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“日本一”獲得した淡水魚 琵琶湖から挑戦

2021年6月22日 20:20
“日本一”獲得した淡水魚 琵琶湖から挑戦

■漁業の“負の連鎖”を断ち、好転させるために

琵琶湖で漁業に携わる中村さん。港の水揚げ量が減り、鮮魚店が買いに来てくれなくなった現状を見て、琵琶湖の魚の美味しさを伝えるため、自ら魚を販売しようと決めた。一般的に、漁師は卸売業者などに魚を卸すが、中村さんが営むオンラインショップ「中村水産」では、獲った魚を、飲食店や消費者に直接販売する。また、他の漁師から買い付けた魚も販売しているという。

「自分たちの魚さえ売れれば、本当は生きていけます。でも僕は漁協を盛り上げたい。そのためには漁師の生活が潤って、漁協に入りたいと思ってもらうことが必要です。そして水揚げ量が増えれば、それが漁協の運営費になり、設備投資もできます」

中村さんは、中村水産で開拓してきた販売先を漁協に紹介するほか、漁師から高い値段で魚を買い、高い値段で飲食店へ売ることもしているという。漁師の生活を守るためだ。

「魚屋になってみると、漁師から買い叩きたい気持ちは分かるんです。そうすれば自分の利益が増える。でもそれでは、漁師はやっていけません」

海がない滋賀県では、かつて魚といえば琵琶湖の魚を食べることが当たり前だったという。その状況に漁業者もあぐらをかいていたと、中村さんは語る。多少鮮度が悪くても、売れる土壌があったのだ。しかし時代が変わって外の魚が流通するようになり、質の低い魚は売れなくなったという。

「漁師には、良い状態で持ってきたら高く買う。その代わり鮮度が悪ければ、高い値段は付けられないと伝えています。良い状態とは、例えば水槽で泳いでいる状態ですね。海の漁協では活魚の競りも行われていますが、琵琶湖はそこまでできていなかったんです」

漁師が努力しなければ、消費者にいい魚は届かない。そのため魚の評価も上がらない。中村さんは、こうした“負の連鎖”を止め、一つのきっかけから物事をプラスに好転させたいと動く。

魚を高く買う行為は、資源を守ることにもつながる。生活が潤えば、漁師は必要以上に資源を獲らなくてもいいのだ。

「“たくさん獲って一獲千金”の時代は早く終わらせなければと思っています。獲り過ぎれば親魚がいなくなり、子もいなくなりますから、自分の首を絞めるんです。僕は漁師の先輩から『自然のサイクルの中で、われわれが頂ける限界があるんだ』と言われたことを今も覚えています」

琵琶湖では、資源を守るために魚の放流事業も行っている。獲るだけの漁師もいるが、資源を守ろうとする漁師がたくさんいるのも事実だ。中村さんは、漁師の生活を守りながら、今ある資源と付き合う方法を模索している。

■淡水魚が日本一を勝ち取った

中村さんが漁師になったのは、20才のとき。父親の漁を手伝ったのがきっかけだった。ところが、年を経るごとに魚の売り上げは目に見えて下がっていったという。「このままでは生きていけない」そう感じた中村さんは、漁業以外の収入源を増やそうと動き始めた。そして始めたのが、魚の販売だ。

東京や大阪のイベント、産直市場にも顔を出すようになった中村さんは、消費者のある反応に直面する。それが「淡水魚なんて」という言葉だった。

「消費者にそう言われて、初めて自分の立ち位置に気づいて、悔しくて。もし本当にまずいなら仕方ない。でも僕らはおいしいと思ってお刺し身で食べてるんです。『淡水魚なんて』という人に『食べたことある?』と聞くと『いや、ないけど臭いんでしょ』と返ってきて」

その悔しさがバネになった。自分にできることはないか。中村さんは、居酒屋に仲間を集めた。テーブルに広げたのが、全国の魚が集まる料理コンテスト「Fishー1グランプリ」のチラシだ。

「このメンバーなら絶対できると思った4人を集めて『東京で日本一にならへん?』と。4人は『面白そう、やったろか』と言ってくれました。みんな淡水魚の扱いには悔しい思いを持っていたんです」

出品したのは「天然ビワマスの親子丼」。強いこだわりを持って、ビワマスの刺し身で挑んだ。漬け丼では「川魚の臭いを消してきた」と言われるから、それはやらないと決めた。準備した魚はすべてメンバーで味見し、脂の乗り具合などを確認。東京に持っていく魚をチェックシートで選別したという。

蓋を開けてみれば、千食以上用意した丼ぶりが次々と売れ、店の前には長い行列ができた。そして、中村さんたちは投票でグランプリを獲得する。

「全員、うれし泣きで号泣してました。いい年した大人がこんなにうれし泣きすることなんてもうない。日本中の魚が集まる大会で1位を獲ったことで、淡水魚が本当はおいしいことが証明されたと思っています」

■仲間を増やし、港をもっと賑やかにしたい

今進めているのが、ある漁具の解禁に向けた動きだ。もともと海でアナゴを獲るために使われていた漁具で、琵琶湖では「獲れ過ぎる」との理由から、使用が禁止されている。しかし、その規制のかけ方は違うのではないかと、中村さんは考えている。

「漁師が効率良くたくさん稼げる仕組みは解禁して、獲り過ぎないように数字で規制すればいい。例えば『船一艘あたり10キロまで』と規制した方が、厳格に管理できると思うんです。そうすれば義務とされている水揚げ量の報告も、しっかり上がってくるようになる」

まずは自分たちの漁協で試験操業をさせてもらえないかと、県に打診している。効率の悪い漁法で漁師に負担をかけるのではなく、効率良く稼げる仕組みを確立させ、同時に資源管理のためのルールを厳格化するのだ。

そこには「漁師が稼げる体制をつくり、漁業をする仲間を増やしたい」という思いもある。

「生活に不安があったら、家庭のある人は転職もできないでしょう。僕も結婚したときには、漁師を辞めてサラリーマンになってくれって言われました。生活していくための基盤が必要なんです。だから、魚が買い叩かれている中でも、僕は価格を上げる決断をしました。それで漁師が稼げるようになれば、興味を持ってくれた人に声をかけられます」

漁業をやりたい人間が増えれば、港に活気が生まれる。そうすれば地域の人たちも港に立ち寄ってくれるのではないか。地域と魚が結びついた、かつての漁村の風景を取り戻し、港をもっと賑やかにしたい。仲間を巻き込みながら一つずつ、できることをやっていく。

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。