚でもあります」

■食べる魚の8割を環境負荷かけずに育てられたものに

「将来的には、世界の食卓にのぼる魚の8割程度を、環境負荷をかけずに育てられたものにしたい」と藤原さんは語る。そんな世界を実現するために、これまで以上に多様な種類の魚を育てられる仕組みを作り、そのおいしさも広く伝えていきたいと話す。

「最近は、サンマやイカが獲れないことが問題になっています。今後はそうしたものも含めて、これまで養殖されてこなかった様々な生き物を育てる試みをすることで、環境を保全しながら、多くの人が水産物を享受できる世の中にしたいです」

環境に配慮して丁寧に育てた養殖魚のおいしさを消費者に知ってもらおうと、今年6月からおいしさ、安心、サステナブルにこだわったシーフードを扱う「うみとさち」というオンラインショップも始めた。現在、ウミトロンセルで育てた真鯛を中心に取り扱っている。

「大切に育てた魚は、びっくりするほど味が良いんです。もちろん天然魚には天然魚の良さがあるのですが、自然界にいるといつ餌を食べられるかわからない。魚にとっても、バランスの取れた食事をすることが難しいんです。それが養殖魚の場合は、健康に優しい餌を適切なタイミングで食べることができる。だから元気においしく育つんです」

生き物を扱う養殖業は、取り組みに時間のかかる分野だと藤原さんは語る。

「だからこそ小手先のサービスで成功することより、10年20年先を見据えて焦らず進むことが必要。この産業がどう変化していけば、海も、育てる人も、食べる人も幸せになれるのか。それをじっくり考えながら、骨太な取り組みを重ねていきたいです」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。