×

BMXトリックをサポート“専用ジーンズ”

2021年6月19日 9:00
BMXトリックをサポート“専用ジーンズ”

東京五輪から正式種目となった自転車競技のBMXフリースタイル・パーク。メダル獲得も期待される日本代表選手たちの華麗で力強い“トリック”をサポートする専用ジーンズ「J」。

■五輪新競技 BMXフリースタイル・パークとは

BMXフリースタイル・パークは、ジャンプ台を使って、トリックと呼ばれるアクロバチックな回転技などを、競技時間の60秒間で連続的に繰り出す自転車競技です。トリックの難易度や完成度、繰り出す高さに加え、組み合わせやオリジナリティーといった様々な項目でポイントを競います。東京五輪から新種目に採用され、日本代表はメダル獲得も期待されています。

■遊びから発展 “伝統的な服装”はジーンズ

全日本フリースタイルBMX連盟(JFBF)によると、BMXは1970年代初頭にアメリカで生まれ、子どもたちがオートバイのモトクロスライダーに憧れて、自転車を乗り回していたことが始まりとされています。

遊びが原点のため服装は自由で、動きやすさよりもファッション性が重視されてきた歴史があり、競技においても服装に関する厳密なルールは設けられていません。選手の多くはBMXの“伝統的な服装”として定着しているジーンズとTシャツを着用しています。

しかし、日本では競技用に作られたジーンズはなく、選手はBMXの動きに適しているとはいえない市販のジーンズをはいてきました。選手はひざ当てなど、ケガ防止用のプロテクターを服の下に着用するため、オーバーサイズのものを選ばなければならず、BMX特有の複雑な動きの妨げになることもあったといいます。

■国産ジーンズ…機能性とかっこよさを追求

「競技中にケガをしても、治療費や入院費は全て選手自身が負担しなければいけませんでした。BMXを競技として発展させていくためにも選手を守る組織の必要性を感じました」そう話すのは、全日本フリースタイルBMX連盟の理事長で、東京五輪日本代表コーチも務める出口智嗣さん(43)。

出口さんは、BMXフリースタイルのプロライダーとして活躍していましたが、競技中にしたケガが原因で2006年に引退。出口さんによると、BMXは当時、競技として確立されていなかったため、選手をサポートする体制が整っていなかったといいます。

出口さんは、遊びとして定着していたBMXを競技として確立していくことや、選手が安心して競技に臨める環境づくりを目的として、2016年に連盟を設立しました。その時に掲げたプロジェクトのひとつが、専用ジーンズの開発でした。

「BMXフリースタイルは、ケガと隣り合わせの危険を伴う競技です。選手は音楽を聴くなどあらゆる面でモチベーションを高めます。ファッションもそのひとつで、機能性を備えたかっこいいジーンズを作り、選手を精神面からもサポートしたいという思いがありました」

出口さんは、現役時代の活動をサポートしてくれた恩返しをしたいとの思いから、連盟の拠点を地元・岡山県に置きました。岡山県は国産ジーンズの産地として有名だったこともあり、出口さんは、ジーンズの開発にあたり「組まない手はない」と、岡山県に本社を置くジーンズメーカーに協力を呼びかけました。2019年、呼びかけに賛同した、ビッグジョン、ブルーサクラ、豊和の3社と連盟による共同開発がスタートしました。

■ウエスト部分は「ゴム」…速乾性を重視

ジーンズは、出口さんのライダーとしての経験や、現役選手の要望を反映する形で約9か月かけて開発され、2019年10月に完成。ジャパンとジーンズの頭文字を取り「J」と名付けられました。

「ファッション性」と「機能性」を併せ持った「かっこいいジーンズ」がコンセプトの「J」。BMX特有の動きに適した伸縮性に優れた生地を選び、色は選手に人気の黒を採用。ウエスト部分にはゴムを使用し、ベルト代わりになる紐を内蔵することで動きやすさを追究しました。

ジーンズの強度を高めるために使われているリベットという金具は、転倒時の痛みやケガにつながる可能性があることから、赤い糸を使い日の丸をイメージした縫製に変えられ、ジーンズの特徴のひとつでもある革パッチも、赤と白で日の丸をイメージしたデザインになっています。

また、ジーンズは乾かすのに時間がかかり、遠征時の洗濯が大変という選手の声に応えるため、速乾性も備わっています。

■6月中にも代表選手のもとへ

東京五輪が1年延期されたため、3社で始まったプロジェクトは今年3月にブルーサクラ1社に引き継がれる形となりました。その後、選手個別の要望を反映させる形で変更が加えられたものが、6月中にも代表選手に届けられる予定です。

BMXフリースタイル・パーク東京五輪女子代表の大池水杜選手は、「岡山の企業がいろんなアイデアを詰め込んで作ってくれた1本。たくさんの方々の気持ちが詰まったジーンズをはいて、とべるのはうれしいです」とコメントしています。

画像提供:JFBF