高齢者ギャンブル依存 さまよいの果て
「ギャンブル依存の弟を何とかしてほしい」テレビ局にかかってきた1本の電話から取材は、はじまりました。年金を使い果たし食べるものにも事欠く高齢男性。ギャンブル依存の果てに、患者はいま何を思うのか?
生活費をギャンブルにつぎ込む、高齢者ギャンブル依存症。
「ああああ3-7-1や、逆だよ」
良夫さん(仮名・67)は月7万5000円ほどの年金の、ほとんどをギャンブルにつぎこみます。
良夫さん「いまゼロ、金がないというか、絶対に負けられない戦いが…。ハハハ」
警備員や派遣の仕事をしてきましたが、ギャンブルが原因で妻とは離婚。5人の子どもとは音信不通に。
電気代はかろうじて払っているものの、ガスや水道は止められ、家賃は半年滞納していました。次の年金支給日まで、これでしのぎます。
良夫さん「もう14、15年ですかね。こんな状態です。後悔ばっかりですかね。死んだほうが楽なんだろうなとか思ってるんですよね」
でも…ギャンブルは?
良夫さん「生きがいですね。もう生きている証しみたいなもんでしょ」
年金の支給日。
(小走りする良夫さん)「ヨシ!」
2か月分の年金を全額借金の返済にあて、また金を借りる。この日は4万円借りました。
良夫さん「とりあえずこれで1-2-3-4」
ディレクター「先に食材を買おうみたいな気持ちはないですか?」
良夫さん「は?あっ食材、食材ね」
向かったのは、公営ギャンブルの場外発売場でした。
「3いけ!3いけ!3いけ!あららららららららら…3-4-7や…は~」
結局、4万円はすぐに使い果たしました。
そんな良夫さんを心配する、10歳年上の兄がいます。
良夫さん「おー、すごい、みそ。いやいやいや米まで。いやいやいやいや、ありがたや、ありがたや」
良夫さんの兄「札があるとすぐ」(小銭を差し出す)
良夫さん「そうそう小銭がいいよ。100円が何倍になるかなんちゃって」
こうした暮らしを長年続ける弟が心配でたまりません。適切な治療が必要とされている、ギャンブル依存症。77歳の兄は、弟に依存症を治す施設に入ってほしいと思っていました。
良夫さんの兄「依存症を治すために施設に私としては入れたほうが良いよね。だけど本人がそういうわけにはいかんでしょ」
良夫さん「やめなくちゃいけないな。本当、苦しいね」
3か月後。良夫さんと再会。
ディレクター「服変わって何か雰囲気変わりましたね」
良夫さん「でしょう、いやいや前のはもうツキがなかったんだろうな。ハハハ」
良夫さんは兄の説得を受け入れ、依存症専門の病院に通うことを決めました。生活保護を申請したため、施設に通う費用は、国から賄われます。
ディレクター「もう何年もこういう食事って」
良夫さん「ないない、もう10年以上ないんじゃない」
音信不通だった子どもたちが、お金の管理を申し出てくれたため、借金の返済にめどがつきました。買ったばかりのスマートフォンに送られてくる孫の写真が、何よりも楽しみです。生活も変わりました。
良夫さん「ソーセージから肉に替わりましたよ。ううん、にくいね。なんちゃって」
戻らない時間とお金。しかし、家族の絆は残りました。
良夫さん「人生はやっぱり本当、山あり谷あり。うん、それが人生じゃないかなって思うけどね」
2021年5月16日(日)放送 NNNドキュメント’21
『高齢者ギャンブル依存 ~さまよいの果て~』
(鹿児島読売テレビ制作)を再編集しました